DSAPの取り組み3:ルサカ郡での母子救急搬送システム

2019年7月17日

多くの開発途上国では、今なおたくさんの新生児が尊い命を落としています。ザンビアも新生児(生まれて28日以内)死亡率がいまだに高く、2015年に生まれた645,000人のうち、13,545人が亡くなりました。つまり、新生児1,000人に対して21人が亡くなっています(注)。新生児の死亡原因として多いのは、出生時仮死、早産、新生児敗血症/感染症です。日本では亡くなる新生児が1,000人に1人いるかいないかであることを考えると、状況の違いは明らかです。ザンビアでは、お産は基本的にヘルスセンターや一次病院で行います。母体や胎児に問題が生じた場合には、郡病院、州病院、大学病院に搬送されます。しかし、明確な基準がなかったために、下位レベル施設で対応可能な8割の件数が大学病院に搬送されていました。

プロジェクトでは、カウンターパートが母子救急搬送システムを構築するための支援を行ってきました。例えば、市内の一次病院での出産で、母体や胎児に異変があったり、出産中に急変や出血が生じた場合に適時に判断をして、適切な病院へ搬送するための判断基準や手順などを記載したガイドラインを作りました。しかし、ガイドラインを作ってもそれをどのように実行するのかも大きな課題でした。特に新生児分野においては、これまで支援が少なかったこともあり多くの医療従事者の新生児ケアに関する知識・技術が不足していました。そのため、プロジェクトでは、ガイドライン作成後の2018年10月に新生児ケアのトレーニングを支援しました。

ルサカ郡保健局は、プロジェクトの支援を得て、郡内の出産施設を対象に新生児ケア、特に新生児心肺蘇生、持続的気道陽圧療法(CPAP)、カンガルーマザーケアについて、4日間の研修を実施しました。ザンビア大学付属教育病院の医師、看護師、助産師からなるザンビア新生児蘇生チームのメンバーが講師を務めました。これまでルサカ郡にある13ヶ所の出産施設から派遣された看護師、助産師が研修を修了しました。

一次病院であるチレンジェ病院の産科病棟に勤める看護師のコーマ・カロンガさんは、看護師という仕事にやりがいを感じています。彼女は、「新生児ケアトレーニングに参加したことにより、お母さんから出てきたばかりの赤ちゃんを抱える担当の看護師になる事が出来ました。新生児のアセスメントができるようになり、正常・異常を判断して適切な処置を行っています」と話します。どんな事が思い出に残っているかを尋ねた。帝王切開で赤ちゃんを取り上げた時とのこと。「あの時は、看護職として私と助産師が手術室に入りました。助産師が赤ちゃんを取り上げ、私が新生児の状態を確認したのですが、赤ちゃんはまだ泣き声をあげていませんでした。急いで赤ちゃんの肺に酸素を送り込み、肺呼吸が始まるよう促したところ、赤ちゃんが泣きだしたので、一安心しました。」

ムテンデレ・ヘルスセンターで働く助産師のカングキア・ムベキエさんは、今年助産師になったばかりです。年間約2,000件のお産があり、そのうち約300件は、近くの病院に搬送しています。「今のシフトでは、私ともう一人の助産師、あとは医師の研修生しかいません。人手が少ない中で、多くの出産を回す必要があり、一人でも多くのスタッフが技術を習得することがとても大切だと思っています。多くのヘルスセンターでは、スタッフの技術不足で対応に苦慮し、上位の病院に搬送されていきます。このヘルスセンターでは、対応できる能力が身に付いてきたことで搬送数が減ってきています。プロジェクトの10か月間の調査では、ルサカ郡でのガイドライン遵守率が20%から29%へ向上しています。「出産での重症ケースを搬送するかどうかは、ここでは助産師が決めます。瞬時の判断が求められる中で、スタッフの技術能力強化が今後も大切だと感じています」と彼女は語りました。

(注)Maternal and Newborn Health Disparities Zambia, 2018

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チレンジェ一次病院、ルサカ

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コーマ・カロンガ看護師

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カングキア・ムベキエ助産師