(和)地震直後におけるリマ首都圏インフラ被災程度の予測・観測のための統合型エキスパートシステムの開発
(英)The Project for development of integrated expert system for estimation and observation of damage level of infrastructure in Lima Metropolitan Area
ペルー
2021年7月14日
2021年9月8日から2026年9月7日
(和)ペルー国立工科大学日本・ペルー地震防災センター
(英)UNI-CISMID
東京大学、産業技術総合研究所、東北大学、千葉大学、東京工業大学、名古屋大学等
ペルー国は、日本と同様に環太平洋地震帯に位置し、地震・津波が多発する国のひとつである。1970年に発生した北部アンカッシュ大地震(M7.7)では、約7万人が犠牲となった他、近年においては、2001年の南部アレキパ大地震(M8.2)、2007年の中部イカ州大地震(M7.9)、2017年のアレキパ地震(M6.3)等、いずれも多くの死傷者と経済被害をもたらしており、繰り返し発生する地震・津波の被害は当国の持続的開発の弊害となっている。特に、ペルー総人口の3割強を占めるリマ首都圏(約1千万人)で大地震が発生すれば、主要な社会インフラやライフラインへの深刻な被害は免れず、社会的・経済的影響は計り知れない。
ペルー国内においても、科学的データに基づき脆弱性やリスクを評価しつつ防災や減災の取組みを促進していくことが喫緊の課題であると認識されており、防災分野の研究が進められている。特に、1986年に実施された技術協力プロジェクト「日本・ペルー地震防災センター(CISMID:Centro Peruano Japones de Investigaciones Simicas y Mitigacion de Desastres)プロジェクト」において同センターが設立され、さらに耐震工学や都市防災等に関する技術移転が行われて以降、CISMIDはペルー国内だけでなく域内の地震研究センターとしてその地位を確立している。その後の日本からの継続的な協力・技術移転を踏まえ、域内他機関と比較して、地震リスク軽減のためのマイクロゾーニング技術、及びその技術を利用した地震被害予測、建築物の構造健全性モニタリングを通じた被害検出技術等において、域内の中で技術優位性を有している。これら研究が進められる一方で、ペルー政府は災害リスクへの対応のため、2011年5月に「国家災害リスク管理システム(SINAGERD:Sistema Nacional de Gestion de Riesgo de Desastres)」を制定し、国家諮問機関として、災害準備・緊急対応・復旧を担当するペルー国家防災庁(INDECI:Instituto Nacional de Defensa Civil)、防災・減災・リスク評価・復興を担当する国家災害リスク予防研究センター(CENEPRED:Centro Nacional de Estimacion, Prevencion y Reduccion de Riesgo de Desastres)を位置付け、災害被害の削減を行っていくこととしている。CISMIDは、SINAGERDのメンバーとして位置づけられており、INDECI・CENEPREDと災害に係る包括協定を締結し地震・津波対応に係る研究を行っているものの、分野横断的な研究には至っていない。
都市部における地震・津波災害への対応としては、地震前対策として、1)地震・津波発生のメカニズムの解明と発生予測、2)都市のリスク把握、3)地震荷重に対応した耐震性能評価方法の開発と構造物の耐震補強の開発・普及が挙げられる。また、災害発生後の早期対応では、4)インフラを含めた構造物の被災度の早期把握、5)安全な避難誘導により、死傷者の軽減と二次被害の防止、早期のサービス復旧を図る必要がある。CISMIDでは、過去の協力や関係機関との共同研究を通して個別の知見が蓄積されてきているものの、上記5つの研究を有機的に繋ぎ、特に4)、5)に資する研究成果に至っていない。同国では災害対応機関・被災者の視点に立った研究要望が高まっており、そのうちの一つとして、SINAGERD内で用いる災害時の横断的な情報共有システムの構築があげられている。これは、地震・津波の観測や被害予測に係るデータベース(地震モニターネットワークや地殻変動ネットワーク、衛星画像等)を統一システムで管理し災害時に情報を包括的に把握し、地盤や構造体の震動をリアルタイムでモニタリングすることでライフライン・重要建築物の被害を早期に把握するものである。
CISMIDが域内でもつ技術優位性や過去の成果を活用しつつ、これら課題を解決し、災害対応にあたる関係機関間での情報共有の迅速化・効率化に資する研究開発、及び災害対応力強化に向けた社会実装が期待される。
なお、本事業は、2010年から2015年に実施した「ペルーにおける地震・津波減災技術の向上プロジェクト」(SATREPS)の後継事業にあたる。前事業では、過去の災害事例からシナリオ地震を設定し、そのシナリオに基づいた地震動・地盤変状予測、津波被害予測がなされ、地震・津波災害のリスク評価に資する協力が実施された。本事業では、これらの技術的な成果を活用し、地震・津波発生時のライフライン・重要建築物の被災度評価システムを確立し、地震・津波情報と合わせてそれら被災情報を一元管理する「統合型エキスパートシステム」を構築することで、早急な災害対応に資する関係機関間での情報共有の効率化や意思決定の迅速化を図る。
統合型エキスパートシステムにより、ペルーの地震・津波に対する災害対応能力が強化される。
地震発生直後に建物やインフラの被災状況を推定する統合型エキスパートシステムが開発されるとともに、システムを有効に活用するための人材育成方法が確立される。
1.地震解析システムと地震ハザード評価システムが改善される。
2.津波浸水シナリオが更新され、津波浸水被害予測能力が強化される。
3.建物の被災度即時評価システムが開発される。
4.ライフラインを含めたインフラの被災度即時評価システムが開発される。
5.地理情報システム(GIS)を活用した統合型災害情報システムが構築される。
6.成果1から5で構成される統合型エキスパートシステムを有効に活用するための人材育成方法が確立される。
1-1.地震シナリオを更新し、既存の地震解析システムを改善する。
1-2.地震シナリオをもとに震源を特定した地震ハザード評価システムを改善する。
2-1.新たに示された地震発生モデルに基づいて、津波浸水シナリオを更新する。
2-2.津波被害推定のための曝露データ(人口、建物等)を構築する。
2-3.津波浸水被害予測システムを構築し、被害予測手法を確立する。
3-1.現地建物の安全限界変形の評価手法を確立する。
3-2.医療施設を中心とした災害時拠点建物の被災度即時評価システムを開発する。
4-1.インフラ(道路網)、ライフラインシステム(上下水道)とその環境(地盤特性、供給地域、構造形式、地震時脆弱性等)を調査する。
4-2.インフラ・ライフラインの被災度即時評価システムを開発する。
4-3.道路網の地震時脆弱性評価と医療施設・避難所の位置を考慮した避難経路推定システムを開発する。
5-1.建物・ライフラインの被害推定に必要な統合型GISデータベースを構築する。
5-2.活動1-1から4-3で収集する観測情報を用いて、被害推定手法を開発する。
5-3.災害対応の意思決定を支援するシステムを開発する。
6-1.災害対応機関向けの人材育成方法を開発する。
6-2.市民向けの災害対応ガイドラインを作成する。
1.在外研究員派遣:地質科学、地盤工学、津波技術、建築構造、ライフライン・インフラ、GIS・リモートセンシング、防災人材育成等
2.招へい外国研究員受け入れ:地震解析分野、津波被害予測分野、建築物被災度評価分野、インフラ被災度評価分野、GIS・リモートセンシング分野等
3.機材供与:地盤モニタリング機器、津波浸水のモデル化・被害予測設備、建物損傷度評価システムの開発設備、インフラ用地動監視システム設備、GIS・リモートセンシング統合解析システム設備等
カウンターパートの配置、案件実施のためのサービスや施設、現地経費