日本の障害者リーダーとの活動を通じ、自立生活の実現に向けた決意を新たに

2022年12月14日

日本からパラグアイへ

11月30日の朝、パラグアイ自立生活協会テコサソのメンバーは、アスンシオン郊外の空港で、日本からの訪問団を待ち構えていました。兵庫県西宮市で自立生活センターを運営するメインストリーム協会の理事長廉田俊二さんと介助者の中来田護さん、東京都江戸川区の自立生活センターSTEPえどがわで介助者を務める原嶋健太郎さん、田中悠輝さんの4人がパラグアイに1週間滞在して、私たちの活動に参加してくださるのです。

メインストリーム協会は、コスタリカの自立生活センター「モルフォ」を長年に渡り支援し、日本でも自立生活に関する研修を通じて中南米の障害者リーダー育成にも貢献しています。自立生活運動推進に向けた国際協力のパイオニアである廉田さんを迎えて、国際障害者の日に向けて一緒に活動できることを、パラグアイ側関係者は心待ちにしていました。

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スペイン語、グアラニ語、英語、日本語の4ヶ国語で歓迎

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40時間の長旅を経て、みなさんが到着!

ミッションのみなさんは、アスンシオンでテコサソと顔合わせを行い、国家障害者人権庁(SENADIS)長官との意見交換、SENADIS主催の国際障害者の日記念イベントへの参加の後、ビジャリカ市に向かいました。

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アスンシオンに集まったテコサソのメンバー

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SENADIS長官(右から2人目)に自立生活について説明する廉田さん(左から2人目)

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SENADIS主催の国際障害者の日記念式典

中南米9カ国でマーチを開催

国際障害者の日の12月3日、ビジャリカ市では大きなイベントが開催されました。障害者団体をはじめとする市民団体、公的機関、教育機関などが構成する「インクルージョン・ネットワーク」主催のマーチです。コスタリカでの自立生活研修に参加したテコサソのメンバーも、このネットワークで中心的な役割を担っています。市内中心部を障害のある人が歩くことで、その存在をアピールし、障害の有無に関わらず地域で生活するためにはアクセシビリティの改善や自立生活支援が必要であることを多くの人に知ってもらおうと企画し、準備を進めてきました。この活動には、ビジャリカ市に加えてカアグアス県も協力を表明するなど、地方自治体からもサポートが寄せられました。

マーチは午前10時にカアグアス県庁舎前を出発。障害のある人たちが先導し、その後に障害者支援団体をはじめとする市民団体、自治体関係者などが続きます。「Vida Independiente」(自立生活)と刺繍された帽子をかぶり、各々の団体のロゴの入った横断幕や国旗を手に、30分ほど市内を歩きました。アスンシオンから駆けつけた国家警察音楽隊が、後方から元気な音楽で力づけてくれます。沿道の住民も笑顔で手を振って応援してくれました。暑さの中でしたが、マーチには約200人の参加がありました。

また、この活動には、中南米地域の障害者の連帯という意味もありました。中南米自立生活ネットワーク(RELAVIN)のメンバーが中南米9カ国で同様のマーチを企画し、そこに日本の障害者リーダーが参加したのです。「Sin nosotros no hay derechos」(我らなくして権利なし)というスローガンのもと、障害者が主体となり、地域のさまざまな関係者と連携して、国際障害者の日にマーチを開催しました。ライブでのオンライン配信も行い、Facebookページで他国の様子もシェアしあうなど、国を超えた一体感の中、自立生活の権利について声を上げることができました。

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障害者が先導して県庁前を出発

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横断幕や団体ロゴを掲げて

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メディアの取材を受けるテコサソのメンバー

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廉田さんの膝の上で笑顔を見せる子ども

自治体関係者への働きかけ

マーチの後、カアグアス県、ビジャリカ市、近隣の他市の関係者を交えたセレモニーが開催されました。自治体の代表に自分たちの思いや考えを伝えるチャンスです。テコサソのメンバーでビジャリカ市在住のフリオ・ゴンザレスさんからは、「自治体が法律に従って障害者人権事務局を設置しても、名前ばかりで機能していないところが多い。障害者の権利が守られるように、法律で定められた役割をきちんと全うしてほしい」という言葉がありました。また、本プロジェクトの合澤栄美専門家からは、「プロジェクトIMPACTOでは、『私たち抜きに私たちのことを決めないで』という障害者権利運動のスローガンに基づき、障害のある人が中心となって活動を進めるというアプローチを大切にしており、国を超えた障害者の協力、連携を推進している」という方針を説明しました。

廉田さんは、「自立というのは、自分のことが自分でできるということではない。自分で何がしたいかを決めることが最も大切で、自分でできないことは人の手を借りれば良い」と自己決定の大切さに触れ、日本では、重度の障害のある人でも、自分の意思で地域生活が可能なことをわかりやすい言葉で説明しました。また、介助者制度は障害者のためだけに高いコストをかけると思われがちだが、介助という新しい仕事を作り、障害の無い人の雇用の機会を生む仕組みであるということも強調しました。最後に、自治体関係者に向けて、「自立生活の実現には、自治体や政府の理解と協力が不可欠。障害者の声を聞いて協力してほしい」と訴えました。

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小さな会場は熱気でいっぱい

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力強い言葉で話しかける廉田さんとフリオさん(右端)

12月5日に訪問したコロネル・オビエド市そしてカアグアス市でも、自治体関係者との対話の機会がありました。コロネル・オビエド市では、「カアグアス県インクルージョン・ネットワーク」が中心となって公園で開催した地域イベントに市長も参加し、テコサソのメンバーのルーカス・サルセスさんが、「障害者が街に出るには、公共空間のアクセシビリティが必須」と訴える声に耳を傾けました。市長は車いすに乗り、公園内を車いす利用者と一緒に周った後、「コロネル・オビエド市をアクセシブルでインクルーシブな市にしていく」と約束しました。

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発言するルーカスさん

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車いすに試乗するコロネル・オビエド市長(右端)

さらに、上記イベントの後に立ち寄ったカアグアス市でも、市長と意見交換する機会を得て、自立生活の意義、障害者の権利、自治体の役割などについて話し合うことができました。市長は「障害者人権事務局を我が市にも早急に設置する。障害のある人を任命したい」と明言しました。

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カアグアス市長(左端)との意見交換

自立生活に関する意見交換

12月6日には、自立生活に関する意見交換会をアスンシオン市内で開催しました。冒頭、国会の障害者権利委員会の代表に対し、テコサソ代表のブランカ・エスコバルさんが、障害者の自立生活に関する法案を提出しました。

続いて行われた廉田さんの講演では、まず重度障害のある人が日本ではどのような生活を送っているのか、1日の様子をとらえたビデオを見せながら紹介し、その後、参加者からの質問を受ける形で対話が始まりました。国会議員、障害者、障害者の家族、支援者などさまざまな立場の人から「介助制度の経費負担」「障害者の経済的自立」「介助者の育成」「障害者と介助者の関係」「コミュニケーションが困難な障害者との意思疎通」「障害者も介助者になれるか」などたくさんの質問が寄せられ、質疑応答の時間は1時間を超えました。

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自立生活に関する法律の制定が必要と強調するブランカ・エスコバルさん

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会場の様子

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壇上の廉田さん

パラグアイでも自立生活を!思いを新たにしたテコサソ

このように活動が盛りだくさんの1週間でしたが、ミッションの皆さんは、休日や夜も含め、テコサソのメンバーとの話し合いに最大限の時間を割いてくださいました。パラグアイにおける法整備や障害者支援施策などの背景に始まり、各自の障害や介助の状況、家族構成などプライベートな内容、コスタリカでの研修から学んだこと、これから進めていきたい活動など、話題は尽きません。

また、廉田さんが自立生活センターを立ち上げた頃の話、日本の介助者制度がどのように機能しているか、これから制度を作っていく上で気をつけるべきポイントなどについて、たくさんの示唆をパラグアイ側は受け取りました。自立生活に向けた道を歩み始めたテコサソのメンバーは、日本からのミッションの皆さんから勇気をもらい、背中を押してもらったと話しています。これからいろいろな苦労があっても、揺るがない信念とチームワークで、共通の目標に向かって一歩ずつ進んでいこうという決意を新たにしている姿が印象的でした。

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日曜午後の意見交換はショッピングモールで

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ビジャリカ市に住むテコサソのメンバー自宅で

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カアグアス市でも自宅に招かれ意見交換

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1週間の活動を終え、空港でお見送り