プロジェクトニュース_34

2018年1月10日

参加型保全活動の経験取りまとめシリーズ 第2回 コンセッション・利用許可

自然環境保全におけるコンセッション(注1)と利用許可

国立公園や野生生物保護区などにおいて自然環境の保全は最優先事項ですが、地域住民や民間団体などによるツーリズム、林業や農牧畜、研究者などによる調査研究といった活動も、自然環境への影響を極力抑える様々な形で行われています。こうした活動を行うことによって地域社会に対して何かしらの便益があれば、国立公園や野生生物保護区は地域社会と共存関係を築くことが出来、自然環境保全はより持続可能なものとなっていきます。こうした国立公園や野生生物保護区などにおいて地域から何らかの活動に関する要請があり、それが妥当なものであると認められる場合、コスタリカではこれまでコンセッションや利用許可を与え、自然環境保全と地域経済開発の両立を図ってきました。

今回MAPCOBIOで取りまとめた参加型事例にもコンセッションと利用許可に関する事例が4つありました。今回のプロジェクトニュースではその4つの事例についてご紹介させていただきます。

1. サンタ・エレーナ雲霧林保護区管理への住民参加(利用許可)
2. タピリア野生生物保護区におけるエコツーリズム(利用許可)
3. カニョ・ネグロ野生生物保護区における淡水ミドリガメの総合管理(利用許可)
4. チリポ国立公園におけるコンセッション

(注1)コンセッションとは:ある特定の地理的範囲や事業範囲において、事業者が免許や契約によって独占的な営業権を与えられたうえで行われる事業の形態

1.サンタ・エレーナ雲霧林保護区管理への住民参加

サンタ・エレーナ雲霧林保護区はティララン山脈のトルナドーラという地域にあります。日本でも有名なモンテベルデ保護区もこの地域にあります。雲霧林は比較的標高の高い熱帯地域に発達する常緑広葉樹林で、この地域の雲霧林帯の標高はおよそ1,600m。1年を通じて深い霧に包まれ、雨も多く、林内の湿度は非常に高いです。この地域にはかつて「氷室」と形容された農場がありました。その名前が示すように気温が低く、雨も多く、加えて地形も急峻で、農牧業を営むには非常に厳しい環境でした。

やがてその農場の経営は破綻し、一帯の土地は地方銀行が所有することになりました。しかし先述の通り厳しい環境にあるため買い手がつかず、土地活用のめどが立ちませんでした。最終的に土地は農牧省に譲渡され、その後1977年にこの地に農業学校が作られました。その学校の卒業生に対して学校周辺の土地を無償貸与する等、この地域への農業定着に向けた様々な努力がなされました。しかし、やはりこの地域での農業は難しく、定着はしませんでした。

1988年、コスタリカの省庁再編成が行われました。その流れの中で、それまで農牧省が管轄していたこの地域の土地が、環境エネルギー省(Ministerio de Ambiente y Energía、以後MINAE)(当時の自然資源エネルギー鉱物省)の管轄になりました。丁度この時期コスタリカはエコツーリズムの振興に全国的に力を入れていました。こうした時代の流れを受けて、農業学校とMINAE関係者は農業学校が使用している敷地のうち、180ヘクタールをエコツーリズム用散策道の設置にあてる事を決めました。

1991年、エコツーリズム振興のための最初の土地利用許可証 (有効期間5年間)がMINAEから農業学校に対して発行されました。これを根拠として正式に散策道を設置する工事が開始されました。この工事には国内外から多くのボランティアが参加しました。悪天候で寒さも厳しい中での工事は多くの困難を伴ったといいます。しかし1992年3月、ついに念願の散策道が完成したのです。

この散策道と周辺の雲霧林管理は、農業学校とこの地域を管轄する国家保全地域庁 (以後SINAC)のアレナルテンピスケ保全地域事務所(Área de Conservación Arenal Tempisque、以後ACAT)が共同で行うこととなりました。散策道開設後、この地には多くの観光客がやってくるようになりました。観光客へのガイドや散策道の維持管理・整備などは農業学校関係者が行い、安定的な収益が得られるようになりました。

農業学校もこの頃から名称をサンタ・エレーナ技術高等学校(Colegio Técnico Profesional de Santa Elena、以後CTPSE)と改め、自然環境保全、環境教育、エコツーリズム振興に関係する分野の教育を行うようになりました。現在ではCTPSEの教員、学生たちがSINAC-ACATと共に環境教育、植林、調査研究など10のプログラムに関わり、現地の自然環境を守っています。

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サンタ・エレーナ雲霧林保護区の散策道

2. タピリア野生生物保護区におけるエコツーリズム

1980年代、コスタリカの農地開発機構(Instituto de Desarrollo Agrario、以後IDA)がプエルトビエホ・デ・サラピキという地域にあったロホマカと呼ばれる215ヘクタールの農地を購入しました。IDAはその農場に他地域から移住してくる小作農をはじめとした人々を定住させ、この地に農業を興すという目的を持っていました。そうしてこの地にやってきた人たちは、地域の農業を興そうと懸命に働きました。しかし結果的にこの地に農業はほとんど定着しませんでした。この地域は水はけが悪く、一帯の土地が頻繁に冠水してしまうため農業には向かなかったのです。

その後IDAは環境エネルギー省(MINAE)-国家保全地域システム庁(SINAC)と協議を行い、同地におけるエコツーリズムの可能性を探りました。その結果同地では非常に多種多様な動植物が確認され、またそれを育む豊かな湿地生態系が存在し、エコツーリズムとして有望な地域であることがわかりました。その中でもハラパ湖は森に囲まれた静謐な環境にある非常に美しい湖沼で、エコツーリズムの目玉となる可能性を秘めていました。

90年代に入り、この地域の農民の住民組織はSINACの中央保全地域事務所(Área de Conservación Central、以後ACC)(当時の火山帯保全地域事務所(Área de Conservación Cordillera Volcánica Central、以後ACCVC))の支援を得ながら、ハラパ湖を中心としたエコツーリズム実施のために必要な手続きや活動を行うようになりました。

その後様々な手続きを経て、ハラパ湖を中心とした地域一帯の湿地生態系の管理計画を、SINACと住民組織がともに作成し、2008年に完成させたのです。そして翌2009年にIDAからMINAE-SINACに対しロホマカの農地が移譲され、2010年にSINACから住民組織に対してエコツーリズム振興のための土地利用許可証が発行されました。そして翌2011年にMINAE-SINACは同地をタピリア野生生物保護区に指定しました。

住民組織はハラパ湖の船着き場や周辺の森の散策道の整備清掃、ガイド業などを適切に勤め、住民組織に与えられた土地利用許可証も無事に更新されています。住民組織はメンバーの離脱など様々な困難な状況を経験しつつも、現在もハラパ湖を中心に、タピリア野生生物保護区でSINACと共に活動を行っています。

【画像】

ハラパ湖

3. カニョ・ネグロ野生生物保護区における淡水ミドリガメ(注2)の総合管理

取りまとめられた経験は何も成功例ばかりではありません。次に紹介するのはどちらかと言うと、現在は成功例とは言えません。しかし、失敗例からも多くのことを学ぶことができます。そして、失敗例もそれですべてが終わったわけではなく、失敗から学び、それを次につなげ成功例とすることができます。それこそが、経験を取りまとめ、教訓を抽出することの一番の意義です。

コスタリカ北部、ニカラグアとの国境近くにカニョ・ネグロ野生生物保護区があります。この野生生物保護区は豊かな湿地生態系で知られ、ラムサール条約にも登録されており、水鳥の楽園として毎年多くのバード・ウオッチャーや観光客が訪れています。

この地にはコスタリカの先住民マレク族の居留地があり、彼らは伝統的にカニョ・ネグロの湖や湿地に生息する魚やワニなど様々な野生生物を狩猟対象としており、アカミミガメ(Trachemys属。日本ではミシシッピ・アカミミガメが知られている)もたんぱく源の一つとして利用してきました。

同地が1984年にカニョ・ネグロ野生生物保護区として指定された後も、マレク族によるアカミミガメの収穫は行われていました。それがアカミミガメの個体群の存続性や、アカミミガメやその卵を捕食している他の生物種にどれだけ影響を及ぼしているのかは大きな懸案事項でした。

環境エネルギー省 (MINAE)は1987年にコスタリカ国立大学(Universidad Nacional、以後UNA)と協定を結び、カニョ・ネグロ野生生物保護区内でアカミミガメの個体群や産卵地調査を含め、様々な学術調査を行いました。そしてカニョ・ネグロの地域住民組織(Asociación Desarrollo Integral de Caño Negro、以後 ADICN)、UNA、MINAEの3者によるアカミミガメ保全に係る覚書も取り交わされました。

アカミミガメの保全にむけた動きとして、まず1990年にアカミミガメの卵孵化センター(Centro de Incubación Controlada de Huevos de Tortuga、以後CICHT)が作られました。CICHTは国の資金で国有地に作られ、その運営管理はADICNに所属する5家族に利用許可証を付与する形で行われました。

UNAが実施した様々な調査の結果、CICTHで孵化したアカミミガメの30%を湖や湿地に戻すようにすれば、カニョ・ネグロのアカミミガメの個体群は存続が可能であるとの見込みが示されました。そして残りの70%はペット用に販売し、生計向上に役立てることが出来ます。

1991年カニョ・ネグロ内のアカミミガメの卵が収穫され、CICTHでの孵化事業が始まりました。当初はアリやアライグマなどによる食害なども多かったと言います。しかし管理方法に工夫を加え、孵化個体のデータ収集なども併せて行うなど、孵化事業は徐々に軌道に乗りました。そして1993年には先述のADICNに所属する5家族に対してCICTHの運営許可の他に、アカミミガメ卵収穫の許可証も付与されるようになりました。CICTHの規約や業務内容についても整備され、また地域の子供たち向けの環境教育なども行われるようになりました。1998年にはこのアカミミガメのプロジェクトに関わるADICNに所属している家族は11にまで増えていました。

2000年代に入ってから、CICTHの運営管理や卵の収穫などを行っていたADICNに所属する地域住民家族が中心となり、自分達の独自組織としてULIMA協会を立ち上げました。ULIMAとはこの地域に住む先住民マレク族の言葉でカメを意味します。そしてULIMA協会は2004年に正式な住民組織としての承認を得たのち、CICTHの運営管理・アカミミガメの卵の収穫に係る許可証を得て活動が行われていきました。

しかし、残念なことに順調だったULIMAの活動も2013年の許可更新の時に、環境影響評価が充分でないと言う理由で、行政監督庁から現場の政府組織であるSINACのアレナル・ウエタル・ノルテ保全地域事務所(Área de Conservación Arenal Huetar Norte、以後ACAHN)に対して一度出した許可を取り消すように指導がなされました。それを受け、ACNAHNや他の公共機関の監視のもと、1万匹以上のカメを全て放流することになったそうです。それに寄り、地元組織の重要な収入源が断たれ、また、ACAHNとの関係も以前ほど良好ではなくなってしまったとのことです。

この経験が今のところうまくいっていない原因の一つは、ACAHNとULIMAの協働が、実は組織として促進されていたのではなく、ある特定の職員のイニシアティブにより進められていたことがあるようです。それにより、行政監督省へ充分な説明ができなかったことがあるようです。現在ACAHNの内部では、今後どのようにこのイニシアティブを取り扱っていくかの議論が続いているそうです。

(注2)スペイン語の原文にしたがい淡水ミドリガメと表記していますが、本種の日本での正式名称はアカミミガメです。(幼体の通称はミドリガメ)本文中では表記をアカミミガメで統一します。

【画像】

アカミミガメの養殖槽

4. チリポ国立公園におけるコンセッション

チリポ国立公園はコスタリカ最高峰のチリポ山(標高3,820m)を擁する国立公園で、その山頂からは晴天であれば太平洋とカリブ海の両方の海岸線を望むことができます。また希少な高山植物や30以上ある氷河湖や複雑な氷食地形なども非常に見ごたえがあります。この国立公園は国家保全地域システム庁(SINAC)のアミスター・パシフィコ保全地域事務所(Área de Conservación La Amistad Pacifico、以後ACLAP)の管轄内にあり、入山者はACLAPの入山許可を得る必要があります。ここには毎年約7,000人にも上る登山客が、国内外から訪れます。

1970年代、チリポ山とその周辺のユニークな自然環境を守っていくため、地域住民や研究者、学生、国立公園サービス(当時)の職員など、様々な人々が国立公園化に向けた取り組みを進めました。そして1975年、チリポ国立公園が誕生しました。

それ以来チリポ国立公園は登山客への対応を管理計画の重点に置いて対応してきました。数多く押し寄せる登山客のコントロールを誤れば、チリポ国立公園の自然環境を守ることが困難になるからです。しかし登山客は年々増え続け、より良い国立公園サービスについての要望は高まるばかりでした。

そこで2007年からチリポ国立公園の運営管理において、必ずSINACが責任をもって実施しなくてはいけない業務(公園の管理計画策定や国立公園レンジャーの業務など)と、SINACが必ずしも直接実施する必要がない業務(山小屋の管理など)を選別し、その必須ではない業務についてはコンセッション方式でカバーするというやり方が模索されるようになりました。

地域の人々にとっても自然ガイドや登山客の荷揚げなどのサービスを提供することで収入を得ることが可能で、地域開発や地域住民の生計向上においてチリポ国立公園は非常に重要な観光資源として認知されていました。コンセッション方式はSINACと地域住民の双方だけでなく、登山客にとっても利益がある管理手法と言えます。

チリポ国立公園の周辺にはサンヘラルドデリバス、エラドゥーラ、カナンなどのコミュニティーがあります。そこの観光業関係者、荷揚げ業者、自然ガイドなどとSINACはコンセッションによるチリポ国立公園の登山関係業務管理に向けた協定を結ぶことになりました。そしてコンセッションでカバーする業務は何か、どのように管理していくのかなどを取り決める話し合い、調整が行われるようになりました。

2011年になり、地域の荷馬車組合、サンヘラルドデリバスのガイド組合、サンヘラルドデリバス統合開発組合、チリポ地方ツーリズム協議会によるコンソーシアムが立ち上げられました。多様な利害関係者による協議や調整は容易なものではありませんでした。また、コンセッションを与える事業者を選定するためには、競争入札を行う必要があります。自然環境保全と地域開発と言うことを考えたときには、可能な限り地元組織にコンセッションが与えられた方が良いのですが、一方で競争入札には地元組織のみが参加できるわけではなく、都市部の企業がコンセッションを取得し地元への経済効果が最少限になってしまうことも考えられます。そのために、様々な研修やワークショップを行い、地元組織の散策道整備や山小屋の管理運営能力の底上げを図ったそうです。

そしてコンソーシアム参加組織の努力の結果、この年に行われたチリポ山国立公園のコンセッションの競争入札に、地元のコンソーシアムが応札することが出来ました。しかしこの年も翌2012年も価格面での折り合いがつかなかったのですが、その後コンソーシアムは価格プロポーザルの積算内訳や技術プロポーザルの見直しを重ね、遂に2013年にコンセッションについての契約を結ぶことが出来たのです。

現在チリポ国立公園の登山は、以前とは比べ物にならないほど快適なものとなり、一年を通じて多くの登山客が訪れています。登山の様子はプロジェクトニュース32の記事(チリポ山(3,820m)に登ってきました。)をご覧ください。

【画像】

クレストネスとよばれるチリポ山の複雑な氷河地形

コンセッション・利用許可から得られた知見

・地域のアクターの積極的な関与
・地域のアクターへのエンパワーメントの重要性
・コンセッションや利用許可による人間活動が自然環境や生物多様性を損なわないこと
・監督省庁としてのSINACの責任及び地域住民に寄り添う姿勢
・組織内外の多様なセクターとの協働

今回ご紹介した事例は、どれも事業が軌道に乗るまでに何年もの時間がかかりました。利用許可やコンセッションを活用した保護区管理は、このように時間をかけながら、多様な関係者と共に粘り強く活動していくことが重要だということがわかります。そしてそれは住民側と行政側の両方に求められるため、どちらが途中で折れてしまっても成しえない事業です。このように複雑な手続きや困難な調整をひとつずつ乗り越えていった先に、地域社会において持続可能な保全活動を成り立たせるためのソフト面・ハード面での土台が築かれていくのです。

次回のプロジェクトニュースでは同業組合・市役所との協働をテーマにした事例をご紹介します。