プロジェクト概要

プロジェクト名

生物循環グリーン経済実現に向けたウキクサホロビオント資源価値の包括的開拓プロジェクト

対象国名

タイ

署名日(実施合意)

2021年8月6日

プロジェクトサイト

カセサート大学(バンコク)

協力期間

2021年10月5日から2026年10月4日

相手国機関名

(和)カセサート大学
(英)Kasetsart University

日本側協力機関名

北海道大学

背景

タイは、1994年に国連気候変動枠組条約、2002年に京都議定書に批准して以来、温室効果ガス(Greenhouse Gas。以下、「GHG」という。)排出量削減の国際的責務を負っている。2011年には、気候変動の影響によるバンコク都及びチャオプラヤ河周辺における大規模洪水が発生し、経済的・社会的ダメージを受け、国内で気候変動対策の重要性が強く認識されたことから、「第12次国家経済社会開発計画(2017年度~2021年度)」において、気候変動緩和策・適応策立案のため環境省やタイ国家温室効果ガス管理機構等の能力強化の必要性を掲げた。
また、タイ政府は中進国から脱却するための国家ビジョンを定めた「Thailand 4.0」を2015年に策定し、「イノベーション」、「生産性」、「サービス貿易」をキーワードとする付加価値を持続的に創造する社会を実現するため、農業・バイオテクノロジー、未来食品(食品加工)、バイオ燃料・バイオ化学、デジタル産業等を注力領域に掲げている。更には、Thailand 4.0に沿い、地球規模課題へ対応できる経済と、革新的技術によるアグリビジネスの市場価値の向上の両立を目的とする「Bio-Circular-Green(生物循環グリーン、以下、「BCG」という。)経済政策(2021年~2026年)」を推進している。タイは2027年までにASEANにおけるBCG経済のリーダー、バイオハブになる目標を掲げており、産官学連携によりターゲット産業の競争力強化に取り組んでいる。
かかる状況のなか、2019年8月、タイ政府は我が国政府に対し、「生物循環グリーン(BCG)経済実現に向けたウキクサ-共存微生物資源価値の包括的開拓」として、低炭素・循環型成熟社会への移行促進を目的とした地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)を要請した。本事業で利活用する天然資源は、淡水性浮遊水生植物のウキクサ(サトイモ科ウキクサ亜科)であるが、ウキクサは産業廃水を養分として生育可能な植物であり、成長が早く、高いバイオマス生産能力と二酸化炭素固定能力を備えており、タイでは昔から一般的な食材として消費されてきた。植物体であるウキクサと内外に生息する微生物との共生体(ホロビオント)に着目し、各ウキクサ植物の成長速度と品質(タンパク質、デンプン含量、その他成分含量)は共存微生物の種類と数によって大きく影響を受けるため、その能力を最大化し、バイオマス燃料や石油由来製品代替としての環境配慮型素材といった多様な形で活用することで、経済成長を阻害することなくエネルギー消費及びGHG排出を抑えることが可能であることから、BCG経済の促進に貢献しうるものである。

目標

上位目標

ウキクサホロビオント資源研究センター(DHbRC)での研究活動が継続・発展し、研究がウキクサ以外の生物資源にも適用されるとともに、生物循環グリーン(Bio-Circular-Green:BCG)経済促進への貢献が認知される。

プロジェクト目標

タイ国BCG経済の実現に資するウキクサ産業技術の開発と、実用化に向けた研究開発基盤が整う。

成果

1.ウキクサホロビオント資源研究センター(DHbRC)が、カセサート大学に創設される。
2.ウキクサホロビオントコレクションが創出される。
3.ウキクサホロビオントの機能強化技術基盤が開発される。
4.ウキクサを原料とした有価物生産技術の基盤が開発される。
5.ウキクサホロビオント水質浄化システムの低炭素化効果が検証される。
6.ウキクサの農家生産支援とウキクサを活用した技術の実用化が推進される。

活動

1.DHbRCの創設:ウキクサホロビオント生物資源と関連データを管理・提供するDHbRCを創設し、ウキクサホロビオントバイオマスを生産するための植物工場をDHbRC内に設置する。
2.ウキクサホロビオントコレクションの創出:ウキクサホロビオントの調査と採取を行い、ウキクサおよび共存微生物の単離取得、保存、特徴付け、解析を実施し、それらのDNA配列データの目録を作成しDHbRCに提供する。
3.共生システムの解析と制御:ポテンシャルの高いウキクサホロビオントを選抜し、ウキクサホロビオントの大量生産を行う研究グループに提供する。ウキクサと共存微生物間の相互作用機構を解析し、ウキクサホロビオントの機能を強化する技術を開発する。
4.ウキクサ活用技術開発:(a)バイオ燃料、(b)バイオプラスチック、(c)飼料、(d)機能性食品の分野で、ウキクサを活用した技術開発を行う。
5.ウキクサ水処理システム:様々な排水を対象に、ウキクサホロビオントによる水質浄化能力、バイオマス生産能力、および温室効果ガス発生削減能力をラボレベルで評価し、選定された排水を対象に、野生のウキクサの水質浄化効果と低炭素化効果をベンチスケールで実証し、水処理システムを開発する。
6.社会実装:農家に対しウキクサ生産のための技術指導を行い、各研究グループで開発したウキクサ活用技術の炭素収支を評価する。また、ウキクサホロビオント資源の活用に関する技術マニュアルや提言書を作成し、社会実装に向けて普及・広報活動を行う。

投入

日本側投入

1.専門家派遣:(長期)業務調整、(短期)チーフアドバイザー他
2.招へい外国研究員受け入れ:(長期)ウキクサホロビオントコレクション創出、共生システムの解析と制御、(短期)成果1~6すべての研究分野
3.機材供与:液体クロマトグラフィー質量分析計(LS-MS)、ガスクロマトグラフ(GC)、PCR、植物栽培装置、微生物培養装置、メタン発酵槽、保温機、冷凍庫等

相手国側投入

1.カウンターパートの配置
2.案件実施のためのサービスや施設、現地経費の提供:プロジェクトオフィス、水道光熱費、必要な資機材(JICAからの供与機材を除く)、ローカルコスト負担