障害者も介助者も社会も変わる、自立生活運動
〜ボリビアの仲間との活動を通じて得たもの〜

2023年8月10日

ボリビアから4人の障害者と4人の介助者が到着

7月17日深夜、ボリビアから8人のチームがパラグアイに到着しました。車いす使用者の4人はJICAの研修に参加した経験者で、自立生活動のリーダーです。日本の障害者団体から学んだことを活かして、ボリビアで自立生活センターを立ち上げ、ピアカウンセリングや介助者の育成、派遣をすでに実施しています。自分たちの経験や知識、スキルをパラグアイの仲間に伝えるために、介助者4人と共に、数ヶ月かけて入念に準備をしてくれました。これまで何度もオンラインで話し合いを重ねてきたので、「やっと会えたね!」と喜び合いました。

アスンシオンの空港に到着したボリビアのチームとパラグアイ、日本側の関係者アスンシオンの空港に到着したボリビアのチームとパラグアイ、日本側の関係者

地方都市のビジャリカで、4日間の研修を開催

早速、翌日にはアスンシオンから約160キロ離れたグアイラ県ビジャリカ市へ移動。アスンシオンの所在するセントラル県から11名、ビジャリカ市から8名、カアグアス県のコロネルオビエド市及びカアグアス市から合わせて5名が集合し、研修が始まりました。

今回の研修には、講師8名と受講者24名が参加し、うち16名に障害(車いす使用者13名、歩行器や杖の使用者2名、視覚障害者1名)があります。アクセシブルな居室が複数あり、研修会場や食堂なども車いすで利用できる施設をパラグアイで見つけるのは簡単ではありませんでしたが、ビジャリカ市郊外にある、車いすでも利用しやすいホテルを会場に選びました。

研修開始のセレモニー研修開始のセレモニー

ボリビアの研修講師の自己紹介ボリビアの研修講師の自己紹介

自立生活の意義とピアカウンセリングの手法を学ぶ

今回の研修の大きな特徴は、障害のある人はピアカウンセリングに関する研修に参加し、同じ時間帯に、障害のない人は別の部屋で介助について学ぶという構成である点、そして障害者が主な講師を務めるという点です。

ピアカウンセリングでは、障害のある人同士が平等な立場で話を聞き合い、自己信頼を回復するなど精神的なサポートを行うとともに、自身の権利や自立生活に関する理解を深める支援も行います。会場には障害の無い人は同席せず、プライバシーが守られる環境で研修は行われました。30時間にわたる研修は、日本の自立生活センターで実施されているプログラムやマニュアルをもとに作られており、ピアカウンセリングに関する説明、参加者間の経験の共有、ロールプレイなどさまざまな内容が含まれていました。

開放的な雰囲気で行われたグループセッション開放的な雰囲気で行われたグループセッション

ピアカウンセリング実践の様子ピアカウンセリング実践の様子

自立生活をサポートする介助者の育成

パラグアイでは障害者の介助制度は整備されておらず、障害者の多くが家族の介助を受けており、家族以外の人の介助を受けるというコンセプトそのものが新しいという状況です。今後、パラグアイで自立生活を実現するためには、介助者の育成が不可欠であることから、今回の研修を通して、自立生活の意義や介助者の役割を理解し、介助に必要な基礎的知識や技術を身につけた介助者の育成を行いました。

この研修はボリビアの障害者リーダーと介助者がチームとなって行い、講義に加え、ロールプレイの寸劇発表や介助の実践が盛り込まれています。車いすでの移動介助、食事や着替え、体位変換のサポートなどを、屋外や室内を行き来しながら学びました。また、障害のある講師からは、障害者にとって自立生活がどれほど大切であるか、また、介助サービスを利用する側の想いについて話があり、介助者である講師からは、自分が介助に関わることになった経緯や学んだことなどについて共有があり、参加者の心に響く内容でした。

凸凹な地面を車いすで移動する練習凸凹な地面を車いすで移動する練習

着替えの介助方法を学ぶ着替えの介助方法を学ぶ

12人のピアカウンセラーと12人の介助者が誕生

この研修を通じて、障害のあるピアカウンセラー12人と、介助者12人が育成されました。これらの分野で、障害者が講師となって包括的な研修プログラムを実施するのはパラグアイで初めてで、この24人は自立生活の実現に向けたパイオニアと言えます。

修了式では参加者全員が、学んだことや決意を述べ、自立生活センターを立ち上げ、ピアカウンセリングや介助者の育成および派遣を実施できるよう、協力して活動を進めたいという意思表明がありました。また、多くの人が、このような研修に参加できる機会を得たことに感謝し、他の障害者をサポートしたいという気持ちを述べました。

研修最終日、全員で集まり、感想を共有研修最終日、全員で集まり、感想を共有

研修を終えた12人の介助者と講師たち研修を終えた12人の介助者と講師たち

ボリビアの仲間たちの言葉の重み

このような泊まりがけの研修を開催したことで、朝から晩まで講師と参加者が多くの時間を共にし、交流を深めることができました。二日目の夜には、”La Lucha(闘い)”というドキュメンタリー映画を全員で鑑賞。2016年、人間として尊厳のある生活を行うために最低限必要な経済支援として障害者手当の支払いを政府に求め、ボリビアの障害者たち、はコチャンバンバからラパスまで380キロを行進し、その後も政府との交渉に臨みました。この映画は、その過程を記録したものです。

映画には、今回の研修講師として参加している障害者リーダーも登場しており、彼らの直面した困難と、それに立ち向かう強い意志が伝わってきます。パラグアイの参加者は息を飲み、食い入るようにして画面を見つめていました。「バリアがあっても、障害者が街に出ていかないと社会は変わらない」「障害者が多数集まって行動することで、インパクトを生み出せる」というボリビアのリーダーの言葉が重みを増しました。

研修終了後、ホテルの食堂で映画を鑑賞研修終了後、ホテルの食堂で映画を鑑賞

真剣な眼差しの参加者たち真剣な眼差しの参加者たち

築かれた絆

4日間の研修を通し、パラグアイ側の参加者は、自立生活の基本理念や自立生活センターの役割などに関する理解を深め、障害のあるメンバーはピアカウンセリングについて、障害の無い参加者は介助について、理論を学び、実践してスキルを習得しました。これらは基礎的な内容であり、これから実践を重ね、技術を磨いていくことになります。

ボリビアの研修講師たちからは、「パラグアイの皆さんがこれから実際に活動を進める中で、質問や疑問が出てくると思います。その時には、いつでも私たちに連絡してください。常にそばにいますよ」と心強い言葉がありました。物理的なバリアが多く、公的支援に限りがあり、障害者の権利や自立生活に関する認知度が低いなど、両国の障害者は同様の課題に直面しています。そのような中で自立生活を実現しているボリビアの仲間の経験を知り、パラグアイ側の参加者は「自分たちも、もっと頑張らなければ」という気持ちになったようです。現在のプロジェクトが終了しても、今回の研修を通して築かれた絆をもとに、自立生活の実現に向けた、ボリビアとパラグアイの関係者の協力が続くことでしょう。

研修終了後、全員で記念撮影研修終了後、全員で記念撮影

自立生活のインパクト

滞在中、ボリビアからのミッションメンバーが、アクセスが悪い場所でも、どんどん出て行こうとする姿からも、パラグアイ側は刺激を受けました。余暇やレクリエーション活動を楽しむことは、障害の有無に関わらず、すべての人の権利であり、自立生活の大切な一部であることを再認識する機会になりました。行く先々で周囲の人の注目を集め、言葉を交わし、必要な時はサポートを受けていると、このように障害者の存在が見えるようになり、自然な交流が増えることが、社会を変えていくのだろうと実感します。

ボリビアの介助者のひとりは「自分は過保護に育てられ、以前は、家族から言われた通りに行動していた。でも、介助の仕事を始めて、障害のある人たちと一緒に色々な新しいことを経験するようになった。自立生活を通じて、介助者も変わるのです」と語っていました。自立生活運動を通じて、障害者も介助者も社会も変わる。今回の研修を通じて得た大切な学びのひとつです。

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