「中南米地域の自立生活革命」中南米10カ国と日本の障害者リーダーと作り上げたオンラインセミナー

2022年6月16日

6月15日(米国東部時間)、国連の第15回障害者権利条約締約国会合のサイドイベントとして「中南米地域の自立生活革命|障害者主体の国際協力」をJICA、中南米自立生活ネットワーク(RELAVIN)、メインストリーム協会の3者で主催しました。中南米地域と日本を中心に高い関心が寄せられ、世界中から800名を超える参加登録があり、うち300名以上がこのオンラインセミナーをライブ視聴しました。

このイベントの目的は、障害者権利条約の19条(自立生活に対する障害者の権利)と32条(障害者団体と連携した国際協力)にフォーカスし、国際協力が自立生活運動を促進することの意義と可能性について伝え、特に政府やドナーに協力を呼びかけることです。

障害のあるJICA帰国研修員を中心に

ラテンアメリカでは、JICAの研修プログラムに参加した帰国研修員が、メインストリーム協会をはじめとする日本の障害者団体の自立生活に関する理念や活動の内容に刺激を受け、仲間と共に自国で自立生活の実現のために取り組んでいます。10カ国で形成されるRELAVINは、コロナウイルス感染が拡大する中、オンラインで活動を開始し、毎月会合を開催しています。これまでにも、自立生活に関する啓発や情報発信のためにウェビナーを4回開催しました。

今回は、国連の障害者権利条約締約国会合の機会をとらえ、国際協力を通じて、いかに障害者が自立生活に対する権利意識を高め、各国で取り組みを進めているかをより多くの方に紹介したいと考えました。

障害者団体との連携を重視するJICA

イベントは、JICAの井本佐智子理事によるメッセージで開会しました。井本理事は、JICAは長年の協力経験から得た学びをふまえ、自立生活の実現に向け、障害者団体間の連携を促進する役割を重視していることを強調しました。

また、JICAの業務の指針となる政策文書「JICAグローバルアジェンダ」に「障害と開発」は重点分野の一つとして記載されており、障害者の人権を尊重し、完全な参加と平等を通じて、インクルーシブな社会を実現することにコミットしていると説明しました。そして、「障害の主流化」と「障害に特化した取り組み」からなる「ツイントラック・アプローチ」を通じ、セクターを超えた活動において障害者のインクルージョンを推進し、変革の担い手である障害者の能力開発を促進すると語りました。

さらに、中南米地域の自立生活の推進に貢献できたことはJICAにとって大きな誇りであり、政府、ドナー、市民団体がこの運動のパートナーとして参画することを期待する、と呼びかけました。

各国の障害者リーダーによる発表

コスタリカの自立障害者センター「モルフォ」の代表を務めるウェンディ・バランテスさんからは、JICAやメインストリーム協会の支援を受け、コスタリカで自立生活の実現に至った経緯の紹介がありました。RELAVINの創設メンバーでもある彼女は、新型コロナウイルス禍において、JICAの帰国研修員を中心に、障害者リーダーがオンラインという新しい形態で連携を進めてきたことにも触れました。

続いて、中南米地域の9カ国(アルゼンチン、ボリビア、チリ、コロンビア、エクアドル、ホンデュラス、メキシコ、パラグアイ、ペルー)の障害者リーダーが、それぞれの国での取り組みの状況について、自立生活の実現を志すに至った過程、各国での取り組みの現状、RELAVINのメンバー間での連携の成果などについて発表しました。

コスタリカやアルゼンチン、ボリビア、コロンビア、ホンデュラスのようにピア・カウンセリングや介助者育成を始めている国もあれば、グループを立ち上げ、活動を開始してまもない国もあります。そして、多くの国で、介助者制度が公的財源により運営されることを目指し、障害者の自立生活に関する法律の制定に取り組んでいます。10人のリーダーのストーリーから、自立生活に対する思い、各国で仲間を集めて活動を進めている様子、そして域内協力がいかにそれぞれの取り組みを後押ししているかが伝わってきました。

パラグアイでも、2021年に自立生活協会「テコサソ」が設立され、コスタリカの自立生活センター「モルフォ」の経験から学びつつ、活動を進めています。「テコサソ」代表でJICA帰国研修員のブランカ・エスコバルさんは、域内協力がいかにパラグアイの障害者を後押ししているかに触れ、法案の採択に向けた働きかけ、自立生活センター設立に向けた場所の確保、ピア・カウンセリングの実施や介助者の育成などの活動を進めていくと力強く話しました。

障害者権利条約の視点から

各国の発表に続き、国連の障害者権利委員会副委員長のアマリア・ガミオさんがコメンテーターとして登壇し、自立生活への権利と地域社会へのインクルージョンに関する19条を実現するには、12条が定める法の下の平等が不可欠であると訴えました。

また、国際協力を通じた自立生活センター設立やRELAVINに対するJICAの支援は、他の機関が参考にすべき好事例であるとの言及もありました。「JICAは障害者権利条約を理解している」という言葉が印象的です。また、障害のある人たちに向け、声を上げ続けること、連携することの大切さを力強く訴えました。

各国の政府関係者に向けて

閉会にあたり、メインストリーム協会の廉田俊二理事長が、特に政府や障害者福祉行政関係者に向けて力強いメッセージを発信しました。「人権を大事にし、一人ひとりを大切にするためには、当然お金がかかります。介助サービスは障害者のためのもので、障害者のためだけにお金を使っているようですが、介助者費用は障害のない人が受け取ります。障害のない人に介助という新しい仕事が生まれるチャンスでもあり、単に障害者にお金を配るのではありません。介助サービスは広がりのある公共事業であり、政府の協力なしではできません。政府関係者の皆さん、障害者ときちんと向き合ってください。(要旨)」

中南米地域における自立生活の実現に向けて

このイベントでは、日本と中南米11カ国の障害者リーダーが登壇し、中南米地域で自立生活に向けた革命が進んでいることを発信しました。基本的な人権である自立生活を実現するために、障害者が主体となり、各国で社会の変革が進んでいます。その背景にはJICAと日本の障害者団体との長年にわたるパートナーシップがあり、メインストリーム協会をはじめとする日本の自立生活センターのコミットメントがあります。

プロジェクトIMPACTOは、主催3機関と協力し、本イベントの企画運営、事務局業務全般を担当し、スルマ・フェレイラSENADIS地方分権局長と合澤栄美専門家が司会を務めました。自立生活の実現に向けた取り組みは、IMPACTOの活動の柱のひとつです。今後も日本の障害者団体やRELAVINのメンバーと協力し、自立生活運動の推進を支援していきます。

(注)イベントの録画は、国際手話および日本語、英語、スペイン語の字幕付きでJICAのYouTubeチャンネルで後日公開予定です。

【画像】JICA、RELAVIN、メインストリーム協会、国連障害者権利委員会の登壇者