企業経営者を対象とした「気候変動・サーキュラーエコノミーに関するビジネスリーダーズフォーラム」の開催

2022年10月27日

「パリ協定に基づく「国が決定する貢献」実施支援プロジェクト(以下SPI-NDC)」では、2022年10月27日にホーチミン市で、“Business Leaders Forum on Climate Change and Circular Economy”を開催しました。本フォーラムは、ベトナム天然資源環境省(MONRE)、ベトナム商工会議所(VCCI)およびJICAの3者パートナーシップに基づく共催イベントとして開催されました。

ベトナムは、2050年までにネットゼロエミッションを達成することを目標に掲げており、長期目標を念頭に置いた気候変動に関する2030年目標(NDC:国が決定する貢献)も随時更新しています。これら目標の達成は、従来のように公的セクターの取組みだけでなく、実施主体となる民間企業の積極的かつ具体的な行動・参画なしには成しえません。

本フォーラムは、6月に開催した民間連携キックオフセミナーに続く次ステップとして、企業活動の意思決定者である経営層・管理職を対象として、脱炭素経営の視座から企業行動変容を喚起し、社内での行動具体化を促すべく、先駆的取組みを図る企業やプラクティスから相互学習をはかることを目的としました。当日はオンライン・オフラインを含めて100名近い参加があり、テーマに対する関心の高さが伺えました。

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冒頭、MONRE・気候変動局(DCC)のNguyen Tuan Quang局次長、及びVCCIのNguyen Tien Huy局長より、気候変動を統括する立場と国内企業を束ねる立場からそれぞれ、ベトナム政府のNDC達成に向けた取組みと、目標達成に向けた民間企業の貢献・連携の重要性が呼びかけられました。

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DCCのNguyen Tuan Quang局次長

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VCCIのNguyen Tien Huy局長

続いてMONREの気候変動対策局(DCC)緩和課より、「ネットゼロエミッションに向けたベトナムの温室効果ガス削減に関する法規定」が紹介されました。その中で、2021年に公布された「気候変動緩和・国内炭素市場・オゾン層破壊物質の管理に関する政令6号」において、企業(事業所)のGHG排出算定報告制度導入、及び将来の国内排出量取引市場の設立に関する計画が紹介されました。発表者から、これらの制度は民間企業にとって規制や制約だけでなく、ビジネス機会にもつながることがメッセージとして発信されました。

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DCC温室効果ガス排出削減およびオゾン層保護課 Luong Quang Huy課長

企業における気候変動対策は、NDCに紐づいた規制だけでなく、ファイナンシャルセクターにおけるアセット評価・投資判断材料としてもハイライトされつつあります。この点に関連し、本フォーラムではホーチミン証券取引所のTran Hong Le氏も参加し、上場企業に求められる情報開示に関する規制(Circular 96/2020/TT-BTC)が紹介され、ESG情報開示に係る国内外の動向や、開示要件のポイントについて説明がされました。特に企業のGHG排出量や削減計画など環境(E)の情報開示が、重要な要素となることなどが強調されました。

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ホーチミン証券取引所、上場・開示部Tran Hong Le氏

続いて、SBTi(Science Based Targets イニシアティブ)及びその主催団体の一つである国際NGO、CDPに所属するDedy Mahardika氏より、企業に対し、パリ協定で定められる目標(世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比べ、2度または1.5度に抑える)に向けて、科学的知見と整合した削減目標を設定することを推進するSBTiの活動、及びそれに取り組む企業の動向について紹介が行われました。

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Science Based Targetsイニシアティブ、東南アジア・オセアニア担当エンゲージメントマネージャーDedy Mahardika氏

その後、セメント、繊維・縫製、飲料の各部門において、ネットゼロエミッション達成に向け、ベトナム国内オペレーションにおいて先進的な取組を行っている3社から、その活動内容の紹介が行われました。

大手セメント会社であるINSEE社のNguyen Thi Tron氏からは、World Business Council For Sustainable Development(WBCS)の流れを汲んだトップリーグとしてのグローバル・セメント・コンクリート協会(GCCA)の厳格な気候変動対策要件を満たすかたちで、GHGプロトコルに準じたGHG排出量の算定・報告と、削減計画策定、様々な施策導入を継続し、セメント製造のGHG排出量原単位の削減を実現してきた経験が紹介されました。

SAITEX社のNguyen Ngoc Kim Oanh氏は、環境負荷が高いといわれるファッション産業において、GHG排出削減だけでなく、水、素材のリサイクルにも取組み、完全な循環型生産システムを構築してきた取組を紹介しました。

飲料大手であるVinaMilk社のNguyen Quoc Khanh氏からは、エネルギー消費量、GHG排出削減に加え、水、排水、廃棄物のリサイクル、プラスチック利用の削減や、土壌再生等、製品生産による環境負荷を軽減するための同社の様々な取組が紹介されました。

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INSEE社、Nguyen Thi Tron氏

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Saitex社Nguyen Ngoc Kim Oanh氏

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Vinamilk社、Nguyen Quoc Khanh氏

本フォーラムの後段は、民間企業(INSEE社、Saitex社、DAIKIN社)の代表、及びMONRE、VCCIをパネリストとして、SPI-NDCチーフアドバイザーのモデレーションのもとパネルディスカッションが行われました。

討論では特に、経営層・管理職の立場から気候変動対策に見出す付加価値・メリットや、カーボンニュートラルや排出量算定のスコープ深掘りといった野心度を高めていく取組みを講じる際に直面する課題や、企業努力を後押しする公的サポートへの期待といったテーマを中心に経験の共有と意見交換がなされました。あわせて、現状では対策は一部の先駆的企業が牽引していますが、中小企業も含めていかに多くの企業を巻き込んでいくか、包摂性への展望と課題など、重要なテーマについて議論が行われました。

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INSEE ベトナム 社本部長 Eamon Ginley氏

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ダイキンベトナム社CEO Ly Thi Phuong Trang氏

パネルディスカッション後、より多くの企業がGHG排出量の算定・報告、削減、及び資源循環への取組を実践に移せるよう、SPI-NDCプロジェクトで計画している次ステップしての実務者レベルの算定報告・緩和計画を包含した能力強化研修計画の案について、SPI-NDC専門家より紹介が行われました。

閉会の挨拶を担ったJICAベトナム事務所、久保次長からは、民間企業によってすでに自助努力でもネットゼロに向けた取組が進められていること、また今後に向けた参加企業のコミットメントの高さに感銘を受けたこと、今後に期待する旨が述べられました。

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JICAベトナム事務所、久保次長

本フォーラムの会場では、参加者の間でも活発な意見交換が行われ、異業種間での経験の共有や、協力の可能性などについて熱心に会話が自律的に行われました。民間企業にとって気候変動対策は、規制対応やリスクのみでなく、ビジネス機会にもなり得ることが共通認識となりつつあることがうかがえ、本討論会が互いにコミットメントを高める機会となったことが感じられます。

SPI-NDCでは、複数セクターの企業の実務担当者向けに具体的なスキルを習得するための能力強化を後押しする研修を展開していく予定です。