日本最大のバス会社西鉄バスOBらが「運行管理」をヤンゴンで指導

2019年10月1日

ミャンマー最大都市ヤンゴンで、公共バスのサービス改善を目指したプロジェクトが始まってから約2年。JICAは、日本のバス事業者と協力し、ヤンゴンのバス事業者に対し運行管理や路線網の整備、安全な運転技術などの指導などを進め、「便利で快適な」バスサービスの提供が徐々に実現しています。

日本のバス会社が培ってきた知見がヤンゴンで生かされるなか、日本最大のバス会社西鉄バス(福岡市)OBの専門家たちが担っているのは「運行管理」の効率化。ヤンゴン市内は二輪車の乗り入れが規制され、徒歩を除く交通手段の約半分を担うバスが庶民の足として定着しているものの安全で効率的な運行には程遠い状況でした。そんな困難に立ち向かってきた二人の専門家にお話を伺いました。

【画像】

ヤンゴンの中心、スーレーパゴダを運行するバス車両

定時運行で乗り降りもスムーズに

「サービス改善に向け、最初はどこから手をつけていいのか、正直わかりませんでした」と振り返るのは、ヤンゴン公共バスサービス改善プロジェクトの吉富実専門家と白石悦二専門家です。吉富専門家は、西鉄バスOBでバスの運行管理業務に長年携わってきました。白石専門家は、日本国内で地方路線の再編などバス業務のコンサルティングを担っています。

ヤンゴンでは、歩合制のバス運転手が競い合って乗客を取り合い、カーチェイスも日常茶飯事。停留所が整備されていないため、乗客も並んで待つのではなく、バスが止まれば走って乗り込み、とても危険でした。時刻表もなく、新規路線の設置に向けた明確なルールもなく、無秩序に次々と路線ができている状況だったのです。

【画像】

バス停付近での混雑

専門家らは、まずヤンゴンにある23社(2018年1月時点)のバス事業者すべての経営者と面談。輸送実績や財務状況から車両の整備状況まで細かく聞き取り、状況を分析しました。それに基づき、運転間隔などを考慮しながら運転手を配置し、効率的な運行に向け、日本で一般的に使用されている運行ダイヤを作成しました。

【画像】

運行ダイヤ導入指導の様子

また、道路渋滞が激しい市街地でバス利用者が安全な乗り降りができるよう、適切な停留所の設置を進めています。

ヤンゴン中心部スーレーにバス7台が停留できる乗降場所を設置した際は、運用開始当日から丸3日間、プロジェクトに関わる日本とミャンマー双方のスタッフ約40人が朝7時から停留所に張りつき、運転手に決められた場所にバスを停車させるよう指示したほか、乗客にもきちんと停留所に並ぶよう声を張りあげました。その結果、乗客はバスが来たらヨーイドン!で走ってバスに群がる状態から、バス停に整然と並ぶようになりました。

【画像】

スーレーにおける乗降場所設置パイロットプロジェクト実施前

【画像】

スーレーにおける乗降場所設置パイロットプロジェクト実施後

このプロジェクトを紹介するミャンマーの公式facebookには、バス利用者から「ぜひ別のバス停でもやってほしい」など、バスサービスの改善を求める声が次々と発信され、市民のバスへの関心の高さも伺えます。

西鉄バスでの研修も実施

プロジェクトでは、吉富専門家が所属していた西鉄バスによるヤンゴンのバス関係者への研修も実施されています。2018年の研修では民間公共交通事業者としての事業内容や運営方法に対する指導を行い、2019年は運転士教習に関する指導に向けた研修を行っています。
西鉄バスの本社がある福岡市とヤンゴン市は姉妹都市でもあり、活発な人材交流なども行われています。

【画像】

西鉄バスによる研修の様子

【画像】

西鉄バスによる研修の様子

アジアでのバス先進都市を目指して

「ヤンゴンの今のバスの運行状況は、ちょうど日本の昭和30年代、約50年前の状況によく似ています。日本のバス事業がこれまでたどってきた道そのものが、ヤンゴンで再現されているのです」と吉富専門家は言います。

日本でバス事業が始まったのは明治後期。関東大震災以降、急速な成長を遂げる一方で、小規模なバス事業者が分立し、激しい抗争を繰り広げていました。戦後に統廃合が進み、道路整備と同時に、バス事業が整備され、日本のバスは最盛期を迎えました。ヤンゴンでも、事業者の統廃合と能力強化を進め、市民の公共交通機関として機能していくことが求められています。

ヤンゴン市内のバス運賃は、200チャット(約14円:2019年9月末現在)で、これはペットボトルの水1本分の値段です。1日の走行台数5,000台、都市部の人口約550万人のうち、180万人(2019年8月時点)がバスを利用しているとされ、ヤンゴンはまさしく世界でも最もバスを使っている都市の1つです。

【画像】

多くの人がバスを利用している

ヤンゴンではスマートフォンの普及が進むなか、プロジェクトでは今後、バスの位置情報がスマホ上で確認できるバスナビゲーションの導入も計画。また、すべてのバスにGPSが搭載されていることから、データをもとに乗客数などを把握する路線ごとの見える化なども進めていく予定です。このようなヤンゴンでの新しい取り組みは、日本のバス事業でも生かすことができるとされています。

日本ではバス事業が縮小する一面もあり、不便な乗り物として見られることもあるなか、「ヤンゴンでバスの新しい乗り方を提示したい」という吉富専門家と白石専門家。バスをもっと便利な乗り物にするための挑戦はこれからも続きます。

【画像】

現地バス事業者と面談を行う白石専門家(右端)、吉富専門家(右から2番目)