活動状況報告(2022年9月)

2022年12月14日

ネパール国「教育の質の向上支援プロジェクト」(通称IMENプロジェクト)は、初等低学年児童の算数の基礎学力の向上を目指して、2019年から開始されました。以下に、2022年9月に実施した活動をご紹介します。

算数のTPD(Teacher Professional Development)研修の実施 [小学3年生担当教員対象]

2022年7月から8月中旬にかけて実施されたパイロット地方政府(LG)内の小学2年生担当教員対象の算数指導に関する研修(「追加TPD研修」、5日間)に続き、同年8月下旬~9月に小学3年生担当教員を対象にした研修を実施しました。

この研修は、現地のファシリテーターが研修会の運営を主体的に行えるように計画し、また現地のカリキュラムおよび2021年に実施したベースライン調査の分析結果に基づいた内容となっています。研修の前半は小学3年生の指導項目(4桁までの数の概念、たし算、ひき算、かけ算、わり算、図形、測定)に沿って主に数と計算の指導に関する講義・演習、後半は授業研究に関する講義・演習を行いました。

ネパールでは多くの児童が算数に対して苦手意識を抱いており、その大きな原因としては、繰り上り、繰り下がりを含む足し算、引き算を十分に習得していないために後の学習内容で躓いてしまうことが挙げられます。この状況を踏まえ、研修では4桁までの足し算と引き算において、ブロックなどの具体物を用いて、繰り上がりや繰り下がりの過程を可視化し、子どもたちに分かりやすく丁寧に教えるワークが行われました。グループに分かれ、画用紙やハサミを使いながら、1000, 100, 10, 1のブロックを作り、繰り上がりや繰り下がりを児童に分かりやすく説明するためにはどうしたらよいか、手を動かしながら活発に議論がなされました。

他にも、角度や長さの単元では、教科書上の図や数字だけで教えるのではなく、身の回りの角度や長さに注目させる活動も行いました。児童の立場となって参加した教員の方々は、「算数が実生活に結び付いていること、算数は楽しいことを児童に伝えられそうだ」と嬉しそうに語っていました。

今回の3年生の追加TPD研修をもって、小学1~3年生担当教員の研修がすべて終了しました。今後は先生方が研修で学んだことを自身の教室で実践していきます。とりわけ、10月下旬以降にパイロット地域の学校で啓発活動の一環として行われる算数強化月間での応用が期待されています。

【画像】

4桁の足し算の指導方法をグループで検討

【画像】

児童が遊びながら学べる活動を実践する

啓発活動の実施 [パイロットLGジュムラの教員、保護者、児童対象]

パイロットLGでは、算数教育への意識を向上させる啓発活動にも取り組んでいます。学校の先生や児童だけでなく地域の保護者や住民も巻き込み、地域全体で算数や教育の重要性について考えていくことを目指しており、各LGの地域の特色に合わせて、算数保護者会、算数クイズ大会や算数教材展示会などが計画されています。

8月下旬から9月にかけて、パイロットLGであるジュムラでは算数保護者会(Math Kachahari(現地語))を実施しました。もともとジュムラでは地域住民を対象とした集会(Kachahari)で課題を提起し、参加住民全員で解決に向けた議論を行う慣習があります。これを応用して、学校と保護者、児童の関係をより深くし、教員と保護者が小学校低学年の算数教育や家庭学習の重要性を理解することを目的として、6つの学校を拠点に実施したものです。

毎回約50名、延べ300名ほどの教員、保護者、児童が参加しました。ファシリテーターが算数の重要性や保護者の関与が鍵となることを伝える講義セッションでは、保護者に向けて「なぜ算数は重要だと思いますか?」「なぜ保護者の関与があることで学力が上がると思いますか?」といった質問が投げられ、保護者と教員が真剣に意見交換する姿が見られました。読み書きができない保護者も少なくない中で、ある動画を視聴してもらいました。動画の内容は、お母さんと娘の女の子が買い物に行き、店員もお母さんも会計の計算が間違っていることに気づきませんでしたが、女の子がしっかりと計算できたことで、余分に支払うことを避けられた、というものでした。参加者が食い入るように動画を観ていたことが印象的です。

後半のセッションでは学区ごとグループに分かれ、地域としてどのように子どもたちの学びを支援するかについて議論を行い、アクションプランを発表しました。学校を含むコミュニティの良い点と改善点に関してブレーンストーミングを行った結果、地域住民が協力してできることとして、連絡帳(Homework Diary)の重要性について保護者に伝えて運用を促進していくことや、地域で算数クイズ大会を主催し多くの保護者と児童に算数は楽しいことを知ってもらう機会をつくることなどが挙げられました。

「保護者の関与が足りないという課題はしっかり認識した。Kachahariはこの地域で生まれたものであるため、ここで出されたアクションプランをしっかり実行し、我々が住むジュムラからこの問題解決に取り組んでいかなければならない。」という参加者のコメントからは、地域で算数教育を向上していくという意欲がうかがえました。今後プロジェクトでは各学校での好事例をモニタリングしていきます。

【画像】

Math Kachahariで議論しアクションプランを作成する様子

【画像】

Math Kachahariでのアクションプラン発表

文責:中尾 知美・塩田 恵(株式会社パデコ)