1500本の猛獣たち

2017年7月18日

このプロジェクトニュースでは、ほとんどメリア・ボルケンシー(センダンの一種)という樹種の話ばかり書いていますが、実はもう一つアカシア・トルティリスという対象樹種があります。メリアの分布域はケニア全土の約40%の範囲ですが、このアカシアは70%という広範囲に分布しています。全体活動計画通りに、100系統の優良木選定をプロジェクトの前半で済ませましたが、これらの母樹からの採種が一苦労でした。実は、このアカシアの種子はケニア中で放牧されているヤギたちの大好物なのです。実際に採種に行ったスタッフの話によると、彼が採種のために枝をゆすって種子の入ったサヤを地面に落とすと、ヤギたちがどこからともなく一斉に集まって来てみんな食べてしまうと言うのです。如何に食べられる前に採種するか、ヤギたちと死闘を繰り広げたという身振り手振りの彼の話に、我々は抱腹絶倒を禁じ得ませんでした。

まあ、本当にヤギたちの妨害のせいばかりかは定かでありませんが、年に2回ある採種のチャンスの内、最初の採種は目標量の種子を確保できませんでした。そこで、2回目はヤギたちに勝利すべく万全を期して臨み、何とか目標量近くを確保しました。これで採種はできましたが、今度は高確率で発芽させるのが一仕事です。ここで、ケニア森林研究所(KEFRI)と日本の林木育種センター(FTBC)が共同研究で培ってきた下処理技術がものを言いました。これに関しては、本プロジェクトDNAチームのオモンディ研究員(KEFRI)と花岡研究員(FTBC)が論文を発表しているほどです。そのお陰もあって、良好な発芽率を確保してかなり高い得苗率を達成しましたが、結局100系統全部をカバーすることはできず、約80系統の苗木獲得という結果になりました。

このように採種が2回にわたってしまったので、植栽も2015年12月と翌年4月の2回に分けて実施することになりました。メリアの採種園は、母樹から採取してきた接ぎ穂を別途用意した台木に接木した苗木で採種園を作ったので「クローン採種園」と言うのですが、アカシアの場合は、母樹から採取した種子を直接播種して苗木を作り、これを植栽して採種園を作るので「実生採種園(シードスタンド)」と言います。また、メリア採種園では劣勢木は植え替えによって改善していきますが、アカシア採種園の場合は同系統木4本を1組として植栽し、数年してその優劣が明確になった段階で間引き(シンニング)を実施し、優勢木だけを残して改善していく方法が取られることになりました。

本来成長の早い樹種ですが、ケニア全土から選りすぐりの優良木を選んできているので、その成長は目を見張るものがあり、半年で人の背丈を超えてしまいました。以前の回にも書きましたが、アカシアは鋭い棘を無数に持った猛獣のような樹種です。これを育成する作業は、まるで猛獣使いのような仕事です。苗木の段階のアカシアは、べたっと地面に枝を広げて、何だかただの雑草のようにも見えます。植えて1ヶ月半くらい経ったところで、暴れ放題の枝や幹を束ねながら添え木に固定して立ち上がらせるのですが、幼苗と云っても結構立派な棘で完全武装していますから、これが至難の業なのです。分厚い皮手袋をして作業に当たっても、負傷者続出。かなり強者揃いのKEFRIのフォレスター達ですが、1500本にもなるこれらの猛獣たちとの戦いには皆閉口しています。

そのような苦労が有るので、このアカシアの育種はこれまで本格的に手が付けられておらず、本プロジェクトでの取り組みが最初のものとなりました。実はこのアカシアは、乾燥にめっぽう強く、他の樹種が生息していない厳しい乾燥地にも、涼しい顔で立っています。それに、ケニア人の生活に欠かせないヤギの良い飼料となるほか、薪炭の原料や木材としての利用価値も高いと来ています。だから、その有効な育種法の確立が大いに期待されているのです。また、分布範囲はケニアだけとどまらず、地中海沿岸からアフリカ東部を経て南アフリカまで広く分布していますので、有効な育種法の確立は国境を越えた広範な地域に大きなインパクトをもたらすことになります。大きな期待を背負って、猛獣使い達は今日もアカシア採種園で格闘しています。

(なるみ・たけだ)

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アカシアの幹を揺するとヤギたち登場

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種子集めはヤギも人間も必死、こら食うな!

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発芽を促すためのアカシア種子下処理

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種子を水につけて一定温度で一定時間寝かす

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1ポットに3粒ずつ植えて発芽後に間引き

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発芽10日後には鋭い棘がキラリと現れる

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系統ごとに分類して苗木を生産

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2015年12月下旬に1回目の植栽

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植栽約1ヶ月後には横に広がり始める

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植栽3ヶ月後には花をつける苗木あり

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あまりのトゲトゲについつい及び腰で観察

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植栽5か月後にはもう背丈越え

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厚手の手袋をして及び腰で添え木固定作業

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1回目植栽直後のキブウェジアカシア採種園

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キブウェジ植栽1年後(手前:1回目アカシア、その上:2回目アカシア、更に上:メリア検定・展示林)

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キツイ植栽1年半後(既に枝が触れ合うところもあって、剪定しなければ中に入るのも一苦労)