「釜石の奇跡」の立役者である片田教授がニカラグアを訪問し、第10回津波防災祭りの準備を進めました

2020年1月11日

2020年1月4日から11日まで、「釜石の奇跡」の立役者である東京大学片田教授がニカラグアを訪問し、レオン(Leon)市サリーナス・グランデス(Salinas Grandes)地区で継続する津波防災祭りの準備を行いました。

昨年の津波祭りの様子や開始の経緯については、こちらを参照

津波防災祭りは東日本大震災が発生した2011年から始まり、今年で第10回目を迎えます。今回は10回目の節目ということもあり、盛大なイベントとなるように準備を進めていきますが、それ以上に重要視することは「継続」です。なぜなら、津波は50年100年という周期で繰り返し発生する災害であるため、こうした活動は次の津波まで継続している必要があるからです。日本では「災害は忘れた頃にやってくる」と言われますが、これは裏を返せば「過去の災害は忘れるもの」であり継続の難しさをシンプルに物語っているとも言えます。

そのための準備は津波防災祭り開始当初から進めています。まずはプロジェクトが主人公とならず、住民主導で進めること、そしてそれをサポートする市役所をプロジェクトがサポートすることで、プロジェクトに依存しない実施体制を築くように心掛けています。開始当初は試行錯誤の連続でしたが、こうした経験を経て住民の主体性が高まるとともに、市役所が予算措置を行ったり、関係機関を巻き込んだりして、実施体制の強化が図られてきました。一方で、あと半年でプロジェクトが終了し、その後も津波防災祭りが10年20年と継続していくかというと、まだまだ確信が持てません。
そこで、これまでのこうした流れを踏襲しつつ、今回はさらにプロジェクト終了後の津波防災祭りの支援体制についても、国レベルと市レベルで協議を行いました。

国レベルでは、カンターパートであるニカラグア国家災害管理・防災システム局(CD-SINAPRED)・教育省・レオン市などと継続の重要性を確認するとともに、継続のために国が果たすべき役割や、津波防災祭りを含めたコミュニティ防災活動の継続促進要因について議論が行われました。
すると関係者の一致した考えで、国がすべきはコミュニティ防災活動のグッドプラクティスの取りまとめや共有であることが確認されました。またその際は「何をしたか?」(グッドプラクティス)と同じくらい「なぜそうしたのか?」という成功要因、あるいは継続促進要因の知見の取りまとめが重要であることが確認されました。

そこで、どのような成功・継続促進要因があるのかを議論したところ、これまでの津波防災イベントやコミュニティ活動を経験する参加者からは、コンクールなどの競争要素を組み込んだイベントの方が、継続性や積極性を期待できるとの意見が挙がりました。たしかに今までも、競争要素があると大人や子供に関わらず熱中する様子を見ており、日本人関係者はその発言に納得です。
また片田教授からは、「大人が喜んだり、真剣になったりする要素が必要であり、それは大事な誰かのために何かをする時ではないか」という視点から、子供中心のイベントであることが継続促進要因になるのではと提起したところ、ニカラグア参加者も全会一致で同意していました。

さらに予算措置も重要であり、市が支援する場合には市防災担当だけではなく、市長にその必要性を理解してもらう必要があることが確認されました。レオン市においてはすでに予算措置を実施していることもあり、多くの部分はプロジェクト終了後も市役所で対応可能であるとのことでしたが、細かな備品の購入などは市の規定で出しづらいものがあることが分かり、その際は地域の一般企業を巻き込んで、行政でできない対応を補完することも確認しました。

これらの検討結果は、レオン市を訪問した際に市長にも共有しました。片田教授からは、津波防災祭りがニカラグアにおいても世界的に見ても特殊であり、誇るべき事例であることに触れつつ、10回も継続している最大の要因として市の支援があることを指摘し、その点について感謝の辞が述べられました。また、プロジェクト終了後も引き続き同祭りが実施され、ニカラグアの他地域及び世界へ普及宣伝できるように、さらなる支援の必要性とその依頼を行いました。これに対して市長からは「サリーナス・グランデス地区だけでなく、他の3つの沿岸コミュニティでも実施したい」と力強い返答を頂きました。

最後に、こうした国レベル・市レベルの協議を踏まえて、サリーナス・グランデス地区を訪問しました。片田教授は久しぶりの訪問ということもあり、その訪問前までは「継続の可能性は50%-50%」と期待と不安が入り混じる状況で、住民の意識が低下していないか心配していましたが、津波防災祭りの実施に関しては異論が出ず、どのような津波防災祭りにするかという前向きな議論が行われ、その心配は杞憂に終わりました。

今回の片田教授の訪問を受けて、サリーナス・グランデス地区における第10回津波防災祭りの準備が開始となります。
今年の津波防災祭りは4月5日(日)に開催が決定しているため、3か月後の実施と成功、さらにはその継続に向けて、プロジェクトでは引き続き現場主体の支援を継続していきます。

作成:川東 英治(長期専門家)

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国レベルでの協議の様子

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レオン市長との面談

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コミュニティでの協議の様子