パラグアイの障害者リーダー、コスタリカへ!

2022年9月9日

8月28日から9月6日までの10日間、パラグアイ自立生活協会「テコサソ」のメンバー9人がコスタリカを訪問し、自立生活センター「モルフォ」で研修に参加しました。日本の自立生活センターの方針や活動をコスタリカに応用し、中南米地域の自立生活運動のパイオニアとして、他国への協力も行っているモルフォ。パラグアイの障害者リーダーは何を学び、どう感じたのでしょうか。

「モルフォ」と「テコサソ」

モルフォは、2011年にペレス・セレドン市に設立された、コスタリカで初めての自立生活センターです。JICAの技術協力「ブルンカ地方における人間の安全保障を重視した地域住民参加の総合リハビリテーション強化プロジェクト」(2007年~2012年)や兵庫県西宮市のNPOメインストリーム協会が実施を担うJICA研修「中南米地域障害者自立生活研修」(2007年~2013年)に参加したことをきっかけに、自国でも自立生活を実現しようと障害者が取り組みを始めました。2012年からは、メインストリーム協会とモルフォによる草の根技術協力事業が開始。介助者の育成や制度化、ピアカウンセリング、地域のアクセシビリティ改善、行政との連携、障害者の自立生活に関する法案の制定など幅広く活動しています。

テコサソはJICA研修で渡日したパラグアイの研修員が中心となり、2021年に設立された団体です。パラグアイでも自立生活センターを設立し、自立生活を実現することを目指しています。今回の研修には、テコサソの主要メンバーである車いす利用者8人(男性4人、女性4人)と介助者1人が参加しました。帰国後にそれぞれの地域で活動を進めるべく、アスンシオン近郊のセントラル県から5人、コロネル・オビエドとビジャリカからそれぞれ2人が選ばれました。

モルフォはこれまでにも、オンラインでのセミナーや意見交換を通じて自分たちの経験をテコサソのメンバーと共有してきました。今回の訪問を通じて、テコサソのメンバーは、障害者が中心となって自立生活センターを運営している姿を見て、また、自立生活を実現している障害者と接し、自立生活の意義や自立生活センターの役割について理解を深めることができました。また、アクセシブルな公共交通機関の利用や観光地の訪問を通して、社会をインクルーシブにしていくことの重要性も体感しました。

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モルフォのメンバーから話を聞く研修参加者

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自治体を訪問し、連携の大切さを学ぶ

障害のあるピアとして、中南米地域の仲間として

短期間にもかかわらず、実り多い研修が実現できた最大の要因として、研修を提供する側も参加する側も障害者が中心となっていたことが挙げられます。社会のバリアに直面してきた経験、自分自身を受け入れることや家族から自立することの難しさに対する共感など、共通の土台があり、想いを分かり合えることが、パラグアイとコスタリカのメンバーが、すぐに関係を築き、率直な意見を交わすことにつながりました。

障害のあるピア同士であることに加え、中南米地域の仲間でもあることから、共通言語であるスペイン語でコミュニケーションが可能です。また、日本で学んだ自立生活をコスタリカでどのように実現しているかを見ることで、パラグアイで自分たちがどのように活動を進めるかをイメージしやすくなりました。さらに、障害のない人が障害のある人を支援するのではなく、障害のある人が他の障害者を支えながら、一緒に社会を変えていくことの大切さもしっかりと伝わりました。

短期間のプログラムの中で、介助者育成/派遣、ピア・カウンセリング、自立生活プログラム、法律制定や制度構築に向けた政治的な働きかけ、自治体との連携等の幅広いトピックに接することができました。それぞれについて理解を深め、必要なスキルを習得するのはこれからです。今後、テコサソが活動を進めていくにあたり、中南米域内の仲間としっかりとした関係が構築できたことで、互いを訪問することに加え、オンラインでの研修や意見交換なども進めやすくなり、効果的な協力が期待できます。

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積極的に発言するメンバー

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モルフォのリーダーたち

参加者の変化

テコサソのメンバーには、研修前後で大きな変化が見られました。飛行機に乗るのも、パラグアイから出ることも初めてという人が大多数で、出発前には不安な表情で口数が少なかったメンバーもいましたが、モルフォに到着して研修が始まると、顔色が明るくなり、質問や発言が徐々に増えていきました。研修の後半に入ると、「自分のことが前より好きになれた」「障害も含めた自分らしさを大切にしたい」という言葉も聞かれるようになりました。

また、ほとんどのメンバーは、パラグアイでは家族の介助を受けていますが、研修中はモルフォの介助者が同行し、着替えや入浴、食事などの日常生活の介助に加え、自由時間の買い物などもサポートしました。この経験は、自立生活に関する大きな気づきにつながったようです。「研修後にホテルに戻り、汗をかいていたのでシャワーを浴びてから、食事に出かけることができた。一人では1時間くらいかかるので、今まではあきらめていたけれど、介助があったので15分でシャワーを済ませ、身支度を整えることができて嬉しかった」という声や「買い物などの余暇活動でも介助を頼めるのは、新しい体験だった。他人に気兼ねせずに自分のしたいことができる自由を実感した」という感想もありました。

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介助の方法に関する研修も

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自立生活を送る障害者のお宅を訪問

アクセシブルな環境づくりに向けた気持ちを新たに

ホテルから研修場所のモルフォまでの移動に公共バスを使ったことも、強い印象を残しました。アクセシブルな公共交通機関を使うのは、大多数のメンバーにとって初めての体験です。ペレス・セレドン市では、公共バスの運転手はモルフォが実施する研修を受講していて、スロープの操作や介助の方法を習得しています。自分でバスに乗り移動することの解放感や嬉しさを全員が体感し、これまでのモルフォの取り組みを知り、パラグアイでも、公共交通機関のアクセシビリティを改善したいという気持ちを強くしました。

さらに、研修の終盤に立ち寄った国立公園では、アクセシブル・ツーリズムを体験。公園の入り口からビーチまで、車いすで移動できるルートがあり、ビーチでは水陸両用車いすが使えます。坂道や砂地もありますが、介助者がいれば大丈夫。「介助者がいることで行ける場所が広がる」と感じ入る声も。美しい緑や初めて見る海に心を躍らせ、コスタリカの自然を満喫しつつ、障害のある人もない人も一緒に観光やレクリエーションを楽しめることの大切さを噛み締めました。また、これも基本的な権利のひとつであり、自立生活において不可欠な要素であることを実感できました。

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初めての公共バスでの移動

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水陸両用車いすでビーチを満喫

パラグアイでの自立生活の実現に向けて

充実した内容の研修プログラムは、モルフォの企画、運営によるものです。コスタリカの障害者リーダーの姿を見て、意見を交わすことは、パラグアイでどのように活動を進めるべきか、テコサソのメンバーが具体的に考え、前進するための大切な一歩となりました。帰国時の皆の表情は清々しく、自信と責任感にあふれていました。

貴重な経験を得たテコサソのメンバーは、コスタリカで学んだことを、パラグアイの障害のある仲間に伝え、自立生活を実現するために力を合わせて取り組んでいこうという志を新たにしました。プロジェクトIMPACTOでは、自立生活の実現に向けた活動をこれからも支援していきます。

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団結を誓うテコサソのメンバー

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晴れやかな笑顔で帰国