「大丈夫だよ」と言える、言ってもらえる関係〜障害のある仲間が一緒に声を上げるために〜

2023年6月20日

つくばからアスンシオンへ

5月27日の深夜、つくば自立生活センターほにゃら事務局長の斉藤新吾さんが、アスンシオンに到着しました。空港にはパラグアイ自立生活協会テコサソを代表して、ブランカ・エスコバルさんとスルマ・フェレイラさん、その家族が手作りの横断幕を準備し、今か今かと到着ゲートをのぞき込んでいました。

昨年12月には、国際障害者の日に合わせ、西宮市のメインストリーム協会と江戸川区のSTEPえどがわの皆さんが、自立生活に関する啓発活動のためにパラグアイに来てくださり、市街地で開催したマーチや講演などを通して、地域に住む障害者の存在を可視化し、本人の意思で自立生活を実現することの大切さについて、さまざまな立場の人たちに訴えることができました。そして今回は、つくば市から斉藤さんが、テコサソのメンバーに会うために来てくださったのです。このように、二度にわたって日本の障害者リーダーがパラグアイに駆けつけてくれることとなり、テコサソのメンバーの感激もひとしおです。

【画像】日本とパラグアイの国旗、スペイン語、グアラニ語、日本語の3か国語での横断幕で大歓迎

【画像】真夜中の空港に、あふれる笑顔

各地のテコサソメンバーと意見を交わす

今回の訪問における最優先テーマは、自立生活について、障害のある人たち自身がまず理解を深めること。パラグアイでは、多くの障害者は家族の介助を受けており、家族以外の人の介助サービスを利用しながら、障害者が自分らしく生活するという考え方そのものがまだ知られていません。パラグアイ自立生活協会テコサソの中心メンバーは、日本で開催されたJICAの研修プログラムで障害者の自立生活について学んだ人たちですが、新しく加わったメンバーには、自立生活の理念や実践をまだよく理解していない人も。斉藤さんは、首都アスンシオン近郊に加え、ビジャリカ市とコロネル・オビエド市も訪問し、それぞれの地域で障害のある人たちと話し合いました。

コスタリカで実施した自立生活研修に参加したメンバーからは、「家族と出かけた時と、介助者と出かけた時では、気持ちが全然違った。介助者と一緒の時は、もっと自由で、自立した気持ちになれた」という声や、「コスタリカで初めて、自分の人生を楽しむとはどういうことなのか実感した」という感想が聞かれました。自立生活センターを自分たちの住む地域にも作りたい、そのためには何から始めるべきなのかという切実な質問が寄せられます。

自立生活センターの主な機能として、斉藤さんは①ピアカウンセリング、②自立生活プログラム、③介助者育成と派遣、④障害者の権利擁護について説明する中で、まず取り組むべき活動として、ピアカウンセリングの大切さを強調しました。「障害のある人の多くは、自分を否定されてきた経験から、自分が好きでなかったり、自信が持てなかったりします。障害者同士が平等の立場で、否定や批判をせずに話を聞き合うピアカウンセリングには、その人の課題はその人が解決する力を持っていて、いつかはできる、という考えが基盤にあります。このプロセスを経て、自分を認めることが、相手と対等の関係を築くことにつながり、それが社会を変えていく力になるのです。」と語る斉藤さんの話に、テコサソのメンバーは大きくうなずき、聴き入っていました。

【画像】SENADIS内の会議室に集合した、セントラル県在住のテコサソのメンバー

【画像】どんな自立生活センターを実現したいか、アイデアをシェア(ビジャリカ市)

【画像】自分たちの想いを語る、テコサソのメンバー(コロネル・オビエド市)

地域のインクルージョンネットワークのみなさんと

プロジェクトIMPACTOでは、インクルーシブな地域づくりに向け、ビジャリカ市とコロネル・オビエド市で活動している、公的機関や市民団体等からなるインクルージョン・ネットワークと連携して活動を進めています。斉藤さんには、このネットワークの関係者に対しても、自立生活の意義について説明していただきました。ここでは、介助者制度について、「介助者の資格要件や研修」「派遣制度の仕組み」「予算措置」など、具体的な質問が続き、関心の高さが感じられました。活発な意見交換となり、参加者からは「貴重な機会で、とても勉強になった」と感謝の声が寄せられました。

【画像】ビジャリカ市で開催された、公開セミナーにて語りかける斉藤さん

【画像】30人を超える参加者が集まった(ビジャリカ市)

【画像】コロネル・オビエド市での公開セミナーにも多くの人が参加

【画像】介助者制度に関する具体的な質問が次々と寄せられた

障害のある人たちの住まいで想いに耳を傾ける

さらに、テコサソのメンバーから自宅に招かれ、食事をとりながら、意見交換をする機会もありました。ビジャリカ市では、兄弟でテコサソのメンバーとして活動している、フリオ・ゴンザレスさんとフアンカルロスさんの自宅に、障害のある仲間が集まり、夜遅くまで、話が弾みました。かしこまった場では出てこないような、家族との関係や、パートナーとの馴れ初めなど、プライベートな話題も。パラグアイの障害のある人たちの普段の生活について、日本から来たメンバーが理解を深める機会にもなりました。

テコサソ代表のブランカさんの自宅では、自分史を語ってもらい、幼い頃のエピソード、教育現場で直面した困難、障害者権利運動に関わることになった経緯、現在の状況について感じることなど、さまざまな切り口で話を聞くことができました。

【画像】フリオさんとフアンカルロスさん兄弟の自宅にて(ビジャリカ市)

【画像】テコサソ代表のブランカさんの自宅にて(カピアタ市)

【画像】パラグアイの家庭料理も体験

印象的なエピソード〜ダンボールの財布

斉藤さんが自立生活を始めた経緯など、個人的なストーリーになると、パラグアイ側の関心が特に高くなり、聞き漏らすまいと身を乗り出している様子が見られました。特に、「ダンボールの財布づくり」のエピソードは、多くの人の心に刻まれたようです。

世界中を旅して、その土地のダンボールのデザインを活かして財布を作っているアーティストがいることを、インターネットで知った斉藤さんは、図書館で彼の本を探して、そこに書いてある作り方を参考に、自分も財布を作りたいと思ったそうです。スーパーで段ボールをもらい、介助者と一緒に財布を作ってみたところ、自分は満足しているけれど、周囲の人はあまり関心を示さなかったとのこと。パラグアイの関係者は、「段ボールで財布を作る!?」と驚いて、ぐっと惹きつけられています。

そこで斉藤さんは、「この短いエピソードの中に、自立生活の大切な要素がいくつも含まれていますが、わかりますか」と語りかけます。自分が興味を持ったことに挑戦できること、自分の手で作れなくても、介助を通じて自分が好きなことをすること、他の人にはつまらないことでも自分でやると決めたらできること、それをサポートすることが介助という仕事として成り立っていること。。。それを聞いて、なるほど!と腑に落ちた様子のパラグアイ側のメンバー。「ダンボールの財布」は自立生活の意義を再確認するキーワードとして、テコサソのメンバーに語り継がれることでしょう。

【画像】話を聞いて、早速マテ茶のパッケージで財布を作成したブランカさんの作品(左側)
右側は斉藤さん作成

【画像】それぞれが作った財布を交換

「これから一気に開花していく」

最終日の意見交換会で、斉藤さんからは、次のような言葉がありました。「パラグアイの自立生活運動は始まったばかりという印象で、自立生活についてまだ知らない障害者も多い。日本の1980年代後半に、自立生活のコンセプトが知られるようになってきた頃のような感じ。みな、学びたいという思いが強く、これから一気に開花していくのだろうと思います。当事者が勇気づけあい、元気をお互いからもらえることが大切な時期なので、まずはピアカウンセリングから始めるという戦略が良いと考えます。そのためには、交通手段や場所などの確保が必須となるので、JICAなどの継続的なサポートが望まれます。」

障害者一人では声を出すのが難しく、声を上げるためのエネルギーが必要。そのためには、「大丈夫だよ」と言ってもらえること、言えることが大切、と斉藤さんは強調しました。地球の反対側で障害者が活動している姿を見て、日本の自分たちも力づけられる、とも。テコサソのメンバーは、はるばる来てくださった斉藤さんに勇気づけられ、力を合わせて活動を進めていこうと気持ちを新たにしています。プロジェクトIMPACTOでは、7月にボリビアから障害者リーダーを招いて、ピアカウンセリングと介助者育成の研修を実施する計画です。