NDCおよびネットゼロエミッションの推進に向けた民間連携セミナー開催報告

2022年6月30日

パリ協定に基づく「国が決定する貢献」実施支援プロジェクト(以下SPI-NDC)」は2022年6月20日にホーチミン市で”Accelerating Business Engagement in the Pathway of Vietnam’s NDC and Net Zero Emission”を開催しました。

本セミナーは、ベトナム天然資源環境省(MONRE)、ベトナム商工会議所(VCCI)およびJICAの3者パートナーシップに基づく共催として、多くの民間企業を抱えるホーチミン市での開催となりました。ビジネスセクターによる気候変動緩和対策の促進を目的とした本セミナーには、ハノイより関係中央省庁に加えて、ホーチミン市や近郊の民間企業からの参加もあり、140名以上が会場に訪れました。

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開会の挨拶では、Nguyen Tuan Quang DCC局次長、VCCIのNguyen Tien Huy局長、また日本環境省の環境インフラ参事官室の西川絢子推進官からそれぞれ挨拶をいただきました。

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DCCのQuang局次長

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VCCIのHuy局長

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東京からオンラインで参加した環境省の西川推進官

続いてMONRE/DCC緩和課より、「COP26の結果およびベトナムの気候変動緩和策・オゾン層保護に関する法規定」と題する発表がなされ、参加した民間企業関係者を対象として、法整備と要件に関する説明がなされました。ベトナム国内では2020年に環境保護法が改正され、気候変動が大きくハイライトされたこと、また21年には気候変動緩和・国内炭素市場・オゾン層破壊物質の管理に関する政令6号が公布されています。本プレゼンテーションでは特に企業(事業所)のGHG排出算定報告制度と・排出削減計画と中長期的な国内制度の方向性について説明がなされました。DCC発表者からは、「今日のセミナーを受けて企業のGHG排出報告制度に向けて準備して欲しい。企業の負担となるばかりの制度ではなく、自社の排出量を知ることで炭素市場に参加できるようになる。」との期待が述べられました。

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次にSPI-NDCチーフテクニカルアドバイザーより「SPI-NDC事業における民間セクター支援」と題した紹介が行われました。ベトナム国内でのパリ協定の要件に呼応した法整備を通じた枠組み作りが進むなか、従来からの官の取組みのみならず、企業側でも排出削減をサプライチェーンの中で求められる状況下、SPI-NDC事業でも官民連携を通じた企業の取り組みの後押しを活動の柱としていることが述べられました。また、VCCIと協働して展開する民間企業向けのGHG算定報告および循環経済に関する能力研修に加えて、NDCの実施に資するJICA民間支援スキームを含めた案件発掘など、排出削減へのインセンティブ創出も検討していくことが説明されました。

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次に、民間企業による気候変動対策への取り組み事例として、ハイネケン社の既往の緩和努力とネットゼロエミッションに向けた同社の取組みに関して、Holly Bostock氏より説明がありました。
ハイネケン社のGHG排出を巡るグローバル戦略として、2030年までに全世界でScope 1と2で排出量ゼロ、2040年までにScope 3を含めてネットゼロエミッションを目指す野心的な目標をかかげています。また、ハイネケンベトナム社はハイネケン全体の世界戦略に先駆け、2025年までにScope 1-2でゼロ排出を目指すこと、既にエネルギー消費の52%を再生可能エネルギーでまかなっており、さらに増加させる予定であることなどが述べられました。

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ハイネケン社のHolly Bostock氏

続いては気候変動枠組条約(UNFCCC)アジア太平洋支部のJens Radschinski氏がオンラインで参加しました。同氏は、パリ協定6条の市場メカニズムは企業の直接投資に関連していることや、「地球規模の気候行動のためのマラケシュ・パートナーシップ(Marrakech Partnership for Global Climate Action/MPGCA)は、条約締約国と民間企業などnon-Party Stakeholdersの協働プラットフォームであり、自主的に目標設定を行う地方自治体や企業を表彰するRace to Zeroキャンペーンを実施しており、現在までに7000社以上のグローバル企業の参加を見ている点を紹介しました。また、カーボンプライシングは排出削減を効率的に実現する手法であると同時に、エネルギーセキュリティーや健康への好影響もあることが述べられました。

続く第2部は、SPI-NDCチーフアドバイザーのモデレーションのもと、民間企業3社(ハイネケン社、INSEE社、DAIKIN社)と、VCCI、DCC関係者を招いてパネル討議が行われました。

モデレーターからの質問(企業3社に対しては1)緩和やネットゼロエミッションに向けた現行の企業努力の具体の紹介、2)直面する課題、課題克服に対して政府や関係者に期待すること)に対するパネリストからの主な回答は以下の通りです。

DAIKIN(Ly Thi Phuong Trang氏)

  • ダイキン社はベトナムの長期の排出削減目標と同じく、2050年ネットゼロ目標を掲げています。同社はエアコンのライフサイクルでの排出削減につとめており、ベトナムで最も省エネのエアコンであると表彰されました。取り組みの事例として、家庭用エアコンについてより地球温室効果係数(GWP)の低いR-32冷媒の使用を推進しています。また、エアコンの効率的な使用方法など消費者行動変容にも力を入れるとともに、冷媒の再生利用や技術基準の策定等にも貢献しています。
  • 緩和対策を実施するうえでの課題としては、環境に良い製品購入・使用に対する経済インセンティブ(メリット)が無いため、消費者があえて選ばないことがあります。一方で、政令の公布等によって近いうちに状況は変わりうるとも考えています。消費者啓発や、消費者選好に影響を与える省エネ基準の設定などの誘導措置が必要ではないでしょうか。

ハイネケン社(Holly Bostock氏)

  • 現状の課題として、太陽光発電(PV)を導入しても売電に制限がかけられる状況であることや、バイオガス発電もベトナムではまだ新しい取組みの範疇です。電力購入はDPPA(Direct Power Purchase Agreements)が可能となるような制度構築が必要だと考えます。また新技術やプラクティスの導入の際には、最初から完ぺきを求めず、失敗を許容して先進事例を自ら積み上げられるような柔軟性を持たせること、また長期的な視点に立った投資が更に必要ではないでしょうか。企業側の最適化のための努力は継続されるべきであると共に、他方で需要側対策(DSM)も重要と考えています。
  • グローバルプラクティスとの対比として、ビール醸造は電気と熱を必要としますが、欧州では再生可能電力が調達しやすく、供給1社との契約で50軒の醸造所の電力が賄えた。一方、ベトナムではバイオマス由来の熱エネルギーが入手しやすいため、活用を考えていく必要があります。

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INSEE(Nguyen Thi Tron氏)

  • 同社ではSustainability Ambition 2030のもと、GHG排出削減ロードマップを作成しました。加えて石灰岩の代替材料の使用促進や、エネルギー消費の大きい工程を精査しており、太陽光(PV)導入も検討中です。また各製品の炭素フットプリントを可視化できるようにしており、これら取り組みの結果、INSEEグループ内でもベトナムINSEE社は排出量が少ない企業となっています。
  • 現状ではセクター毎の詳細ガイドラインが不足しており、政府ガイダンスを期待しています。

続いてVCCIには企業努力・行動を支えるためのVCCIの役割に関して、DCCには法整備に続いて気候変動窓口機関が講じる次ステップについて、JICAベトナム事務所には民間企業の気候変動施策・事業を支える支援スキームに関して、モデレーターより質問がなされました。

VCCI(Pham Hoang Hai氏)

  • VCCIは今までと同じく省庁と協力して企業が参加促進に資する法的枠組みを準備すること、企業に実施のための指南書を準備し、啓発を進めていくことが可能です。VCCIが有するCorporate Sustainability Index(CSI)も企業参画の有用なツールであり、今後も官民連携協力を進めていきたいと考えています。

DCC(Luong Quang Huy氏)

  • GHG排出削減の実施には人的リソースが不可欠であると同時に、技術ガイドラインや規制の制定が直近のタスクです。エネルギートランジションに係る計画作りや廃棄物プログラム等のセクター別の戦略も今後必要になりますが、対策を支える資金源が最大の課題とは考えています。政府予算だけでは実施に難が生じる可能性が高いため、国際的な投資やアクセスが必要と考えています。

JICAベトナム 室岡直道次長

  • JICAは民間企業による施策・事業を支える支援ツールを幾つか有しています。海外投融資(PSIF)スキームを見ると、実績ベースで2021年に電力会社への25百万USD支援を講じてQuang Tri省に風力発電をサポート。ほかにも、SDG実施に日本企業の技術を導入するSDGビジネス支援プログラムもあります。また政府への能力強化と民間への支援増強を通じて民間企業の活動を排出削減に向けていきたいと考えています。
  • パリ協定が実施フェーズに移行するなかで、官民連携は実施のための重要なツールとなります。SPI-NDCがMONRE-VCCIパートナーシップの下で企業を後押しすること自体が媒体的役割を具現化しており、活動を通じた更なる連携強化を期待したいです。

最後に会場からの質疑応答の時間を設けたのち、Quang DCC局次長並びにJICAベトナム事務所次長から閉会の挨拶が述べられ、約3時間半にわたるセミナーが終了しました。

本セミナーでは、想定以上に多くの参加者にお集まりいただき、テーマに関する関心の高さが伺われました。今次参加した関係各省を含めて政府側には民間の声を聞く機会となったと同時に、SPI-NDCも本セミナーを契機として、企業研修や具体的な民間事業候補の選定などの具体の活動に繋げていく予定です。

なお、1時間59分50秒から始まるパネルディスカッション以外の部分は字幕なしのオリジナル音声(英語もしくは越語)のみとなっております。プレゼンテーションの内容については、以下の当日の発表資料をご参照ください。