メリアのサブ検定・展示林

2017年7月18日

メリアについては、2015年12月に4ヶ所のサブ検定・展示林を整備しました。これらがプロジェクト直接管理のメイン検定・展示林と違うのは、民間の方々の土地をお借りしてそれぞれ約200本の改良メリアを植栽し、ケニア森林研究所(KEFRI)が技術指導を行いながら、基本的な管理作業はそれぞれの地主さんにお願いするという点です。地主さん達は下草刈り等の作業を自己負担で行って、それぞれのサイトが検定林や展示林としての機能を維持できるようにします。このような義務を負っていただく代わりに、5年の契約期間が終了したら、この200本の改良メリアは彼らの物になります。きちんと仕立てられたメリアの成木は、1本約1万シリング(約1万円)になりますので、単純計算では10〜15年で200万シリングの収入を得ることができるわけです。実はこれらの地主さん達はそれぞれとてもユニークなので、彼らのことを少々ご紹介したいと思います。

最初は、スイスの慈善団体が、ケニアの小中学生たちの教育をサポートするために設立した学校の校長さんです。この学校の生徒の一部は、身寄りがなかったり、家庭環境に恵まれない子供達です。この校長さんはスイス人のご婦人で、皆がママ、ママと慕う方です。緑化にも大変熱心で、自分の学校を緑でいっぱいにしたいと、校内にたくさんの木を植えています。このママに、サブ検定・展示林のお話を持って行ったところ、二つ返事で了解してくださって、展示効果が高くなるからと、国道沿いの一番良い土地を提供して下さいました。結果的に、本プロジェクト全部のサイト中、ここの成長が圧倒的に良好で、植栽後1年半にして既に美林の体裁を成しています。我々は現場に行くたびにママの熱心な手入れに感謝をするのですが、彼女は決まって「私は何も特別なことはしていません。ただ、あのメリアたちを心から愛しているだけです。」と笑顔でおっしゃいます。やっぱり、最高の肥料は愛情なのですね。脱帽です!

2番目は、日本のNGOが運営する教育施設で、こちらは日本人の方が代表です。この方は、ケニアでの慈善活動歴が非常に長く、ご夫婦で強い信念をもって数々の困難を克服しながらケニア社会にしっかりと根を張った活動を続けていらっしゃいます。我々はお会いしてお話をうかがうたびに、同じ日本人として誇りに思い、心底尊敬の念を抱かずにはいられません。この方にサブ検定・展示林のお話を持って行ったときにも快諾を頂き、条件の最も良い場所を選んで提供して下さいました。植栽後の手入れも、流石日本流と思わせるようなきめの細かい作業をしていただいた結果、全てのサイトで最も樹高の高い改良メリアが現れました。実はこの方も早くからメリアの可能性に着目され、独自に苗木を育てては地方の学校林整備に役立てていらっしゃいました。ですから、今後何らかの形で更に連携を進めることができれば、オール日本の協力としてケニアの緑化事業に大きな貢献ができる可能性を秘めています。

3番目の地主さんは、テレフォン・ファーマーです。ケニアでは、地元の農村に家屋敷や農地を残したまま、ナイロビなどの大都会で別の仕事についている地主さんのことをこう呼びます。つまり、地元の農地は親戚などに管理を任せて、報告や指示は携帯電話で行うという地主さんです。たまたまプロジェクト関係者の友人が条件の良い農地を持っていたので、お願いして土地をお借りしたのですが、やはり管理が手薄になりがちで、他のサイトの生育状況と比べると少々苦戦しています。

最後の地主さんは、本職が中学校の先生という兼業農家さんです。最初にサブ検定・展示林のお話を持って行ったときには大きな興味を示され、とんとん拍子に話が進んで具体的な場所と植栽日程を決めました。ところが、いざ植栽となって現場に行ってみたところ、誰もが目を疑う光景を目の当たりにすることになりました。約束の場所には、高さ2メートルにもなるミレット(キビ)や他の野菜類がびっしりと植わっていたのです。この地主さん曰く、「あと1か月で収穫になるから、今日のところはこれらの作物の間に改良メリアの苗木を植えてほしい。」こちらとしては、そんなことをしたら苗木は十分な日光も水分も得ることができず、大事な初期成長に悪影響が出るから、約束通りすぐに全作物を刈り取ってほしいと抗議しましたが、彼は一歩も譲りません。さんざん押し問答を繰り返したあげく、結局これも比較実験のための材料と考えようということになり、プロジェクトが折れてそのまま植栽することになりました。1ヶ月あとの農作物収穫後、現場に残されたのは、予想通り、ひょろひょろと衰弱した苗木たちでした。実は、彼の農地から25キロメートルほど離れたところに、同時期に植栽したメインサイトがあります。ここの苗木達は逞しい成長を示して、その時既に1メートルを超えるものも出ていました。数か月後のある日、彼にこのサイトの様子を見てもらったところ、彼の「やる気スイッチ」がガチンと入りました。丹念に仕立てれば、将来1本1万シリングということは200本で200万シリングです。数か月で人の背丈に育つスピードですから、10〜12年も待てば十分伐採できます。1ヵ所当たり200本のプロットを毎年作ってこれらを順繰りに回せば、毎年200万シリングの収入が得られる計算です。彼は別人のようになって、自分の他の農地を改良メリア園に変更し始めました。そして、KEFRIで改良メリア育成の研修を受け、更にスケールメリットを出すために改良メリアの苗木も作って近隣の農家にも積極的にメリアの植栽を薦めるようになりました。『百聞は一見に如かず』とはよく言ったものです。本プロジェクトとしては、彼に続く農家が次々と現れることを期待しています。

各者各様の皆さんですが、ご縁が有って一緒に仕事ができたことを心から喜び、感謝しています。

(なるみ・たけだ)

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校長のママと検定・展示林の場所を相談

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KEFRIキツイ所長とママで借地契約合意

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愛情注入1年半後のママの改良メリア美林

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日本のNGO代表の奥様と場所の相談

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日本的な細やかな管理を1年半継続後の様子

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日本人のNGO代表(中央)と現場歓談

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テレフォン・ファーマー氏の好条件農地

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努力して頂いていますが、電話管理の限界?

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実はT・F氏(左)はナイロビ博物館勤務

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赤道直下で最北のサブサイトを測量中

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話が違う、農作物を即刈取って!絶対NO!

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1ヶ月後、ほら言ったでしょ、育たないって!

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エッ、同時植栽の別のサイトはもう背丈以上!

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改心後努力の結果、成長が追付いてきた!

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攻めに転じた彼が独自に開いた新プロット