保護者・生徒合同の第3回津波防災教育を実施しました-続・子供の安全をキーワードとした防災活動の実施-

2019年9月4日

2019年9月4日に、レオン(Leon)市のサリーナスグランデス(Salinas Grandes)地区の2つの学校にて、保護者・生徒合同の第3回津波防災教育が実施され、300名以上の保護者・生徒が参加しました。

子供の安全をキーワードに始まった津波防災教育は、第1回目は津波のメカニズム、第2回目は津波早期警報システムをテーマに実施しました。第1回目で津波の基礎知識を学び、第2回目で津波の早期警報や避難における住民の役割・行動について学んだことで、津波避難のために必要な情報は、これだけで知識としては網羅されていると言えます。しかしながら、東日本大震災をはじめ日本の津波の教訓を踏まえるとさらに重要なことがあります。それは人と人との紐帯です。

日本人専門家の説明は、まずこれまで学んできたことの復習から始めました。ニカラグア津波避難三原則(1.揺れたらすぐ避難!、2.サイレンが鳴ったらすぐ避難!、3.海岸地帯に戻らない!)の確認を行い、「これらができれば皆さんの命は津波から守ることができます。皆さんできますか?」と聞くと、みんな「できる!」と答えます。「なんだ、随分簡単じゃないか」と思った参加者もいることでしょう。そこで日本人専門家より、「では、東日本大震災の教訓は何でしょうか?」と問い掛けます。そして4つのシナリオを提示し、参加者に避難するかどうか尋ねました。これはサンフアンデルスール(San Juan del Sur)市の住民を対象に行った津波防災活動(注)と同じ手法です。

もし地震の後、一般人が海岸近くで瓦礫の下敷きになっていれば、「可能な限り」助けるというのが多くの参加者の意見です。しかし、瓦礫の下敷きになっているのが自分の家族であった場合には、「津波が来ても」助けるとみんなが言い切ります。このように、自分の命の危険を冒してでも助けたいものが家族の命なのです。
しかし、もしそのような行動を取った場合、家族全員の命が奪われてしまうことになりかねません。参加者からは、日本人専門家ならどうするのか?との質問が飛んできました。今やその答えが参加者にとって、そして彼らの家族の命を守るためにもとても大切なものとなっているのです。これを換言すれば、家族の命に危険が及びかねないと感じたその時に初めて、人として不都合な真実(海岸地帯で津波に遭遇する可能性や瓦礫の下敷きになる可能性)に目を向けられるようになっている状態とも言えます。

それに対する日本人専門家の答えは単純です。「自分も家族が瓦礫の下敷きになっていれば、津波が来るまで、或いは津波が来ても助けると思う。多分、家族と一緒に亡くなってしまうでしょう。」
何か明確な回答を期待していた参加者は困惑の表情を浮かべます。そこで続けて次のように説明します。「そのような状況に置かれたら、出来ることには限りがあります。だから、そのような状況に陥らないように事前の対策をすることが重要なのです。瓦礫の下敷きになってしまうのは、地震対策を行っていなかったからなのです。」

これは地震防災を進めるための導入です。津波から避難するためには、その前に来るであろう地震への対策も必要ですが、もしこうした導入をせずに「地震が起きると家が倒壊したり、家具が倒れたりするので、耐震補強と家具の固定をしましょう。」と言うだけだったとすると、「家が倒壊するほどの地震は起きない」「うちは大丈夫」という不都合な情報を過小評価する“正常化の偏見”が機能してしまう可能性があります。そのため、このような導入をすることが、地震対策が家族の命を守る対策という認識を抱かせ、主体的な地震対策の推進に繋がるのです。

今回はそれを実証するために、家具を固定する器具の一つであるL字金具を持参しました。「一人1セット・大人限定で配布が可能ですが、欲しい人はいますか?」と問い掛けたところ、案の定全ての大人が手を挙げてくれました。こうしたちょっとした対策をするだけで家族の命が守られるのであれば、それをしない手はありません。

一方で、無料だからとりあえずもらっておこうと考えた参加者もいるかもしれません。その場合は、L字金具をもらうだけで家具の固定には使われないでしょう。そこでもう一つの実証が必要です。日本でも確認されていますが、家具の固定が進まないのは知識不足ではなく、その行動を取ること自体がコスト(手間暇が掛かるとの認識)であるためであり、ベネフィット(効果)を認識できればその行動を取る可能性が高くなるのです。
そこで今後、各世帯でL字金具を使った家具の固定が行われ、その効果・安心感を実感したのか、更にL字金具を追加購入した世帯があるかなどを調査・フォローをしていく必要があります。

サリーナスグランデス地区における保護者・生徒合同の防災教育はひとまずこれで終了になりますが、地域の継続的な防災活動となるように、津波防災祭りとの連携を進めて保護者の巻き込みを図るなどの方策が必要です。
災害はいつ起こるか分からないため、防災活動に終わりはありません。BOSAIフェーズ2では、引き続き持続的な防災活動を推進するため、サリーナスグランデス地区における取り組みを継続していきます。

作成:川東 英治(長期専門家)

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校長先生より挨拶。活動が一区切りとなるせいか、かなり長い・熱のこもった挨拶となりました。

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授業を聞く生徒たちの様子

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授業を聞く保護者の様子

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日本人専門家による授業展開