活動状況報告(2021年10~12月)

2022年1月25日

ネパール国「教育の質の向上支援プロジェクト」(通称IMENプロジェクト)は、初等低学年児童の算数の基礎学力の向上を目指して、2019年から開始されました。2020年3月以降、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、プロジェクト専門家がネパールに渡航できない状況が長く続きましたが、2021年9月以降は順次渡航を再開し、現地の感染状況や政府の定める行動規範を踏まえつつ、感染予防対策を十分にとったうえで、調査や各種研修を実施しています。以下に、同年10~12月に実施した主な活動をご紹介します。

校長研修の実施

2021年11月中旬にトレーナーを対象に準備会合を実施したのち、同年11月下旬から12月上旬にかけて、パイロットLG内のすべての小学校(109校)校長を対象に、各5日間の校長研修を対面にて実施しました。新型コロナウイルス感染拡大の影響により対面での研修ができなかったため幾度も延期を余儀なくされましたが、この度、感染対策を十分に講じたうえで無事に執り行うことができました。
この研修は、校長の能力強化として、学校改善計画(SIP)の作成方法、教員・児童・保護者を対象とした、児童の学力向上のための活動例を紹介し、SIPの作成・改訂に活かすことを狙いとしていました。研修を通して、各学校がおかれた環境や直面している課題が明らかになったため、今後は、モニタリングなどを通じて各学校での学力向上のための活動の実践状況を収集し、2022年11月には、3日間程度のフォローアップ研修を実施予定です。

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校長研修の様子

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校長研修の様子

ベースライン調査の実施

2021年12月に、パイロット郡の小学校20校および、非パイロット郡の12校において、小学1~3年生児童約2,500名、教員・校長約100名を対象に、ベースライン調査を実施しました。
この調査では、児童に対して前学年の算数の習熟度を測るテストと、算数が好きかどうかや家庭学習状況など算数への関心・意欲・態度に関する質問紙調査を行いました。また教員に対しては、算数の授業や準備にかける時間や教員間の協働状況などについて、校長に対しては学校運営や児童の学習を促進する学校独自の活動などに関して、質問紙調査を行いました。
データの入力やクリーニング後に、結果を分析し、今後の研修などに生かしていく予定です。また、2023年8月にも再度、同様の項目に関してエンドライン調査を行う予定です。

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ベースライン調査の様子

追加TPD(Teacher Professional Development)研修の実施

2021年12月に、算数指導に関する現職教員研修(追加TPD研修)のトレーナー研修(TOT)を対面で実施しました。このTOTは、教育研修センター(ETC)教官などTPD研修のトレーナーに対して指導を行うもので、研修前半では、小学1年生の各単元での指導法について具体例を挙げて説明し、後半では授業研究を通じた教員同士の学び合いや授業改善の促進を目指しました。
2022年1月以降には、このTOTの内容に沿って、TPD研修のトレーナーがパイロットLG内の小学1年生担当教員に対して5日間の追加TPD研修を実施する予定です。続けて、小学1年生担当教員への研修の経験を踏まえて、小学2~3年生担当教員への研修についても内容を検討していきます。

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TPD研修の様子

自宅用学習教材の開発・配布

新型コロナウイルス感染拡大の影響により学校閉鎖が長期化するなか、プロジェクトでは、子どもたちが自宅でも算数の学びを継続することができるよう、小学1~3年生向けの自宅用学習教材を開発し、パイロットLG内の全ての小学1~3年生(約7,600名)に配布することとしました。2021年10月にはこのうち前半部分の印刷・配布を完了、現在は2022年2月の印刷配布を目指して後半部分の教材を開発しています。
これまでに実際の使用状況を確認したところ、「児童が意欲的に教材に取り組んでいる」などと教員から多くの好評を得ました。他方、既習単元ごとに進めるよう教員から児童に指示して取り組むべきところ指示が行き届かず児童が好きな単元から取り組むケースや、保護者や教員が使用するフィードバックシートが活用されていないケース、教員による採点が適時になさないケースなど、活用方法に改善の余地が見られました。フィードバックシートは、保護者と教員間のコミュニケーションが活発になるように意図したつくりとしましたが、非識字の保護者にとっては、記入や子どもへのサポートが難しいといった声もあり、改善が必要であることが明らかとなりました。今後、フィードバックシートの改訂を検討するとともに、メディアを通じた発信や学校へのモニタリング等を通して活用方法の改善を促していきます。
一旦学校が再開されたものの、2022年1月にはオミクロン株感染拡大の影響でパイロットLGでも再び休校措置が採られることとなりました。そこでプロジェクトでは、児童が過去の学年分も取り組めるよう増版配布も含め、より多くの機会を提供することを検討しています。

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児童が記入後、教員が採点した自宅用学習教材

算数教育啓発活動

プロジェクトでは、児童や保護者が算数に興味をもてるよう、パイロットLG内の小学1~3年生の児童とその保護者に定期的にプリントを配布することとしています。2021年10月には、児童向けのものと保護者向けのものの2種を自宅用学習教材と共に配布しました。
児童向けプリントには、算数の概念・考え方に関する解説、算数トリビア、算数クイズ、保護者向けプリントには、家庭学習の重要性、子どものやる気の伸ばし方などの啓発メッセージを掲載しました。
同年11~12月にパイロットLG内の小学校で活用状況を確認したところ、コンテンツとしては有用なものの、非識字の保護者が多い地域では家庭での活用が難しいこともわかりました。そのため、ラジオ媒体を活用して家庭学習の呼びかけを行うことも有効な手段のひとつとして、現在LGと準備を進めているところです。

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保護者向けプリント

このようにIMENプロジェクトでは、”withコロナ”の難しい局面の中でも、児童の算数学力向上のために効果的な活動となるよう、現地のニーズに合わせて柔軟に対応しています。今後も、現地の感染状況を踏まえつつ、こうした姿勢で活動を実施していきます。

文責:塩田 恵(株式会社パデコ)