プロジェクト概要

プロジェクト名

(和)アフリカにおけるウイルス性人獣共通感染症の疫学に関する研究
(英)Project for the epidemiological research on zoonotic virus infections in Africa

対象国名

アフリカ(ザンビア コンゴ民主共和国)

署名日(実施合意)

2018年11月30日(ザンビア)
2019年3月1日(コンゴ民)

協力期間

2019年6月24日から2024年6月23日

相手国機関名

ザンビア:ザンビア大学獣医学部(UNZA-SVM)
コンゴ民:国立生物医学研究所(INRB)

日本側協力機関名

北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター

背景

エボラウイルス病(以下、「EVD」という)やジカ熱、高病原性鳥インフルエンザ等のウイルス性人獣共通感染症のアウトブレイクは、国境を越えた人、物の移動が増える中、世界的な流行に発展することが危惧されている。感染症拡大等の公衆衛生危機に関して世界保健機関(WHO)が各国の役割を既定した法的枠組み「国際保健規則(IHR)では、アウトブレイクを適切に探知、評価し報告する体制、すなわち感染症アウトブレイクに対する「備え(Preparedness)」の強化が求められている。
コンゴ民主共和国(以下、「コンゴ民」という)はEVD発生国であり、2018年8月には同国10度目となるアウトブレイクが発生し、社会・経済に対する大きな負担となっている。コンゴ民の国家保健開発計画(PNDS 2016-2020)では、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(以下、「UHC」という)の実現を目指し、持続可能な開発目標(以下、「SDGs」という)に沿った達成目標を掲げ、具体的な施策として、感染症や公衆衛生上の緊急事態、災害に対する保健システムの強化やサービス提供の改善、コミュニティ、地方行政、中央行政にわたるすべての保健行政機関の感染症サーベイランスに係る行政能力強化を挙げている。しかしながら、地方の医療機関ではEVDを含むウイルス性人獣共通感染症の検査室診断が実施できない場合が多く、アウトブレイクを早期に探知し、適切に対策を講じることができず、頻繁にアウトブレイクが発生している。
また、コンゴ民に国境を接するザンビア共和国(以下、「ザンビア」という)もウイルス性人獣共通感染症の脅威に曝されており、保健省は感染症対策を国家保健戦略計画の優先課題の一つに掲げ、水産・畜産省も人獣共通感染症対策の重要性を国家農業政策の中で示している。ザンビア政府は国内における包括的な感染症サーベイランス構築をめざし、ザンビア国立公衆衛生研究所(ZNPHI)を2015年に設立し、これに付随する公衆衛生検査室の整備を進めている。また、同国がアフリカ疾病予防管理センター(以下、「アフリカCDC」という)の地域検査室・サーベイランスネットワークの下で南部アフリカ地域の地域協力センター(Regional Collaborating Center)設置国に選定されたことからも、更なる研究機能の強化、人材育成が必要である。
ザンビアでは、2013年~2018年に地球規模課題対応国際科学技術協力(以下、「SATREPS」という)の枠組みで実施された「アフリカにおけるウイルス性人獣共通感染症の調査研究プロジェクト」により、ウイルス検出法の新規開発や既存の検出法の開発・改良・導入を行い、ザンビア人研究者のウイルス感染症の研究能力が大きく向上し、ウイルス検出法の確立、臨床サービスへの活用がなされた。一方で、既知のウイルスでも自然宿主や伝播経路、宿主域等解明されていないものや、病原体が特定できない発熱性疾患(未知もしくは未同定のウイルス感染症の可能性あり)も多く報告されており、これらの解明をいっそう進め、ウイルス性人獣共通感染症対策の政策、制度の構築に役立てることが求められている。
本事業では、上述のザンビアでの先行SATREPSプロジェクトを更に発展させ、動物、節足動物に加えヒトの検体も取り扱い、二か国の研究機関の疫学研究能力の強化、また、それを活用した検査室診断能力の向上を図る。疫学上重要性が高いと判断されたウイルス感染症については、そのアウトブレイクを早期に検知し適切な公衆衛生的対応を行うための政策、制度、ガイドラインの構築や、ウイルスの検出法、迅速診断法の開発・改良を行う。さらに、JICAの留学生事業「健康危機対応能力強化に向けたグローバル感染症対策人材育成・ネットワーク強化プログラム(PREPARE)」では、北海道大学獣医学部および長崎大学熱帯医学研究所でコンゴ民、ザンビアだけでなくガーナやケニアからも留学生を受け入れており、本事業に従事するコンゴ民およびザンビアの研究者が日本での長期研修を通じて、PREPARE留学生と交流することが期待できる。これにより、日本国内およびアフリカ域内での感染症研究・対策人材の、国を超えた研究ネットワークの活性化、研究結果の共有が行われることで、周辺の中部および南部アフリカ、ひいては、より広域のサブサハラアフリカにおける公衆衛生危機への対応能力の強化にもつながることが期待される。

目標

上位目標

コンゴ民およびザンビアにおけるウイルス性人獣共通感染症に対する備え(preparedness)が強化される。

プロジェクト目標

コンゴ民およびザンビアにおいてウイルス性人獣共通感染症に対する疫学研究機能が強化される。

成果

成果1:ヒトの生体試料等を用いたウイルス性人獣共通感染症の検査室診断機能が強化される。
成果2:家畜・家禽、野生動物、節足動物、ヒト等が保有するウイルス感染症の感染状況、自然宿主、宿主域、伝播経路等の疫学研究能力が強化される。
成果3:疫学的に重要な既知および新規の人獣共通感染症ウイルスの検出法が開発・改良される。
成果4:国内および国際的なウイルス性人獣共通感染症の研究、教育のネットワークが強化される。

活動

成果1

1-1.エボラウイルス病(EVD)疑い患者に対して迅速診断キット(QuickNaviTM-Ebola)を用いた一次診断を実施する。
1-2.成果3で確立・改良した人獣共通感染症ウイルス検出法をプロジェクト実施機関で導入する。
1-3.上記検出法を用い、ウイルス性出血熱疑いヒト検体に対して既知の人獣共通感染症ウイルスのスクリーニングおよび次世代シークエンサーによる解析を実施し、新規ウイルスを含む原因ウイルスを特定する。
1-4.ヒト血清を用いて人獣共通感染症ウイルスの伝播や感染状況把握のための血清疫学的調査を実施する。
1-5.検査室診断の結果を医療機関、行政機関などの関係機関にタイムリーに共有される仕組みを構築する。

成果2

2-1.成果1のヒトのウイルス性人獣共通感染症の検査室診断情報に基づいて発生地域に疫学チームを派遣し、家畜・家禽や野生動物、節足動物等の検体採取を実施する。
2-2.定期的に家畜・家禽、野生動物、節足動物等の検体の採取を実施する。
2-3.成果3で確立・改良した方法を用い、家畜・家禽、野生動物、節足動物等の検体に対して既知の人獣共通感染症ウイルスのスクリーニングおよび次世代シークエンサーによる解析を実施し、新規ウイルスを含む原因ウイルスを特定する。
2-4.家畜・家禽、野生動物、節足動物、およびヒト(活動1-3)から特定された既知、新規のウイルスに対して、遺伝子解析や進化系統解析を実施するとともに増殖性、病原性等の性状解析を行い、病原体としてのリスク評価を実施する。
2-5.必要に応じて、検出されたウイルスの感染モデル動物の確立を試みる。
2-6.家畜・家禽、野生動物、節足動物等の検体に対して血清疫学調査を実施し、成果1でのヒト検体を用いた調査結果を合わせて、人獣共通感染症ウイルスの感染状況、自然宿主、宿主域、伝播経路等を解析する。

成果3

3-1.迅速診断キット(QuickNaviTM-Ebola)を用いたEVD診断に係わる臨床データを蓄積すると共に、コンゴ民および周辺国での適用を念頭に置いた改良(感度・特異度の更なる向上やマールブルグウイルスの追加など)を必要に応じて実施する。
3-2.フィロウイルス、クリミア/コンゴ出血熱ウイルス、リフトバレー熱ウイルス等の主要な人獣共通感染症ウイルスの検出法を確立、必要に応じて改良する。
3-3.コンゴ民およびザンビアで検出された重要な既知または新規の人獣共通感染症ウイルスに対する遺伝子組み換えタンパク質およびモノクローナル抗体を作出し、抗体検出法および迅速診断キットを開発する。
3-4.次世代シークエンサーの条件検討およびバイオインフォマティクスに基づくウイルス遺伝子の網羅的検出法の改良を行い、プロトコルとして確立する。
3-5.新規に開発した人獣共通感染症ウイルスの抗体検出法および迅速診断キットをコンゴ民およびザンビアの研究機関、臨床機関で診断補助として試験導入し、感度、特異度、運用性等の臨床性能を評価する。

成果4

4-1.コンゴ民、ザンビアそれぞれで、ウイルス性人獣共通感染症に係わる関係機関(研究機関、医療機関、行政機関等)と勉強会、ワークショップ、研修会等を開催する。
4-2.コンゴ民、ザンビア、日本のプロジェクト実施機関が国際共同研究に係わる進捗、成果などの情報共有やディスカッションを行う科学研究会(Scientific Meeting)を定期的に開催する(うち数回は国際ワークショップとして開催予定)。
4-3.必要に応じて、アフリカCDC等の開催する感染症対策に係わる会合等に出席し、情報共有や協議等を行う。

投入

日本側投入

専門家派遣

(1)チーフ・アドバイザー兼ウイルス学専門家(短期専門家)
(2)業務調整(長期専門家)
(3)ウイルス学、免疫学、疫学、病理学、分子生物学、生物情報科学、迅速診断キット開発、その他必要な専門性を有する短期専門家

本邦研修(日本での研修員の受入れ)

ウイルス学、免疫学、疫学、病理学、分子生物学、生物情報科学、その他必要な専門領域

資機材

(1)プロジェクトで実施する研究開発活動に必要な機器等
(2)プロジェクトで実施する教育活動に必要な資機材等

在外事業強化費

コンゴ民よびザンビア側負担事項以外のプロジェクト活動実施に必要な運営経費

相手国側投入

カウンターパートの配置

(1)プロジェクト・ダイレクター
(2)プロジェクト・マネージャー
(3)プロジェクトの研究活動に必要な専門性を有する研究者、技術者等

案件実施のためのサービスや施設、現地経費の提供土地、資機材、情報・データ

・事務スペース
・実験室スペース
・本事業実施機関が保有する発熱患者、家畜・家禽、野生動物、節足動物等から得られる生物資源および関連する情報・データ等

ローカルコスト

・研究者人件費、旅費・消耗品などを含む研究活動費、水道料金・電気料金・通信費などの光熱費、研究機器、機材の維持管理費など、本事業活動実施に必要な運営経費