プロジェクトベースライン調査の実施

2018年2月23日

シエラレオネ国持続的コメ生産プロジェクト(SRPP)は、当国のコメの生産性を向上させることを目的とし、2017年6月から5年間の予定で開始されました。シエラレオネは西アフリカに位置する小国で、世界最貧国の一つとされています。1990年代から約10年続いた内戦を乗り越えて復興途上にありましたが、近年、エボラ出血熱の流行によって国民の生活は大きな打撃を受け、そこからの回復が急務となっています。

シエラレオネはアフリカでも有数のコメ消費国であり、年間一人当たりの消費量は100kgを超えています。そのコメ生産を担っているのは、自給的農業を生活の糧とする小規模農民ですが、インフラや技術の未発達により、その生産性は未だ非常に低い水準にとどまっています。このような状況を改善するため、JICAはこれまで、国の北部にあるカンビア県で2つのプロジェクトを実施し、それらを通じ、稲作技術パッケージ(TP-R)を作成しました。TP-Rには播種から収穫後処理まで、この国におけるコメの生産性向上につながる技術が凝縮されています。SRPPでは、カンビア県と、その近隣県であるポートロコ県、ボンバリ県の3県でTP-Rを普及し、最終的にはその普及範囲を全国に広げることを目指しています。

プロジェクトの第1年次では、当該地域の現況について把握する為に、対象3県において、農家の稲作栽培状況や社会経済状況を知るためにベースライン調査を行いました。本調査を通じて、現在の農家の生活の困難や農業生産活動上の問題点を把握し、それらを解決しつつ、目的達成に必要なプロジェクト活動を計画します。

従来のこういった調査/モニタリングでは、主に紙の質問票を使った聞き取り調査が一般的でした。しかし、この方法は収集した情報の整理に時間がかかり、得られる情報の正確性にも問題があります。そこで本プロジェクトでは、情報通信技術(ICT)を利用した新しい方法を用いた調査を試みることにしました。具体的には、質問票のアプリケーションを作成して、それをスマートフォン(端末)に組み込みます。調査員は、聞き取りをした情報をその端末に入力します。すると、入力された情報は自動的にWeb上のクラウドに転送され、その情報を現場から遠く離れた場所でチェックすることができます。そうすることにより、入力ミスやおかしな情報を短時間で特定でき、すぐに必要なフィードバックを行うことが可能となります(下図参照)。また、複数の調査員から送られてくる情報は、自動的に表の形に整理されるので、情報の分析やとりまとめを容易に行うことが出来ます。

また、本調査前には、調査員である農業普及員を対象に、準備のための事前研修・訓練を2日間行いました(下記写真)。若い普及員がすぐにアプリケーションを使いこなす一方で、端末の操作に慣れない年配の普及員達は、簡単な名前の入力にも四苦八苦しました。しかし、情報入手の正確性や農家への質問の仕方に関しては、経験豊富な年配の普及員に軍配が上がります。2017年12月第1週から始まったベースライン調査は3週間に亘り、3県で計1200戸の個別農家、265の農民グループの調査を行いました。調査結果は現在分析中で、プロジェクト1年次の終了時にはベースライン調査報告書としてまとめる予定です。今回のようなICTを利用した調査は、国際機関の間でも利用が広まっており、今後更に多方面での応用が期待されます。

【画像】ICTを用いた調査の概念図

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ベースライン調査のための研修風景

(社会経済調査/プロジェクトモニタリング・評価担当 吉村)