プロジェクト成果をネパールの耐震設計基準に生かすためのワークショップを開催しました

2021年5月28日

2021年5月28日に、本プロジェクトの成果、特にカトマンズ盆地内とその周辺の地震ハザード評価を担当するグループ3の研究活動成果をどのようにネパールの耐震基準の発展に生かすかについて、政策提言を担当するグループ5と合同でワークショップを実施しました。

まずはグループ3の日本側メンバーの応用地質株式会社のプラダン氏より、建築基準の中の地震荷重に関連する研究成果について発表がありました。発表では、カトマンズ盆地深部のせん断波速度構造のモデル作成結果や、カトマンズ盆地のそれぞれの地点でどの程度地震の揺れが増幅するかを示す地盤増幅マップ、それらを用いた液状化危険度マップの可能性について紹介がありました。発表を受けての意見交換では、同様の手法を用いて、将来はカトマンズ盆地の外側についても検討を行う必要があること、本プロジェクトの新しい知見を用いてカトマンズ盆地の地震リスク評価の精度向上が見込まれること、今後のデータ活用の可能性についてなどが議論されました。

次に、フェローセメントを用いた耐震補強技術の概要とともに、日本の耐震診断技術の概要、フェローセメント工法を用いた耐震補強の採用検討例などについて、グループ5の日本側メンバーの国立研究開発法人建築研究所の関博士より紹介がありました。ネパールで一般的な鉄筋コンクリート造の柱・梁の枠内にレンガを積んだ壁を詰めている構造体の耐震診断手法の提案と、耐震補強が必要となった際に、施工が簡単で安価な補強方法の提案について発表がありました。この耐震補強技術は、バングラデシュで実施したSATREPSプロジェクトの成果として設計・施工指針が現在開発されつつあるフェローセメント工法を対象としています。これは、組積造壁の表面にワイヤーメッシュを配置してモルタルを打設するもので、その効果も実験により確認されています。会場からはバングラデシュの建物とネパールの建物には類似点も多く、ネパールでの普及を目指した活動が望まれるという意見が出されました。

更にグループ5の日本側リーダーである東京大学地震研究所の楠教授より、組積造壁を考慮した耐震診断方法について紹介がありました。発表では、2015年のネパール・ゴルカ地震で大破した建物をモデルケースとして耐震診断を行った結果も紹介されました。ただし、組積体の強度や耐震性能目標値の設定などにおいては、今後も継続してネパールで実験等を実施して検討していく必要があることが報告されました。討議では、組積造壁の影響を直接考慮できる耐震診断手法は非常に有用であること、ネパールの建物を対象とした要求値の設定においては慎重な検討が必要であることなどが議論されました。

最後にグループ5のネパール側メンバーの都市開発省都市開発建設局のナカルミ氏から、2020年のネパールにおける耐震規定の改訂の概要と、今回日本側より発表のあった3つの項目の今後の取り扱いについて紹介がありました。まずグループ3の成果については、今後の基準改定においては地震荷重を決めるハザードマップの設定において参考にするため、技術資料をまとめることが提案されました。また、フェローセメント工法については、設計・施工指針の整備や試験施工、講習会の実施などの普及に向けた活動を始める必要があり、その為に必要な資料を整備することが提案されました。組積造壁を考慮した耐震診断方法に関しては、今後も継続し要求値について検討を進めること、診断手法自体はフェローセメント工法の設計指針へ組み込むことの可能性について検討することが提案されました。

本ワークショップは、新型コロナウィルス感染症の影響が世界中で深刻となる直前の2020年1月に実施した一回目のワークショップを受けて、2020年の夏ごろの実施を目標に準備してきました。しかし、この世界的な感染症の状況により開催が叶わず、開催手法をオンラインに変え、厳しい感染状況下でかろうじて開催することが出来ました。通信状況やどの程度の参加者が集まるかなどの不安要素が沢山ありましたが、大きな問題もなく、40名近い参加者を得て、ワークショップは活発な議論と実りある結果とともに終了することが出来ました。

プロジェクトの終了まであともう少しですが、このワークショップでの議論を基にネパールの建物の耐震性能向上と、将来の地震災害軽減に資することが出来るよう、プロジェクト関係者一丸となって、これまでの研究成果をまとめていく予定です。

【画像】ワークショップの様子