遠隔地間のデザイン共創はこうして行われた-手工芸品開発とファブラボ

2023年2月18日

JICA海外協力隊の手工芸隊員である山中睦子さん(2021年度7次隊)から、ファブラボCSTに対して新たな手工芸品のパーツ生産の相談があったのは、2月8日(水)朝のことです。某国連機関から、2月21日の国王誕生日の贈答品として、トラのぬいぐるみを50体製作・納品して欲しいとの注文が、山中隊員の配属先である首都ティンプーの障害児・者職業訓練学校「ダクツォ」に行われました。そのぬいぐるみのパーツである鼻と目を、それぞれ100個と50個、ファブラボCSTの3Dプリンターで作ってもらえないかとのご要望でした。

納期まで2週間弱、しかもこれらのパーツは遅くとも16日には欲しいとのことです。ファブラボCSTの光造形式3Dプリンターを使って順調に印刷が進めば、十分に間に合います。

鼻に関しては、山中隊員を昨年12月にプンツォリンまで招いて、ファブラボCSTにおいて縫製ワークショップを開催していただいた際、私たちは相談して取りあえずのデザインデータは作っていました。しかし、目に関しては未着手の状態です。しかも、送信されてきたトラのぬいぐるみの写真だけでは、イメージはわかるものの、3Dデータ作成に必要な寸法がまったくわかりません。

そこで、プロジェクトでは、山中隊員に寸法入りの平面図を手書きでスケッチしてもらい、その写真を撮って送ってもらいました。それでも不明な点は、山中隊員とZoom会議も行い、イメージをすり合わせました。いずれも、8日(水)夕方のことです。

細部の確認を終えた私たちは、ただちに目のパーツの3Dデータ作成を開始。作成には3D CADプログラム「Fusion 360」を使用しました。そして、翌9日(木)にはデザインを完成させ、鼻と目の「印刷」を順次開始したのです。

目については、光沢のある黒のスプレーペンキを重ねて吹きつけました。鼻の方は塗装不要とのことでしたが、一度印刷してみたところ、印刷時にどうしても必要となるサポート材を、印刷終了後に除去する作業をしているうちに、鼻の縁が折れてしまうトラブルが多発しました。このため、私たちは、Fusion 360上で再度データ改編を行い、縁の部分の厚さを0.5ミリメートル増やして印刷に再挑戦しました。二回目の印刷では、縁が折れるトラブルは起こりませんでした。

こうして印刷が終わり、サポート材の除去も終わった目と鼻は、塗装やバリ取りの状況を1個ずつ目視確認し、最終的に11日(土)までにはすべて出来上がり、小袋に入れて発送準備が整いました。

週明けの13日(月)、プンツォリンからティンプーに移動予定のプロジェクト関係者に託されたパーツは、その日のうちに山中隊員のもとに届けられました。

一方、ダクツォでは、同時並行でぬいぐるみの素材であるフェルト生地などの裁断の作業が進められていました。そこに目と鼻のパーツが届き、生産は一気に本格化。山中隊員とカウンターパートは、16日(木)夕刻、見事に全50体のトラのぬいぐるみを完成させたのです。

プロジェクトでは、3Dプリントした目と鼻の現物の納品に加え、この過程で作成した3Dデータ(STLファイル)も、メール添付して山中隊員に送付しました。今後追加の生産が必要な場合は、同じく光造形方式の3Dプリンターを有するティンプーの「スーパー・ファブラボ(Jigme Namgyel Dorji Super Fab Lab)」で、出力を依頼することができるようにするためです。

製品の完成度を高めるためには、細かなパーツの品質確保と安定的な供給が必要不可欠です。今までブータンでは、それをすべて輸入品で対処しなければならず、商品開発の現場では頭痛の種となっていました。こうして国内でのパーツの生産受発注ができると、ブータン国内での商品開発の可能性は大きく広がっていくことでしょう。

【関連リンク】

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山中隊員から手描きのスケッチを送信してもらう(写真/山中睦子)

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入手できた寸法と平面図スケッチに基づいて、3Dデータを作成

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出来上がりイメージなど、テキストメッセージでは伝わりにくい情報は、Zoomを使ってすり合わせを行った

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トラの鼻のデザインデータは、あらかじめ作ってあった

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縁が破損するトラブル対策のため、厚みを増して印刷再挑戦(写真/山田浩司)

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完成品を小袋に入れて、首都への託送を手配(写真/山田浩司)

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ダクツォで仕上がったトラのぬいぐるみ(写真/山中睦子)