ITデバイスとオンラインを活用したコロナ禍におけるOJTの工夫

2021年6月21日

1.OJTの概要:土地収用業務の技術能力向上実地研修

インドネシアでは、公共事業のための土地収用の実施段階の作業は、法令で定められたATR/BPN(土地空間計画省)の「タスクフォース」の職員たちによって行われます。タスクフォースは、収用対象となる土地の測量を担当するタスクフォースAと、その土地、建物等の補償対象物のデータ収集を担当するタスクフォースBの2つに分かれています。本プロジェクトの成果2では「土地収用担当職員の技能/知識が強化される」を目的に掲げ、そのための活動のひとつとして、2019年から上記のタスクフォースを対象とした研修(On-the-Job-Training:OJT)を実施しています。

OJTは、特に現地での収用リストの効率的な作成と、そのための測量・調査能力の強化を目指しています。具体的には、各タスクフォース活動のための基礎的な知識の講義に加え、新しい技術として、UAV(ドローン)による測量とGIS(地理情報システム)の活用、タブレットとモバイルシステムを用いた現地調査作業の手法を紹介しています。これらの知識・手法を活用して、法令で定められた期間内に迅速かつ確実に業務が遂行されるよう、土地収用の現場での実作業への適用を試行しています。

2.オンラインOJTの実施:実地作業をイメージできる講義

2019年度には、西ジャワ州ブカシ県、西スマトラ州、西ジャワ州の3個所のATR/BPN土地事務所に対して講義と実地でのOJTを実施しましたが、2020年のコロナウイルスの感染拡大により、OJTを含む現地での活動は困難な状況になりました。2020年11月にATR/BPNと協議し、コロナ禍においても本プロジェクトの活動を継続するために、OJTの講義化が可能な部分をオンラインで実施することを提案し、合意していただきました。実地の研修はコロナウイルス感染の状況を見ながら、再開時期を検討することとしました。

2020年度のOJTは、バンテン州、リアウ諸島州、中央ジャワ州が対象として選定され、それぞれの州土地事務所とその傘下の県、市土地事務所のATR/BPN職員に対して、オンラインでの講義を実施しました。トレーニングはそれぞれ4日間の日程で行われ、それぞれの日程と参加者数は以下のとおりでした。

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オンラインOJTの実施にあたって、本来のOJTのメリットである現場での学びが薄れることに加えて、参加者の集中力/モチベーションが持続するか、一方通行の講義になってしまわないか、という懸念がありました。こうした課題を解決するため、以下のような工夫を行いました。

・研修開始時に参加者全員の顔を画面に表示して、自己紹介を行う。
・講義の1コマを60分以内とし集中力の持続を図る。
・講義の間に短い休憩やディスカッション時間を設定することで、参加者同士の会話や参加者からの発言機会を作る。
・参加者のPCやスマートフォンに実地研修で使用するアプリケーションをインストールし実際に操作する実習を行うことで、現場での作業のイメージを持たせ、モチベーションの持続を図る。
・各コマの開始時と各日の終わりに簡単なWebアンケートを実施することで参加者に参加意識を持ってもらい、参加者の生の声を収集する。
・オンライン研修と並行して自主学習を促すための課題別のビデオ教材を作成し提供する。

オンラインOJTでは、以下の内容についてプロジェクトチームが講義を行い、その後ディスカッションを行いました。

講義

共通

本プロジェクトの説明とOJTの概要説明

タスクフォースA

UAVのデータ処理の説明と利活用事例の紹介
UAVを活用したマッピングのデモンストレーション
UAVの安全飛行ガイドラインの説明
QGIS & Qfieldの説明とデモンストレーション、実習

タスクフォースB

タブレットを用いたモバイルシステム活用の説明とシミュレーション、実習
補償調査のための現地調査項目の説明
SPI 204(補償調査基準)に基づく補償額計算の基礎知識、演算実習

ディスカッション

UAVの有用性と測量作業への適用について
モバイル端末を活用したマッピングの実現とそのために必要な機器及び基礎データについて
QGISとQfieldの適用に関する技術的な課題について
モバイルシステムの改善に関する現場からの提案について
補償調査項目ごとの調査仕様の標準化について

参加者からはディスカッションとアンケートから、以下のような意見が出ました。

・今回のオンラインOJTは、土地収用業務を遂行している参加者のニーズに適合している。
・業務をサポートするための新しい知識と技術が含まれている。
・モバイルシステムは、将来的には土地収用のタスクフォースBの業務で活用できると感じた。
・実地のOJTは、参加者にトレーニングの内容を理解させ、実際の現場での実習を通じて新技術を体験できるので、実施を期待している。

また、土地収用にかかる住民との調整や、ベースマップ作成のための技術的支援、土地の権利に関する法定図書の課題、換地や補償金、測量及び調査手法の最適な組み合わせなどに関する要望や研修への期待も寄せられました。これらについては、引き続きATR/BPNと協議を行い、OJTの内容に含めるかについての検討を行います。

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参加者と講師のディスカッション

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アプリケーション操作

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研修開始時の全体でのあいさつ

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ビデオ教材

コロナ禍前であれば、オンラインによるOJT(講義)は集合研修と比較して、参加意識が醸成されにくく、参加者同士での研鑽がむずかしく、かつ、通常業務から離れられず研修に集中できない、といった点からその効果への疑問も投げかけられたと思います。しかしながら今回多くの参加者が期間中継続して参加したこと、講師と参加者や参加者同士での質疑や議論が積極的になされたことから、こうした懸念は杞憂となりました。理由としては、上記のような工夫を行ったことに以外にも、コロナ禍以降、通常業務においてもオンラインが多用され、またオンライン会議システムの機能向上によって参加者全体がオンライン講義を受け入れやすい体制、環境が進んだことが考えられます。今回の成功体験をもとに、一層の工夫でオンラインOJTの効用向上を図り、コロナ禍においても効果的な活動の実施に努めます。

<参考>
オンラインOJTでは実施できなかった内容について、コロナ禍以前の2019年度に実施した3個所でのOJTから、UAV、モバイルシステム、GISの現地での実地研修の状況とオフライン講義風景を紹介します。

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UAV実地研修

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UAV実地研修

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モバイルシステム実地研修

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GIS研修

【画像】研修修了式

【画像】講義の様子