全国16州母子手帳プログラムレビュー会議

2021年10月12日

2021年9月30日と10月1日の2日間、アシャンティ州において、全国16州母子手帳プログラムレビュー会議を開催しました。本会議は、2018年に開始した国家母子手帳プログラムの進捗共有、良例や課題、教訓の共有、そして、既存のリプロダクティブ・母子新生児・思春期保健・栄養プログラム(注)に戦略的に統合することで、母子手帳プログラムの持続性を確保できないかを議論することを目的に開催されました。ガーナヘルスサービス(GHS)家族保健局の職員の他、全国16州の州保健局から、州公衆衛生局長、州保健師、州栄養士が、さらにJICAガーナ事務所の他、WHO、USAIDといった開発パートナー含め、計70名余りが集まりました。

(注)ガーナは、2020年12月に発表されたGhana’s Integrated Reproductive, Maternal, Neonatal, Child, Adolescent Health and Nutrition Strategic Plan for 2020-2025に基づいて、リプロダクティブヘルス、母子保健、思春期保健、栄養プログラム、を統合したプログラムが推進されています。

会議の様子

会議1日目は、全国16州の母子手帳プログラムの進捗、良例や教訓の共有から始まりました。

首都アクラを含むグレーターアクラ州では、2018年にプロジェクトが郡講師育成研修を実施した後の保健医療従事者研修に力を入れてきました。州講師の協力を得ながら郡講師が計372人の保健医療従事者に研修を行い、さらにこの研修受講者が、それぞれの施設でオリエンテーションを実施、結果1,125人の保健医療従事者がオリエンテーションを受けました。限られた予算の中で、研修とオリエンテーションを組み合わせて実施したことで、必要な知識、技術をより多くの保健医療従事者に伝えることができたとともに、保健医療従事者の「研修を受けていないからできない」という心理的バリアが軽減し、それぞれの施設内での現任教育(On the job training)が強化されました。

ボルタ州は、研修後のモニタリング・スーパービジョンに力を入れてきました。初期の段階で、保健医療従事者の数が多い病院レベルで母子手帳が十分に活用されていないことを確認し、州内17病院の内、15病院を州講師が訪問し、モニタリング・スーパービジョンを実施しました。また、訪問だけでなく、その後電話やSNSを通じて継続的なフォローアップを実施したことで、保健医療従事者が日々抱える疑問点、問題点が適時に解決し、母子手帳記録やカウンセリング技術の改善に繋がっていきました。州講師は、継続的なモニタリングにより、保健医療従事者の知識、技術の定着を促進できることが分かり、モニタリング地域を広げていきたいと更なる意欲を示していました。

イースタン州では、州保健局長がGHS本部の承認を受けつつ州知事や州調整委員会に母子手帳の重要性、印刷の必要性を呼び掛けることで、地方自治体による母子手帳の印刷を実現しました。2019年、ウエストアキム郡が郡予算で500冊の母子手帳印刷にこぎつけ、さらに州病院等いくつかの病院でも独自予算で母子手帳を印刷しました。この実績は、他の州関係者の強い関心を引いていました。

プロジェクトが重点11郡に対し支援を行っているアシャンティ州は、11郡で実施された990名の保健医療従事者への研修、研修後のモニタリングや現場での技術指導、地域住民への啓発活動など、これまで行ってきた活動とその成果を多くの写真やデータを駆使して報告しました。

その他の州からも、各州で実施した研修、オリエンテーション、モニタリング・スーパービジョンの結果、母子手帳の配布状況、活用状況が丁寧に報告され、母子手帳が2018年からの3年間余り、各州で本格的に運用され、経験知が蓄積されていることを実感することができました。

一方、各州に共通する課題がいくつか浮彫になりました。現在、多くの母子手帳は、国レベルで調達後、州、郡、各保健医療施設へと配布されますが、調達、保管、配布手続き、運搬調整等、様々な段階の遅れが、現場での母子手帳不足に繋がります。母子手帳印刷数の確保のみならず、各レベルでの調整管理が重要になります。また、母子手帳活用といった技術面について、保健医療施設において毎年新しい職員が入ってくると同時に、経験豊富な職員が、産休や進学によって現場を離れます。タイミングによっては、経験のある職員から新しい職員への知識や技術の共有が進まず、母子手帳を正確に記入できない、栄養カウンセリングをどのように実施するべきかが分からないといった状況が生まれます。これらの課題への議論は白熱し、2日目も話し合いを続けることとなりました。

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州の成果を発表する、アシャンティ州 州栄養士オリビア・ティンポ氏

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プロジェクトの進捗、成果を報告する、萩原チーフアドバイザー

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会場入り口に置かれたプロジェクトバナー

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16州関係者と課題解決の対話を行うコフィ・イサ家族保健局長

【画像】熱心に議論する全国16州の母子手帳関係者たち

会議2日目は、GHS本部とプロジェクトから、これまでの母子手帳プログラムの全国での進捗および成果を共有しました。プロジェクトでは、全国で保健医療従事者への研修およびモニタリング・スーパービジョンを実施してきました。その結果、継続ケア完了率、産後健診受診率、出生の記録、カウンセリング技術等において、大きな改善が見られました。例えば、2019年には45%にとどまった出生日及び出生体重の記録が、2021年には全国で82%、重点11郡では93%まで改善しました。また、全国で69%、重点11郡の92%の母親が、カウンセリングで保健医療従事者からアドバイスされた内容を復唱することが出来ました。重点11郡の結果が全国より良いことは、保健医療従事者への研修と継続的なモニタリング・スーパービジョンが、保健医療従事者の知識、技術の向上、ケアの質の向上に貢献してきたことを示唆しています。

2日目の注目すべき点は、1日目に各州から挙げられた課題について、GHS本部の管理職と16州参加者で活発な議論が繰り広げられたことです。母子手帳については、2018年に妊婦及び1歳までの子どもに配布すべきという国の基準がありましたが、住民側からの強い要望により5歳未満の子どもに配布してきた郡も多くありました。その結果、国が予想していた以上に母子手帳の不足が生じていました。この問題に対応するため、GHS本部は、2022年からは、原則妊婦にのみの配布に統一することが表明されました。一方、母子手帳を持っていない5歳未満の子どもの数を調査し、余剰予算があればこれらの子どもの分も印刷し、適正配布に努めると説明がありました。母子手帳の不足を訴えるだけではなく、何冊不足しているのか、配布や管理のどこに問題があるのか、将来に向け、どのような供給体制を構築すべきなのかなど、熱のこもった議論が続きました。

また、保健医療従事者が母子手帳を活用し、母子に必要なサービスを確実に届けていくためには、定期的なモニタリング・スーパービジョンが不可欠です。限られた予算と人材を活用して、他のプログラムのモニタリングに便乗させることも推奨される一方、州の予算に盛り込み人材を配置することで、確実にモニタリング・スーパービジョンを実施、継続していくことが勧奨されました。イサ家族保健局長は、国、州、郡、すべてのレベルでのガバナンス強化とリーダーシップがあれば、透明性を確保し、説明責任を果たしながら、母子手帳プログラムを持続できることを強調し、州関係者の協力を求めました。

続いて、母子手帳を既存のリプロダクティブ・母子新生児・思春期保健・栄養プログラムに戦略的に統合するための布石として、カウンターパートが以下の技術基準書(ガイドライン)と母子手帳の活用について説明しました。

・栄養カウンセリングサービス・実施ガイドライン
・ナーチャリングケアフレームワーク(Nurturing Care Framework:既存の母子保健、栄養、児童保護、子どもへの適切な応答性を重視したケア。早期の発達支援などの個別のプログラムを統合し、母親や家族による適切な子育て、子どものケアをサポートする枠組み)
・赤ちゃんに優しい病院(Baby Friendly Hospital)イニシアチブ・ガイドライン

今後に向けて

本母子手帳レビュー会議は、2018年に母子手帳プログラム開始後の全国16州でのこれまでの成果と課題を確認し、これからの取り組みを検討する絶好の機会となりました。これまでもカウンターパートは、母子手帳プログラムの課題解決に向け、主体的に取り組んできており、本会議においても、課題解決や次のステップに繋がる重要な会議として会議プログラム準備段階から綿密な話し合いを続けてきた姿勢は、とても心強く、頼もしく感じられました。これからも、保健医療従事者がより質の高いケアを提供するためのツールとして、母子手帳がガーナ独自に発展していくことを強く期待しています。