活動状況報告(2022年10月)

2022年12月14日

ネパール国「教育の質の向上支援プロジェクト」(通称IMENプロジェクト)は、初等低学年児童の算数の基礎学力の向上を目指して、2019年から開始されました。今回はネパールにてプロジェクトに関わるカウンターパートを日本に招聘して行った本邦研修についてご報告します。

本邦研修の実施

2022年10月11日から11月2日にかけて、カウンターパートであるネパール教育科学技術省、カリキュラム開発センター、教育人材開発センター、地方の教育委員会職員の14名を対象に本邦研修を実施しました。日本における中央、地方自治体、学校に至るまでの算数の学力向上に関する取り組みを理解し、ネパールにおいて必要な算数学力向上の取り組みを構築・実施できるようになることを目的とし、算数教育、教員養成、学力向上に関する学校や地方行政の取組みについて学びました。

算数の教授法、教科書開発の方法論を学ぶ

IMENプロジェクトで取り組んでいる「授業研究」や「問題解決型学習」はネパールではまだ新しいコンセプトであるため、実践例に触れることが非常に重要でした。そのため研修員は、東京学芸大学にて「授業研究」や「問題解決型学習」に関する講義を受け、さらに東京都や横浜市の小中学校を訪問し、実際の研究授業の議論や生徒が自ら問題を発見し解決する授業を見学しました。児童が学ぶ様子を実際に観察した研修員は「授業研究」や「問題解決型学習」の確かな意義を実感したようです。

また教科書研究センターを訪問し、学校教科書の認定制度や改訂プロセスについて学びました。算数の教科書、教師用指導書の改訂に携わっているカリキュラム開発センターのメンバーは、センター附属図書館にて改訂中の教科書を実際に手に見学し、ネパールの改訂方法と比較して自国で取り入れられる点などを考察していました。

【画像】

小学校低学年の算数の授業を見学

【画像】

教科書研究センター附属図書館にて教科書資料を見学

効果的な教員養成、現職教員研修について理解する

都道府県や市のレベルでどのような教員養成や研修が行われているかも学びました。日本の教員育成では、OJT(On the Job Training:職場内訓練)、Off-JT(Off the Job Training:職場外訓練)、S・D(Self Development自己啓発)の3つを柱として現職教員研修のデザインと実施を行っています。中でもOJTは重要ですが、ネパールの小学校では、1学年に先生が一人しかいない、あるいは教科担当の先生が学校に一人しかいないことも少なくないため、日本の学校の職層の役割を意識したOJTを推進する体制は研修員にとっては新鮮に映ったようです。ネパールでは教師数が少なく学校完結型でOJTを行うことが難しいため、地域の学校間で協力し合いながら教員同士が学び合えるラーニンググループを作っていきたいという意見が聞かれました。

地方行政による学力向上の支援について知る

さらに行政の取組みとして、教育委員会の学力向上支援に関する講義を受けました。東京都では文部科学省の「知識・技能」を中心とした教科学力を測定する全国学力・学習状況調査に加え、児童や生徒の資質能力の育成に必要となる「学びに向かう力」を測定する調査を独自で行っています。ネパールでも全国学力調査は行われていますが、国の学力調査で測りきれない能力を都道府県レベルで独自に調査を行い、相乗効果を図る試みは参考にしたいという声が多く聞かれました。

また、算数の授業における習熟度別指導のガイドラインなど、ひとりの児童も取り残さない学校づくりを行政が支援していることを学びました。ネパールでは児童や生徒への指導は学校に任される中で、行政が指導に関するガイドラインを作ることで学校の取組みを促すことができることを知り、今後ネパールの学力向上支援に役立てたいとの声が聞かれました。

【画像】

現職教員研修に関する講義

【画像】

横浜市が運営する授業改善支援センター「ハマ・アップ」の見学

アクションプランを策定する

研修最終日には帰国後にどのように日本での学びを活かしていくか、それぞれのアクションプランを発表しました。研修員らは自分たちがネパールに帰ってできることを真剣に考え、議論をしていました。今後もプロジェクトでは、活動を通してカウンターパートらが実践に移していけるように支援していきます。

【画像】

東京都教育委員会より学力向上支援の取組みについて聞く

【画像】

アクションプランの発表

文責:中尾 知美・塩田 恵(株式会社パデコ)