プロジェクト概要

プロジェクト名

(和)改正競争法に基づく競争政策施行能力強化プロジェクト
(英)Project for Improving Competition Policy and Enhancing the Effective Enforcement of Competition Law

対象国名

ベトナム

署名日(実施合意)

2019年6月25日

プロジェクトサイト

ベトナム全土(首都ハノイが中心となる)

協力期間

2019年10月1日から2022年11月30日

相手国機関名

(和)競争・消費者庁
(英)Vietnam Competition and Consumer Authority(VCCA)

日本側協力機関名

公正取引委員会

背景

(1)当該国における競争法政策及び執行実務の現状と課題

ベトナム政府は、1986年のドイモイ政策開始以降、市場経済化に対応するため各種の法整備を進めてきた。競争法は、ベトナムのWTO加盟(2007年)を契機に、市場経済に基づく経済成長の促進に不可欠な法律として2004年に制定され(以下、「2004年法」という。)、2005年7月に施行された。他方、WTO加盟以降の経済活動多様化や国際経済との統合進展を背景として法改正の必要性が生じ、2018年6月に全面的な見直しを行った改正競争法(以下、「2018年法」という。)が成立した。主要な改正点は、適用範囲の明確化、支配的地位の濫用行為、競争制限合意行為及び市場集中にかかる規制要件の変更(形式的なシェア基準から実質基準への移行)、リニエンシー制度(課徴金減免制度)の導入、競争当局の機構見直しである。また、改正競争法の成立の背景には、2016年10月のベトナムのTPP加盟に関する原則合意がある。
ベトナムにおける競争法の執行機関は、2004年法の下では、競争制限行為にかかる審査及び不公正競争行為にかかる審査・決定を行う競争・消費者庁(Vietnam Competition and Consumer Authority、以下「VCCA」という。)及び競争制限行為にかかる決定を行う競争評議会であったが、本改正により、VCCAと競争評議会は国家競争委員会(Vietnam Competition Commission以下「VCC」という)に統合され、競争制限行為及び不公正競争行為に係る審査・決定を一元的に担う組織機構が整備された。競争法に関する調査や競争政策に係る立案は、VCCの下に設置される競争審査局が担うこととなっている。
後述するJICAの支援を通じ、2018年法は、国際的な競争政策の潮流を踏まえ、複雑化するベトナム経済の実態に対応した全面改正となった。他方、上述した主要改正点のうち、競争制限的行為及び経済集中の違反認定における実質基準や、リニエンシー制度等は新たに導入された制度であることに加え、一元的な競争当局として新たに発足するVCC及び競争審査局においては、2018年法の執行に向けて主に以下の取り組みが必要となっている。
1)「実質的な競争制限効果」の評価・認定にかかる能力強化
2)リニエンシーの申請・処理対応能力強化
3)VCC及び競争審査局が適切かつ効率的に業務を進めるための当局内部手続の設計
4)上記にかかる競争法当局の職員、企業、他競争法関係者への周知・啓発
このような状況を受け、ベトナム政府は我が国政府に対し、2018年法に基づく競争政策の執行能力強化に関する本事業を要請した。
なお、新たに導入された規制要件に関する実質基準やリニエンシー制度等は、企業にとって予見可能性の高い公正・透明な運用を行なう必要がある。また、昨今では外資企業による経済集中(企業結合)に関する事案審査も実施されている。本事業を通じ、ベトナムにおける競争当局の執行能力・体制の強化を支援することは、我が国企業の投資・経済活動の予見可能性を高めることにも資する。

(2)当該国における競争法にかかる開発政策と本事業の位置づけ

中期的な経済社会の開発計画である「社会経済開発5ヵ年計画(2016-2020)」(2016年、国会承認)においては、一層の市場経済化が目標として定められ、同目標達成のために「公正で透明な競争に必要な制度整備、施策の実行」が明記されている。また、現在策定中の次期社会経済開発5ヵ年計画(2021‐2025)においても、上記政策方針は変更されない見通しである。加えて、2018年12月から発効されたCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)においても、競争政策の適切な整備・執行は加盟国の合意事項(履行義務)であり、競争政策の適切な執行は重要性・優先度の高い事項である。
本事業は、2018年法の適切な執行に不可欠な競争当局の能力・体制強化を目的としたものであり、ベトナム政府の政策方針と合致している。

(3)競争法に係る我が国及びJICAの援助方針と実績

我が国は、対ベトナム社会主義共和国国別開発協力方針(2017年12月)において、重点分野を「成長と競争力強化」、「脆弱性への対応」並びに「ガバナンス強化」と定めている。特に「成長と競争力強化」については、「市場経済システムの強化」を開発課題として設定し、市場経済制度・財政・金融改革プログラムを実施している。国際水準に合致した競争法の執行能力を強化することはベトナムの市場経済システムを強化し、公正なルールの下での経済成長を支えるものである。
JICAはこれまでに、VCCAの前身として2004年法の制定と前後して商工省傘下に発足した競争管理庁(Vietnam Competition Authority、以下「VCA」という。)の体制強化のため、2008年から2012年にかけて「競争法施行、競争政策実施キャパシティ強化プロジェクト」を通じて審査官育成等を支援した。また、2012年から2015年にかけて「競争法改正、施行能力強化支援プロジェクト」を実施して、VCAの更なる執行能力の強化に加え、2004年法の全面改正準備作業の支援を行った。更に、2016年10月のTPP原則合意を受け改正法の条文起草作業が開始されたことを受け、2017年4月から2018年3月にはフォローアップ協力を実施し、2018年法の条文起草作業に対する追加的支援を実施した。JICAの関連分野の主な協力は以下のとおり。
・「競争法施行、競争政策実施キャパシティ強化プロジェクト」(2008年9月~2012年6月)(概要:審査官育成等の法執行の基礎的能力強化を支援)
・「競争法改正、施行能力強化支援プロジェクト」(2012年7月~2015年9月)(概要:2004年法の更なる執行体制強化、法改正準備作業等を支援。)
・「競争法改正、施行能力強化支援プロジェクト」フォローアップ協力(2017年9月~2018年3月)(概要:2018年法の条文起草作業を支援。)

(4)他の援助機関の対応

オーストラリアの競争当局が、改正競争法に関連して、下位政令に関するセミナーの開催やオーストラリアにおける研修を実施している。また、競争法に関する認知度を高めるためのFAQ集の作成を行っている。オーストラリアや他国からの長期専門家の派遣はない。

目標

上位目標

ベトナムにおいて、公正かつ自由な市場競争が促進される。

プロジェクト目標

競争法がより実効的に執行されるようになる。

成果

成果1:VCCにおいて、2018年法を前提とした審査態勢が向上する。
成果2:行政機関(地方自治体を含む)、事業者及び消費者からVCCに対し、競争法違反の被疑行為に関する情報提供が活発に行われるようになる。

活動

1-1.VCCAから承継された現在の執行実務をレビューし、2018年法を前提とした実務の変更必要点や改善点を特定する。
1-2.2018年法の下での執行実務に関する内部執務要領等を作成する。
1-3.2018年法の下での執行実務に必要な研修を行う。
1-4.以下の活動により、リニエンシー制度の実施に向けた準備を行う。
1)リニエンシーに対応するための内部執務要領等を作成する。
2)リニエンシー対応の実務(プロジェクト期間中に申請・実務対応があった場合)を検証し、内部執務要領等の改善について検討する。
3)リニエンシー対応に必要な研修を行う。

2-1.以下の内容を含む啓発計画に基づき、2018年法を周知するための資料の作成を行う。
1)啓発を目的とした、2018年法における典型的な想定違反事例
2)啓発対象(行政機関、地方自治体、事業者、メディア等)別の啓発内容
2-2.2018年法を周知するための事業者、政府機関、弁護士、メディア向けのセミナーや研修を実施する。
2-3.企業向けコンプライアンスハンドブック(印刷媒体及び/又はオンライン媒体)を作成して配布するとともに、ハンドブックに基づく企業向けセミナー及び相談業務に対応するための内部研修を行う。

投入

日本側投入

1)専門家派遣:長期専門家1名、短期専門家
2)研修員受け入れ:本邦または第三国研修

相手国側投入

1)カウンターパートの配置
2)案件実施のためのサービスや施設、現地経費の提供