(和)ゴムノキ葉枯れ病防除のための複合的技術開発プロジェクト
(英)Project for Development of Complex Technologies for Prevention and Control of Rubber Tree Leaf Fall Diseases
インドネシア共和国
2021年8月5日
南スマトラ州バニュアシン県センバワ、西ジャワ州デポック
2021年12月15日から2026年12月14日
(和)インドネシアゴム研究所、インドネシア大学
(英)Indonesia Rubber Research Institute, Universitas Indonesia
理化学研究所資源科学研究センター・合成ゲノミクス研究グループ、理化学研究所光量子工学研究センター・光量子制御技術開発チーム、岐阜大学 応用生物学部
インドネシア共和国(以下、「インドネシア」という)は、タイに次ぐ世界第2位の天然ゴム生産国であり、日本の最大の輸入元国でもある。パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)の作る天然ゴムの炭素は大気環境中の二酸化炭素由来であることから気候変動対策に資することに加え、天然ゴムは伸展性や衝撃吸収性において合成ゴムより優れた性質を有する生物資源である。特に航空機のタイヤの原材料は100%天然ゴムが採用されており、交通網の発達による車両や航空機の増加に伴い、その需要は拡大傾向にある。インドネシアは、タイ、ベトナム、マレーシアと合わせると世界に流通している天然ゴムの90%以上を生産する世界最大級の天然ゴム生産国であるほか、1900年代に南米から移植された直後からゴムの育種に取り組み、現在も新たな育種を進める等、東南アジアのゴム研究をリードしている。インドネシアで育種された品種は、タイやインド、ベトナム等でも栽培されており、これらの国のゴム産業の基盤を支える役割も果たしている。
一方で、近年インドネシアではPestalotiopsis菌が主たる原因と考えられる葉枯れ病が発生し、その急速な拡大による天然ゴムの生産減が課題となっている。葉枯れ病の蔓延により、インドネシアの天然ゴム生産量は2017年の3,680,428トンから、2018年には3,630,357トン、2019年には3,448,782トンと漸減しており、天然ゴム生産を支える小規模農家の収入減や離農も懸念されている。天然ゴムはインドネシアの最も重要な輸出産品の一つであり、葉枯れ病による天然ゴムの生産減は同国の輸出産業に大きな影響を与える可能性が高い。インドネシア農業省は、葉枯れ病により同国の天然ゴム生産圃場(全体で311万ヘクタール)のうち最低でも38万ヘクタールが被害を受けると推定しており、同じく葉枯れ病の被害が確認されているマレーシア、タイと共に国際三カ国ゴム評議会(International Tripartite Rubber Council(ITRC))等において対策を議論している。このような状況の中、Pestalotiopsis菌が主たる原因である葉枯れ病の感染拡大を抑制するために、早急な対策を講じることが求められている。本事業は、Pestalotiopsis菌等のゴムノキ葉枯れ病原因菌の増殖抑制作用を有する化合物及び微生物を用いた新規殺菌剤の開発、ゲノム育種技術を用いた病害抵抗性パラゴムノキの作出、ゴムノキ病害罹患地域の早期発見技術の開発、インドネシアにおけるゴムノキ病害抑制に係わる研究開発と社会実装に向けた基盤の構築等を通じて、ゴムノキ葉枯れ病を効果的に予防対策できる複合的技術を開発し、インドネシア全国で利用できる状態となることを目指すものである。
プロジェクトが開発したゴムノキ葉枯れ病に対する複合的防除技術がインドネシア全国で利用できるようになっている。
ゴムノキ葉枯れ病を効果的に予防対策できる複合的技術が開発される。
1.ゴムノキ葉枯れ病に対する新規殺菌剤の候補たり得る化合物が開発される。
2.ゴムノキ葉枯れ病に対する新規微生物殺菌剤の候補たり得る微生物製剤が開発される。
3.ゴムノキ葉枯れ病に抵抗性のある新規のパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)クローンが作出される。
4.人工衛星およびドローンから取得したデータを用いたゴム圃場のAIイメージング解析によるゴムノキ病害罹患地域検出システムが開発される。
5.インドネシアにおける次世代のゴムノキ病害抑制に係わる研究開発および社会実装に向けた基盤が構築される。
0-1.以下の情報・データ等を取得する目的で、ゴム生産地域においてベースライン調査を実施する。ゴム生産量、ゴムノキ葉枯れ病の流行状況、営農類型ごとのゴム圃場の管理状況や現状実施されている感染予防対策、経営状況、その他必要な情報・データ等
0-2.以下の情報、データ等を取得する目的で、エンドライン調査を実施する。指標の達成状況、プロジェクトの介入効果を説明するその他の情報・データ等
1-1.日本(およびインドネシア)で殺菌剤として使用されている化合物の中から、Pestalotiopsis菌やColletotrichum菌などの葉枯れ病の原因菌となる可能性があるものの寒天培地での増殖を、90%以上抑制するものを選抜する。
1-2.活動1-1で選抜した化合物の中から、温室においてゴムノキの芽接ぎ苗を用いた試験において病原体感染抑制効果を有するものを選抜する。
1-3.活動1-2で選抜した化合物の中から、IRRI実験圃場のゴムノキ葉枯れ病罹患木に適用し落葉インデックス(ADSI)で2スコア以上の回復効果を有するものを選抜するとともに、適用方法を検討する。
1-4.殺菌剤の適用がゴムノキの病害抵抗性発現に及ぼす影響など、病害防除に係わる未同定の作用メカニズムを調査する。
1-5.実際のプロジェクト協力圃場において、候補化合物を実際の育成環境下での罹患木に適用し有効性を評価する。(注)実施地点・規模はプロジェクト開始後に科学的考察に基づいて決定する。)
1-6.活動1-5でゴムノキ葉枯れ病に対する有効性が確認された化合物が、天然ゴム乳液の特性に対して与える影響、および現在インドネシアで分離されている葉枯れ病の原因となる可能性のある病原菌が同化合物に対して薬剤耐性(AMR)を示すかどうかを、外部機関の協力を得て評価する。
1-7.最終的に選抜された化合物を殺菌剤として登録するための申請を、農業省農薬委員会に対して行う。
2-1.パラゴムノキから採取した共生微生物等の中から、ゴムノキの切葉や葉片ディスク上での葉枯病斑の形成を90%以上抑制するものを選抜する。
2-2.活動2-1で選抜した微生物の中から、ゴムノキの芽接ぎ苗を用いた試験においてPestalotiopsis菌やColletotrichum菌などの病原菌罹患木のADSIで2スコア以上の回復効果を有するものを選抜するとともに、最適な適用方法を検討する。
2-3.候補微生物株のゴムノキ葉枯れ病に対する発病抑制機構、ゴムノキ葉枯れ病の原因とされる病原菌の生活環、感染好適条件等を解析する。
2-4.殺菌剤メーカーとの協働により、微生物殺菌剤の製剤化に関する検討を実施する。
2-5.実際のプロジェクト協力圃場において、候補微生物を実際の育成環境下での罹患木に適用し有効性を評価する。(注)実施地点・規模はプロジェクト開始後に科学的考察に基づいて決定する)。
2-6.外部機関の協力を得て、候補微生物株の適用が天然ゴム乳液の特性に及ぼす影響評価を実施する。
2-7.最終的に選抜された微生物を微生物殺菌剤として登録するための申請を、農業省農薬委員会に対して行う。
3-1.IRRIで育種中の約20~200種のパラゴムノキ系統の遺伝子多型およびトランスクリプトーム解析に基づき、葉枯れ病抵抗性株作成の作成手順を決定する。
3-2.ゴムノキ葉枯れ病抵抗性を示すクローンの掛け合わせクローンに対するゲノムワイド関連解析(GWAS)等の遺伝子解析を実施し、葉枯れ病に対する抵抗性に係わるゲノム領域などの育種マーカーを特定する。
3-3.葉枯れ病抵抗性を有する新規クローン作出に向けて、活動3-2で特定した育種マーカーを指標とした交雑育種を進める。
3-4.作出した子孫個体の葉を用いて、新規クローンの切断葉やLeaf Disk等の植物体を用いた試験法による葉枯れ病抵抗性を評価する。
3-5.葉枯れ病に対する抵抗性が確認された新規クローンについて、育種による天然ゴムの特性に対する影響評価を実施する。
3-6.葉枯れ病抵抗性パラゴムノキ新規クローンの、農業省への登録に必要な情報やデータを取りまとめる。
3-7.農業省担当部局と葉枯れ病抵抗性パラゴムノキのゴム圃場への実際の適用に係わる協議を開始する。
4-1.人工衛星およびドローンが撮影したゴム圃場の画像を取得する。(人工衛星画像は購入またはオープンソースから入手し、ドローンによる画像はドローンによる実測とする。)。
4-2.取得した画像と撮影した地域の感染状況を関連付けることにより、AIイメージング解析のための教師データを作成する。
4-3.人工衛星を用いて、葉のスペクトルに基づいて感染や落葉の程度を反映するデータ(光合成低下と相関する正規化植生指標(NDVI)および分光反射指数(PRI))を計測する。
4-4.上記のデータを用いたAIイメージング解析システムを構築する。
4-5.AIイメージング解析によるゴムノキ病害罹患地域の検出試験によるシステムのパフォーマンスを評価する。
4-6.既存システムを活用して、インドネシア各地のゴム小自作農家から葉枯れ病罹患木の写真と位置情報を取得し、写真から感染度合いの定量評価を行う。
4-7.AIイメージング解析によるゴムノキ病害罹患地域情報および各地のゴム小自作農家からの感染度合いの定量化情報を、WEBサイトで提供する仕組みを双方向性の「ゴムノキ病害罹患地域検出システム」として確立し、運用マニュアルを取りまとめる。
5-1.次世代の研究リーダーとなるインドネシア人研究者を対象に、理化学研究所もしくは岐阜大学にてゲノム学、トランスクリプトーム解析、化学生物学、微生物による病害駆除、バイオインフォマティクス、画像解析技術等の先端技術に関する研修を実施する。
5-2.JICA専門家(日本側実施機関の研究者)のインドネシア渡航に併せて、上記した専門分野に関するセミナー等を開催する。
5-3.植物病害、特にゴムノキ葉枯れ病対策のインドネシア国内の関係機関(研究機関、行政機関、民間企業、農民等)を対象としたセミナーや会合等を定期的に開催する。
5-4.国際植物防疫会議や国際天然ゴム研究開発会議などの国際会議で、プロジェクトの研究成果を発表する。
5-5.成果1~成果4で開発した技術に基づき、科学的根拠だけでなく、想定されるユーザーの栽培規模や費用対効果を踏まえ、「複合的防除技術によるゴムノキ葉枯れ病制御のための戦略計画」を作成する。
5-6.プロジェクト期間終了時に、インドネシア国内のゴムノキ病害対策の関係機関を対象に、本プロジェクトの成果の普及を目的としたセミナーを開催する。
チーフアドバイザー(主席研究員)、ゲノム学、トランスクリプトーム解析、化学生物学、微生物による病害駆除、バイオインフォマティクス、画像解析技術、社会科学、その他必要な専門性を有する短期専門家
理化学研究所および岐阜大学における短期研修プログラム
必要性が確認できた場合は、同機関での長期研修プログラム(詳細は事業開始後に決定)
プロジェクトで実施する研究に必要な機器等(計算用サーバー、ドローン、マルチスペクトルカメラ、ドローン用薬剤散布装置、噴霧装置、自動気象計測装置、自動胞子計測装置、照度計、温室、植物育成チャンバー、クリーンベンチ、CO2インキュベーター、恒温槽、微生物培養機、電子天秤、凍結乾燥機、蒸留水製造装置、等)、及びプロジェクトで実施する事務作業や広報活動に必要な資機材等
プロジェクト・ダイレクター、アシスタント・プロジェクト・ダイレクター(2名)、プロジェクト・マネージャー(2名)、プロジェクト実施機関の研究者・技術者など
IRRI及びUI内事務スペース、実験・ラボスペース、IRRIセンバワ研究ステーションの実験農場、プロジェクト実施機関が保有する実験用資機材、プロジェクト実施機関間で共有可能な情報・データ等
人件費、国内旅費・消耗品(一部)などを含む研究活動費、水道料金・電気料金・通信費などの光熱費、研究機器・機材の維持管理費等、プロジェクト活動実施に必要な経常経費等