はじめに

私たちが行っているプロジェクトの正式名称は「参加型生物多様性保全推進プロジェクト」と言います。しかし、この名前をスペイン語にするととても長いので、スペイン語では「MAPCOBIO(マップコビオ)」という愛称で呼ぶようにしています。皆さんも、マップコビオと呼んでください。

このプロジェクトに使われている「参加型生物多様性の保全」と言う言葉は分かりにくいかと思いますが、これは「生物多様性の保全は、様々なセクターの政府、非政府機関、そして一般の市民の人々が生物多様性の保全に参加して初めて達成することができる」という前提条件によっています。ですので、生物多様性の保全により多くの機関、人々が参加することを促進するために、コスタリカの知見を応用していこう…と言う考えが含まれたものです。

マップコビオは、JICAが行ってきた従来の「日本の技術を途上国の開発に役立てる」ための技術協力とはちょっと視点の異なったプロジェクトです。
簡潔に言うならば、「コスタリカと日本が一緒になって、より多くの人に生物多様性の保全に参加してもらうことを進めていこう!!」というプロジェクトです。ちょっとかしこまった言い方をすれば、プロジェクトの目標は、「生物多様性保全の先駆的な試みが多くなされているコスタリカの知見をまとめ、それを、中米を中心とした様々な地域と共有する」ことにあります。もちろん、コスタリカの知見を「共有する」だけでなく、それらの知見を各国が自分たちの国に合うように改善したうえで、応用してもらえることを目指しています。

この「コスタリカの知見をまとめ、発信する」という目標のために、大きく分けて4つの「成果」と呼ばれる活動の柱があります。
第一の柱(成果)は、「コスタリカの経験をまとめ、知見として発信できる形にする」と言うものです。コスタリカの経験をまとめると言っても、どのような経験をまとめるのかという疑問が湧くと思います。マップコビオでは、あくまで多くの機関や人々の参加を促すための知見を引き出すことが目的ですので、それに見合った経験をまとめます。具体的に言うと、生物多様性保全に関する行政機関である「国家保全地域庁(SINAC)」が行ってきた、地域住民による生物多様性保全を促すための活動、コスタリカの国内に多くあるNGOによる生物多様性保全のための活動、環境教育に代表される、生物多様性保全に対する市民の意識を向上させるための活動、生物多様性を保全しながら地域住民の収入向上にも役立つための生産活動の経験等をまとめていこうと考えています。

参加型の生物多様性保全活動が進んでいるというコスタリカでも、さらに参加を進めるための課題は残っています。そのために、参加を促す際の障害となっているものを取り除くことが、第二の柱(成果)です。具体的には、保護区の中にある私有地で住民が行える活動の種類を現実に合わせて増やすこと、保護区のゾーニング方法も見直し、保護区の中に人が住みながら保護区の保全にも参加しやすくすること、国民がより生物多様性に興味を持ってくれるように参加型の生物多様性モニタリングを進めていくこと、などを計画しています。
第三の柱(成果)は、2008年から2011年までJICAが住民参加型の保護区管理プロジェクトを行ってきた「バラ・デル・コロラド野生生物保護区」の住民参加型管理をより一層強化していくことです。これも具体的には、生物多様性保全をより考慮に入れた生産活動の導入をすること、環境教育や参加型環境モニタリングによって住民に自分の身の回りの自然環境に興味を持ってもらうこと、また、土地所有の形態が整理されていないため、それが多くの住民の生活の妨げになっているのと同時に、森林伐採の原因にもなっています。そのため、土地所有形態の整理をしていくことなどを計画しています。
そして最後の柱(成果)は、第一の成果を中心としてまとめ、コスタリカの生物多様性保全活動を発信していくことにあります。国際会議での発表、国際セミナーの開催などの活動を考えています。

以上が、マップコビオの概要です。生物多様性の保全同様、プロジェクトの運営も、多くの人々の参加と協力が無ければ立ちいかないものだと思っています。2013年4月から2018年4月までの5年間、どうか、皆さまのご指導とご支援をよろしくお願いいたします。