活動状況報告(2022年1~4月)

2022年6月13日

ネパール国「教育の質の向上支援プロジェクト」(通称IMENプロジェクト)は、初等低学年児童の算数の基礎学力の向上を目指して、2019年から開始されました。プロジェクトで対象としている4つの郡からそれぞれ1つの地方政府(LG)を選び、パイロットLGとして各種活動を実施しています。
以下に、2022年1~4月に実施した主な活動をご紹介します。

追加TPD(Teacher Professional Development)研修の実施

教育省では現職教員研修(TPD研修)を実施していますが、算数指導に特化した内容がありません。そのため、2022年1月から3月にかけて、教育研修センター(ETC)教官などTPD研修のトレーナーが、パイロットLG内の小学1年生担当教員に対して、既存のTPD研修に加えて算数指導に関する研修(追加TPD研修、5日間)を実施しました。

前半は、小学1年生の各単元での指導法について具体例を挙げて説明していきました。参加者は、自身で手を動かしながら、身近なものを使って教材にすることの大切さの理解を深めました。後半では、授業研究を通じて教員同士の学び合いや授業改善の促進を目指しました。はじめは授業研究の意図がわかっていない参加者も多く見られましたが、実際に模擬授業をおこない指導案を作成・改善していく過程で徐々に理解が進んだ様子でした(写真2、3)。

今後、カウンターパート機関である教育科学技術省(MOEST)カリキュラム開発センター(CDC)・教育人材開発センター(CEHRD)関係者と研修内容に関してさらに議論を深め、2022年6月以降に実施予定の小学2~3年生担当教員を対象とした研修の準備に取り組んでいきます。

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写真1:身近な教材を用いて図形に関する指導法を学ぶ研修員

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写真2:タナフン郡バンディプールLGでの模擬授業

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写真3:バクタプール郡チャングナラヤンLGでの模擬授業

自宅用学習教材の開発・配布

新型コロナウイルス感染拡大の影響により学校閉鎖が長期化したことを受け、子どもたちが自宅でも算数の学びを継続することができるよう、プロジェクトでは小学1~3年生向けの自宅用学習教材を開発し、パイロットLG内の全ての小学1~3年生(約7,600名)に配布しています。2021年10月にこのうち前半部分の印刷・配布を完了し、2022年4月には後半部分の印刷・配布を完了しました。

この学習教材は、1)教員・保護者への指示、2)単元別の練習問題、3)保護者によるフィードバックシート、という構成となっています。前回配布した際は、児童が意欲的に取り組んでいるものの、保護者からのフィードバックが得られない、教員から児童への指示がなされない、教員による採点・返却が適時になされないなど、保護者の関与の低さや教員による活用が課題になっていました。

そこで、以前は単元の練習問題ごとに掲載していた保護者によるフィードバックシートを巻末に一括して掲載し、児童の学習状況の観察を簡単に記して報告、練習問題の各ページに教員・保護者が確認印をつけるような体裁にしました(写真4、5)。これにより保護者の負担を軽減させ、関与を促進することをねらいとしています。

さらにLGから学校への教材配布時に、小学1~3年生担当教員に対して、配布の意図、教員や保護者に求められる役割を説明しました(写真6)。その後学校から児童への配布時にも、学校によっては学校に保護者や児童を集めて同様の説明をおこない、保護者への理解を促しました。児童も保護者も嬉しそうに受け取る姿が見られました(写真7)。今後モニタリングを通して実際の活用状況を確認していきます。

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写真4:練習問題の各ページ下方に設けた保護者・教員確認欄

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写真5:巻末の保護者用フィードバックシート

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写真6:マホタリ郡ピプラLGでの配布説明会

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写真7:ジュムラ郡タトパニLGで自宅用学習教材を受け取る児童たち

算数教育啓発・広報活動

プロジェクトではパイロットLG内の小学1~3年生とその保護者に対して、さまざまな手段を使って算数に興味をもち、その重要性を理解してもらうための啓発・広報活動を行っています。パイロットLGの学校は保護者の大半が非識字というところも少なくありません。そのため非識字者層に向けた試みとして、ラジオ番組を開発することとしました。

低学年の算数が実際の生活に役に立つこと、保護者が家庭学習を支援することの大切さを伝えることを目的として、まずはプロジェクトで児童・保護者・教員向け計3種の短編脚本を制作しました。4つのパイロットLGは異なる言語や文化を持つため、各地域の特長を活かした内容とするべく、パイロットLGが選んだ地元のFM局に依頼し、同一の脚本を基に異なる言語やBGMを用いてそれぞれの番組を完成させました。

これらの短編番組は2022年3~4月にかけて各地で放送されました。放送を聞いた保護者からは、「子どもたちの学習にとって保護者のサポートが非常に重要だと思った」といったコメントが聞かれています。他方、保護者や児童への聞き取り調査を通して、ラジオ番組を聞いていない世帯も一定数いることもわかっています(写真8)。パイロットLGのウェブサイトやSNSに掲載し、放送期間終了後も視聴できるよう工夫するほか(写真9)、他の活動の際に流すなど今後も活用していく予定です。

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写真8:マホタリ郡ピプラLGでのラジオ啓発番組に関する聞き取り調査

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写真9:タナフン郡バンディプールLGのウェブサイトに掲載されたラジオ番組

文責:塩田 恵(株式会社パデコ)