都市再開発法成立を後押しした住民参加

2016年6月8日

モンゴル国ウランバートル市
「ゲル地区ハウジング公社」
ガンバト・バヤルトブシン(注1)

2015年6月26日にモンゴルで初めて都市再開発法がモンゴル国会により承認されました。これは2010から2013年のJICA MUGCUP事業(都市開発実施能力向上プロジェクト)を通したモンゴル建設・都市開発省、ウランバートル市、日本の3年間の協力の成果です。実は、都市再開発法案は2014年にモンゴル国会に一度提出され、議論されましたが、承認されませんでした。その理由は、都市再開発法の社会的必要性を政治家のほとんどがよく理解していなかったことだと思います。

2013〜2014年にゲル地区土地区画整理事業は次の通り進んでいました。
- ゲル地区に住んでいる数多くの地権者が土地区画整理事業のことがよく理解できるようになりました。
- ウランバートル市内のゲル地区の中で何ヶ所かの地権者が意見を合わせて地権者組合を作りました。
- その中で8ヶ所の地権者組合は、ウランバートル市のゲル地区土地区画整理事業を担当する機関である「ハウジング公社」と力を合わせて事業エリアの調査、住民向けのミーティング、勉強会を行いました。
- 8ヶ所の事業エリアの地権者の意見に基づいた土地利用計画案が作成され、その計画の案を住民に説明していました。

(注1)本寄稿は、本プロジェクトのカウンターパートの一人であるガンバト・バヤルトブシンさんからもものです(日本語で執筆)。2015年6月にモンゴルで初めての都市再開発法が成立しましたが、その成立「秘話」が書かれています。

8ヶ所の事業エリアの情報表

No. Project area location Land owner’s community name Project area /hectar/ Number of plots Total population Number of land owner’s groups
1 Bayanzurkh district
19-khoroo
“Thaiz town” 12,0 184 717 8
2 Bayanzurkh district
27-khoroo
“Dari Ekh town” 16,0 258 1161 9
3 Sukhbaatar district
13-khoroo
“Yesen Erdene” 9,7 183 732 5
4 Chingeltei district
17-khoroo
“Iveel” 9,2 96 314 5
5 Bayangol district
23-khoroo
“Shine shiidel” 10,0 168 809 8
6 Khan-Uul district
9-khoroo
“Narlag Buyant Ukhaa” 21,0 271 1547 6
7 Songino khairkhan district 11-khoroo “Ekhlel” 9,8 150 590 10
8 Songino khairkhan district 23-khoroo “Orgil” 24 313 1514 8
  Total 8 111,7 1623 7384 59

自分たちの意見に基づいた計画を実施するためには法律が必要だということがわかるようになった地権者は、都市再開発法の案を議論し承認することについて、それぞれの区域から選出された国会議員に声をかけました。
また、ウランバートル市のバトゥール市長は、自分のイニシアティブで事業エリアの地権者組合のみなさんに会う計画を立て、2015年4月28日から6月23日に7回のミーティングを行って、8ヶ所の1155人の地権者/住民とミーティングをしました。

【画像】市長とソンギノハイルハン区23ホローの「ORGIL」事業エリアの地権者組合とのミーティング。265人参加。(2015年4月28日)

市長は、希望だけで進んできたゲル地区の地権者たちに自信をつけてくれました。自分たちが正しい道を進んでいるかもわからず、決定を出す人たちが応援してくれるのかわからずに、迷ったりあきらめたりしていた人たちに市長が会って、「ゲル地区をきれいにしたいという希望をもって、力を合わせている人たちの希望を市が応援する。応援しているから地権者の意見に基づいた土地利用計画案を「ハウジング公社」が作成している。これから、この計画案をもっと改善させるのにかかる費用を市の予算から出せるようにする」と言ってくれたので、住民たちは自信を持つようになりました。

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市長とチンゲルテイ区17ホロー「Iveel」事業の地権者とのミーティング。70人参加。(2015年6月11日)

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市長と8ヶ所の事業エリアの地権者組合とのミーティング。324人参加。(2015年6月23日)

2015年6月20日の土曜日の朝、「国会議長が土地区画整理事業の現状、地権者組合の参加を見るために、8ヶ所の事業エリアのどこかに行って地権者に会ってみたいと聞いているので、2時間後にミーティングを行うことが可能ですか」と国会議長の事務所からの連絡がありました。
その日、国会議長が老朽アパート建て替え事業の施工の現状を見に行っており、その足で地権者と会ってみたいということでした。私自身は、土曜日だから、それに市のスポーツ会の日だから地権者のみなさんが来てくれるのかなと心配していました。でも、市長も我が公社の社長も、事業担当者もみんなミーティングを行うことにしました。そして、ウランバートル市の北西部のバヤンゴル地区の23ホローのホロー役所でミーティングをすることにし、準備を始めました。我々は地権者のみなさんに電話をかけ、ミーティングを行う場所に行きました。20人ぐらいの地権者が来ていました。そして国会議長、2人の国会委員、建設・都市開発省の副大臣、市長、副市長が来ました。
ミーティングの最初に市長が土地区画整理事業について簡単に説明しました。続いてバヤンゴル区の事業エリアの地権者組合長が組合の仕事を紹介しました。その後、国会議長が一言いいました。「みなさんの仕事を自分の目で見て、都市再開発法が必要になっていることがわかりました。また、今日はこんなに数多くの人が来てくれるとは思いませんでした」。そして、法律を議論しなるべく早く承認させるため努力すると約束しました。

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都市再開発法が承認されるまで、法律案作成のワーキンググループやJICA MUGCUPチームの皆さんが良く頑張ったと思いますが、ゲル地区の地権者も、ウランバートル市長もよく頑張ったと思います。私は地権者向けの勉強会をする時、「土地区画整理事業に地権者参加が重要だと」よく言うのですが、まさにその時、地権者参加の重要性を実感しました。
ゲル地区の土地区画整理事業を推進する役割の「ハウジング公社」の私たちも、事業の実施を目指す地権者たちもわからないことがたくさんありました。これから何をすればいいかは分からなくて迷っていたこともたくさんありました。そのときJICA、MUGCUPチームのみなさんが作成してくれたガイドラインをよく使っていました。そしてJICA MUGCUP-2事業(注2)も続けるようになったことはとてもありがたいことでした。
都市再開発法が承認されてから1年が経過した2016年6月のこの日にこの思い出を書いていることがとても嬉しいです。これからも、土地区画整理事業を成功に進めるため、たくさんの地権者に正しい情報を伝えるために頑張ります。JICAのみなさんのご協力は貴重な貢献になっているので、これからもよろしくお願いします。

(注2)ウランバートル市マスタープラン計画・実施能力改善プロジェクト(2014-2018)