バヌアツの人命を救う

2019年6月10日

「私達がそれぞれの特別な職位の中で日々の業務を実施することは、“バヌアツの人命を救う”ことに繫がっている」
JICA Van-REDIプロジェクトが実施したレクチャーの参加者が、アンケートのコメント欄に書いた言葉です。忙しい日々のルーティン業務の中で忘れがちなことが、レクチャーによって思い起こされ、バヌアツ気象・地象災害局(VMGD)と国家災害管理局(NDMO)で働く意義が再確認されました。この参加者だけではなく、他にも同じように書いた参加者がいます。

2019年3月に開始された地震・津波・高潮情報の発信能力強化プロジェクト(JICA Van-REDIプロジェクト)は、バヌアツの首都ポートビラを拠点にVMGDとNDMOで、VMGDの地震・津波・高潮災害の観測・解析能力が強化され、VMGD及びNDMOによる防災情報の伝達体制が整備されることをプロジェクト目標に実施されています。
前回の記事で紹介した通り、バヌアツは自然災害に関して非常に脆弱で、世界で最も災害リスクの高い国にランク付けされています(注1)。2018年には、9,274回の地震を感知し、53回の火山危険情報が発出され、また3つの台風がバヌアツを襲いました。これらの自然現象と対峙しているのがVMGD57名、NDMO14名の職員です(注2)。人口約272,000人(注3)の“バヌアツの人命を救う”業務に携わっているチームの一員です。

Van-REDIプロジェクトでは、VMGD及びNDMO職員の能力とその機能強化のため、5月に2名の短期専門家を迎えました。地震解析と高潮・潮位解析の両専門家は、これまでにアジアやラテンアメリカの災害リスク管理等の同様のプロジェクトに勤務した経験や、何十年にも渡って気象庁等で勤務された経験のある方々です。
今回のバヌアツでの滞在中、今後3年の活動のためのベースライン調査が実施され、地震や潮位、機材に関するネットワーム、運営・管理、保守・調整等が確認されました。この調査のかたわら、震度(地震の揺れの強さ)の情報、潮位データ解析、各マグニチュード情報のレクチャーが実施され、合計42名のVMGD、NDMO職員が参加しました。冒頭で紹介したコメントはこれらのレクチャー後に書かれたものです。レクチャーはオープンセミナーであったため、ある職員にとっては新しい内容、またある職員にとっては既知の内容もあったようです。最後に実施したアンケートは次のような結果でした。

1)62%の参加者がレクチャーに非常に満足もしくは満足しました
2)80%の参加者が内容を理解しました
3)40%の参加者にとって新しい内容でした
4)6%の参加者にとって難解で、20%の参加者にとっては簡単でした
5)43%の参加者が、レクチャー時間が非常に短いもしくは短いと感じました

人材育成はVan-REDIプロジェクトの主要な活動であり、今後もプロジェクト期間を通じてレクチャーや研修を継続していきます。

VMGDのエスリン・ガラエビティ局長は「この地震・津波・高潮情報の発信能力強化プロジェクトを、JICAを通して実施する日本政府に、まず感謝したいと思います。バヌアツ初のこの長期人材育成プログラムは、バヌアツ気象・地象災害局(VMGD)にとってとてもタイミングの良い時期に始まりました。VMGDの地震・津波警報システム分野の将来を担うフレッシュな若い専門スタッフが採用された時期と重なっているからです。このプロジェクトは、人命を救うために革新的となるマルチ災害早期警報システムに関して、若い専門スタッフを含むVMGDメンバーの能力を強化、発展させることに繋がるでしょう」と語っています。

バヌアツ人職員だけではなくJICA専門家もバヌアツの“人命を救う”ことに協力しています。Van-REDIプロジェクトはまだ始まったばかりです。変化はすぐには現れないかも知れませんが、VMGD及びNDMOの職員が働くことの重要性を再確認できたことは、Van-REDIプロジェクトにとって、今後2022年3月まで活動を続ける上で、幸先良いスタートと言えるのはないでしょうか。

(注1)World Risk Report 2018, United Nation University
(注2)Annual Report 2018, Ministry of Climate Change
(注3)Vanuatu MINI - CENSUS REPORT, 21st July 2017

作成:シュルツ(八坂)由美(長期専門家)

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震度(地震の揺れの強さ)の情報に関するレクチャーの様子

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潮位データ解析レクチャーの様子