コロナ禍も続くマイナス30度の調査活動

2021年2月4日

新型コロナウイルスの感染拡大という未曾有の混乱の中でスタートした本プロジェクト。
開始から半年経過した今も、現地モンゴル国における感染拡大の状況は依然厳しく、首都ウランバートルはロックダウンが繰り返され、市民活動が大きく制限されています。

このような中、本プロジェクトのモンゴル側リーダーであるJ.バトフー教授(モンゴル国立大学)は、モンゴル全土に移動制限がある中で、草原での調査活動を続けています。各地には厳しいチェックポイントがあり、時に地方村の病院でPCR検査を受けて陰性を証明することもあります。各地で研究の重要性について説明を重ね、現場の理解を得ながら続く旅は、優にひと月を超えました。
風雪吹き荒れるマイナス30度の環境下、冬の草原で家畜が食んでいる植物の観察、その植物の生育状況の調査では、1日中遊牧民や家畜と行動を共にしているため、時に顔面に凍傷のような傷を負ってしまったり、限られた日中の調査時間を確保するため、月明かりを頼りに夜間に移動することもあります。
過酷な調査環境の中にあっても、バトフー教授の情熱は途切れることがありません。

研究対象となっている植物の一つ、クロリス(注)。
遊牧民の間で昔から、クロリスは家畜に採食されてもすぐに再生するなど成長が早く、たくましい植物だと言い伝えられてきました。
プロジェクトではこのクロリスについて、旺盛な成長力に加え、乾燥や高い塩分濃度、厳しい太陽光等のストレスに強いという特性から、草原の「治療」に役立つ植物として大きな期待を寄せています。
調査活動を通してバトフー教授は、降り積もった雪の下から、クロリスが力強く顔を出し、家畜たちにとって冬場の貴重な食料になっていることを発見しました。
バトフー教授が草原からEメールで日本側研究者へ報告すると、その発見に喜びの声が上がるとともに、その生育を促進するための方法等、浅見忠夫教授(東京大学)ら日本側研究者から早速新しいアイディアが提案されました。
バトフー教授はこの他にも、冬季に家畜が食料とする枯れた牧草10種を採取し、遊牧民からていねいな聞き取りを行っています。

多くの制約がある中であっても、日蒙両国の研究者らはインターネットを駆使して情報を共有し、活発な意見交換を行いながら、着実にプロジェクトの歩みを進めています。

(注)一般名で「フェザー・フィンガー・グラス」、「フェザー・ローズ・グラス」と呼ばれるイネ科の植物。

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厳しい寒さで鼻や頬を負傷したバトフー教授

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車両温度計にはマイナス30度の表示

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雪の下に確認されるクロリスの群生