プロジェクト概要

プロジェクト名

(和)ASEAN災害保健医療管理に係る地域能力強化プロジェクト(ARCH2)
(英)The Phase 2 Project for Strengthening the ASEAN Regional Capacity on Disaster Health Management(ARCH2)

対象国名

タイ、ASEAN地域

署名日(実施合意)

2021年10月19日(タイ)

協力期間

2022年1月1日から2026年3月31日

相手国機関名

タイ:国家救急医療機関、保健省
ASEAN地域:ASEAN事務局、各国保健省等

背景

近年、世界各地において自然災害発生の頻度が増加し、甚大な被害をもたらしているが、特に東南アジアは、他地域に比べても自然災害が多発し、その被害規模の大きい地域である。2004年、インドネシアのスマトラ島沖で発生した巨大地震と大津波が引き起こした未曾有の被害を契機に、東南アジア諸国連合(ASEAN)は、域内の防災及び災害対応強化のため、地域を挙げた取り組みを開始した。2005年に「ASEAN防災・緊急対応協定(AADMER)」が合意され、それに基づいて2011年にはASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)が設立された。さらに、2013年に「防災協力強化にかかるASEAN宣言」、2016年にはASEAN宣言「One ASEAN, One Response:ASEAN Responding to Disasters as One」が採択されるなど、効果的な災害対応に向けた域内連携を強化してきた。
災害医療(Disaster Health Management、DHM)は、2015年以降のASEAN保健開発アジェンダの優先課題の一つとして掲げられており、タイ国政府は、同課題の政策推進リード国として、タイ国内の災害医療体制を強化するとともに、ASEANの連携を強化し、ASEAN地域の災害対応力強化を目指している。しかしながら、ASEAN加盟国(AMS)各国の災害医療に関する理解、実施能力や受援・支援体制には、大きな格差が存在しており、また地域レベルでの連携体制の構築や仕組みづくりも推し進めていく必要があった。
一方、我が国は、自然災害多発国として、災害に対する数多くの知識や経験を有しており、国内災害への対応では、災害派遣医療チーム(DMAT)の体制を確立しているほか、国際緊急援助隊(JDR)医療チームは豊富な海外派遣実績を有している。こうした背景から、タイ国政府は我が国に対して、ASEAN地域の災害医療の連携強化に資する技術協力を要請し、2016年7月より「ASEAN災害医療連携強化プロジェクト」(ARCHプロジェクト)を開始した。
2017年の第31回ASEANサミットで採択された「災害医療に係るASEAN首脳宣言」(ALDDHM)には、ARCHプロジェクトが推進してきた、災害医療に関する地域連携の取り組みが盛り込まれ、またARCHプロジェクトが策定を支援したALDDHMの実現に向けた行動計画(POA/ALDDHM)案は、ASEAN保健大臣会合(2019年)での承認を得た。
AMSのすべてが、何らかの形態の緊急医療チームを保有し、それらの多くがすでに国境を越えた支援活動の経験を有している。大規模災害時に国境を越えて派遣される緊急医療チーム(EMT)に関しては、その標準化を図るために、世界保健機構(WHO)がEMTの必須基準を策定し、認証制度を推進している。しかしAMSの多くにとってWHOのEMT必須基準を満たすことは未だに困難で、いくつかの国々が認証に関心を示しているものの、ASEANでは唯一タイ国が認証を受けているのみである。
ARCHプロジェクトは、引き続きPOA/ALDDHMの実施を支援するために、協力期間を2021年12月まで延長し、ARCHプロジェクトが開発を支援したASEAN地域におけるEMT派遣に係る標準手順書(EMT SOP)のASEAN制度化、地域災害連携演習(RCD)の開催を通じたEMT SOPの検証、災害医療の能力開発に関する調査の実施、ASEAN災害医療学術ネットワークの設立、標準研修カリキュラムの策定、またASEAN地域の既存の強みを活かすことによる、地域取り組みを通じてAMS各国のWHO必須基準の達成を支援するとともに迅速で効果的な災害医療活動を目指すASEAN Collective Measuresなどを支援した。
また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行は、AMS各国にも大きな影響を及ぼした。災害医療が取り扱う領域には、自然災害への対応だけではなく、感染症アウトブレイクを含む緊急時の医療対応も含まれる。延長期間中の活動として、COVID-19への緊急医療対応に係るAMS間での知見の共有を行った。
2021年12月のARCHプロジェクトの終了を控え、今後より一層のPOA/ALDDHMの実践と推進に向けて、AMS各国、ASEAN事務局、JICA及び我が国の専門家によって議論がなされた。ARCHプロジェクトの支援により構築された地域連携と協働の枠組みが定着し、実災害時に確実且つ有効に機能するためには、地域調整委員会(RCCDHM)、RCDなどの継続支援、EMT SOPや地域連携ツールの引き続きの検証や改善、設立されたばかりの地域学術ネットワーク(AANDHM)の強化、各国の災害医療人材の育成が必要であることが確認された。この協議結果を踏まえ、タイ国政府から我が国に対して、ARCHプロジェクトの後継となる技術協力の要請がなされた。これを受けて、JICAは詳細計画を策定し、双方政府内の手続きを経て、2021年10月にR/D(Record of Discussion)を締結し、2022年1月より「ASEAN災害保健医療管理に係る地域能力強化プロジェクト」(ARCHプロジェクト第2フェーズ)が開始されることとなった。また本件は、「技術協力に関する日本国政府と東南アジア諸国連合との間の協定」(日ASEAN技術協力協定)に基づくASEAN公式案件としても位置づけられている。
ARCHプロジェクト第2フェーズでは、日本とASEANの災害医療人材の交流や知識の共創を促進し、RCCDHMやRCDの開催支援、AANDHM、ASEAN災害医療学会の開催、学術誌の創刊、標準カリキュラムに基づいた研修開催支援、AMS各国によるピアレビュー活動を通じた相互支援の促進、迅速で効果的な災害医療活動実現のための地域取り組みの構築などが計画されている。
なお、我が国は、2013年の日ASEAN特別首脳会議で採択された「日ASEAN友好協力に関するビジョン・ステートメント」において、「貧困を撲滅し、気候変動、災害、都市化及び高齢化社会に起因する問題に対処するために協力を強化する」ことを通じて、人材育成を促進し、社会経済及び環境問題を克服することに貢献することを表明している。本事業は、災害医療にかかるASEAN地域の連携強化を目指すものであり、これらの方針と合致するとともに「対タイ王国国別開発協力方針(2020年2月)」の重点分野の一つである「(2)ASEAN域内共通課題への対応」の中の協力プログラム「ASEAN・メコン地域連結性強化、格差是正プログラム」にも位置付けられ、「(3)第三国支援の実施」にも貢献する。また、SDGsゴール3「健康な生活の確保、万人の福祉の促進」に寄与するほか、ASEAN域内の第三国への支援や災害医療の課題における日タイ及び日ASEANの連携による取り組みの強化は、ゴール17「持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」にも貢献するものである。

目標

上位目標

ASEANにおいて災害に強い保健医療システムが確立される。

プロジェクト目標

ASEANにおいて災害保健医療管理に係る地域能力が強化される。

成果

1.災害保健医療管理にかかる地域協働枠組みが強化される。
2.災害保健医療管理の枠組みや概念がASEAN各国の法制度に統合される。
3.災害保健医療管理に関するナレッジ・マネジメントが強化される。

活動

成果1関連

1-1.災害医療管理地域調整会議を定期的に開催する。
1-2.ASEAN各国国際緊急医療チームのSOPを定期的に見直し、地域連携合同演習もしくは実災害において試行運用し、必要に応じて改訂する。
1-3.緊急医療チームのデータベースを開発し、毎年更新する。
1-4.ASEAN各国国際緊急医療チームのASEAN集団的措置を開発する。
1-5.地域連携合同演習を毎年実施する。

成果2関連

2-1.ASEAN各国の緊急医療チーム総合情報を開発し、定期的に見直し、地域連携合同演習で試行運用し、更新する。
2-2.ASEAN各国の災害保健医療管理にかかる国家政策、戦略、手順書を調査し、評価するとともに提言を行う。
2-3.ASEAN各国の災害保健医療管理にかかる教育研修体制を調査し、評価するとともに提言を行う。

成果3関連

3-1.災害保健医療管理にかかる基礎コース及び調整コースの標準教育カリキュラムを開発する。
3-2.活動3-1で開発したカリキュラムに即したeラーニング教材を開発する。
3-3.ASEAN構成国の複数の国において、活動3-1で開発したカリキュラムに即した現地国内モデル研修を開催する。
3-4.ASEAN域内の教育機関と協同し、活動3-1で開発したカリキュラムに即した地域モデル研修を開催する。
3-5.ASEAN学術教育機関のネットワークを設立する。
3-6.2年に1回、災害保健医療管理にかかる地域学術会議を開催する。
3-7.少なくとも毎年1件の共同研究を提案し、研究を行う。
3-8.ASEAN災害保健医療管理学術雑誌/電子紀要を創刊し、年2回発行する。

投入

日本側投入

・長期専門家3名:チーフアドバイザー、災害医療連携強化、災害対応のための人材開発/業務調整
・短期専門家:災害医療調査
・研修員受け入れ:本邦研修(ASEAN構成国の災害医療関係者向け指導者研修等)
・その他:地域別研修、現地国内研修

相手国側投入

・カウンターパートの配置(タイ)、案件関連地域会議各国委員や担当窓口の配置(タイ以外のASEAN構成国)
・案件実施のためのサービスや施設、現地経費の提供