通常学校におけるインクルーシブ教育の実践

2022年6月13日

ウランバートル市内に25校あるプロジェクトのモニタリング対象校は、それぞれの学校でインクルーシブ教育に取り組んでいます。例えば、障害のある子どもへの個別対応だけではなく、在籍する全ての児童生徒が過ごしやすい学校環境の整備や、わかりやすい授業の実践などに取り組んでおります。また、プロジェクトでは、環境整備、個別教育計画、校内委員会、教科指導、保護者支援などに関して助言と支援を行っており、加えて、区のインクルーシブ教育担当官とともに、2022年2月と5月に各校を訪問し、活動の成果を見学するとともに、助言活動を行いました。

モンゴルの学校では新型コロナウイルス感染拡大の影響で長期間休校を余儀なくされ、対面授業再開後もしばらくは1日あたりの登校する児童生徒数を半分にして授業を行っていたため、2022年2月に学校を訪問した際には、手探りでインクルーシブ教育に取り組んでいる学校が多くありました。

そのような状況を踏まえ、プロジェクトではモニタリング対象校向けのオンライン研修を実践したり、訪問時に具体的な実践方法を伝えたり、できる限りの支援を行っております。2022年5月に訪問した際には、「インクルーシブ教育を通して子どもの成長をとても感じられるようになった」、「教員同士のコミュニケーションが増え、チームで活動するようになり、子どもとの関係もよくなった」等、とても前向きな声が教員たちから聞かれるようになりました。ここでは、25校の取り組みのうち、環境整備と指導法、子どもの意識の変化に関するモニタリング対象校の好事例を紹介いたします。

環境整備

それぞれの学校が、現状に応じて廊下や階段に手すりを設置するなど、全ての子どもにとって使いやすい環境の整備を行いました。環境整備で大事な点のひとつは、子どもの視点に立つことです。改修前に実際に子どもに使用してもらい、サイズや使い勝手を確認した学校や、低学年の子どもでも洗面台が使いやすいように踏み台を設置したり、入口の段差をなくすための木製のスロープを設置したりした学校がありました。

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実際に子どもに使い勝手を聞き、サイズや高さを調節して作ったトイレ。子どもの身長や動きに合った配置がなされている。

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低学年の子どもが手を洗いやすくするための台。この台があることで、手元をよく見て手を洗うことができ、袖の部分を濡らさないで手を洗うことができます。

教科指導

通常学級では、障害のある子どもだけでなく、学習スピードの早い子どもや計算が苦手な子どもなど、多様な子どもが学んでいます。全ての子どもにとってわかりやすい指導をすること、子ども同士が学び合う環境を整えることが大切です。

聴覚障害のある子どもが在籍している学級では、彼女の周りに授業をよく理解している子どもを配置していました。これにより、周囲の子どもが聴覚障害児の学習を支援するだけでなく、本人がわからない問題があったり、解答に自信を持てなかったりした際、自ら周囲の子どもに質問することができるようになりました。この取り組みにより、彼女の自発性が育まれ、友だちとの関係もよくなり、日常生活への自信にもつながったそうです。また、通常学級の保護者にとってもインクルーシブ教育はよい影響があります。複数の保護者が協力し、誰でも見やすい拡大教科書を作成した学校もありました。

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聴覚障害児が在籍するクラス

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全ての子どもが見やすい拡大教科書。インクルーシブ教育を紹介したことで、保護者の学校への参加も促進されました。

子どもの意識の変化

インクルーシブ教育は特別な教育的ニーズのある子ども以外の子どもたちの意識も変化させています。ある学校では、放送クラブの児童生徒5名が担任と協力し、「障害の理解と支援方法」について5分の番組を作成し、学校のFacebookを通じて保護者やほかの児童生徒、地域社会に働きかける活動を実施しました。この結果、多くの児童生徒の意識が変わり、子ども同士の関係も良好になりました。

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放送クラブが作成した障害理解の番組

これらの好事例は2022年6月13日に実施された「モニタリング対象校活動報告セミナー」で多くの学校に紹介されました。モニタリング対象校25校は、今後も地域のモデル校として事例紹介をしたり、研修会を開催したりするなどの活動が期待されています。

2022年9月からは、地方の学校でもインクルーシブ教育普及活動を実践していく予定です。インクルーシブ教育の実践がモンゴル全土に広がり、幼稚園や学校が全ての子どもたちにとって学びやすい環境を整備できるよう、プロジェクトは活動を続けていきます。