ASEAN災害医療連携強化プロジェクト(ARCH Project)の延長が決定-プロジェクト・ワーキング・グループ会議において延長期間中の活動が承認されました-

2019年7月11日

プロジェクトの延長

2016年7月より開始された、ASEAN災害医療連携強化プロジェクト(The Project for Strengthening the ASEAN Regional Capacity on Disaster Health Management:ARCH Project)は2019年7月までの活動を予定していましたが、プロジェクトの一環として実施されてきた協議の場や成果物を、ASEAN地域の公的な枠組みとして位置付ける動きが見え始めたため、ASEANにおけるプロジェクトの成果承認プロセスを支援することなどを目的として2021年3月までの延長が決定されました。

これまでの3年間の活動を通じて、ASEAN地域内の災害医療における連携調整促進のために地域調整委員会が設置されました。またその傘下に設置されたプロジェクト・ワーキング・グループでの議論を経て、ASEAN加盟国の災害医療チーム域内派遣の標準手順書などが開発され、地域連携合同演習の機会を通じて検証されてきました。

第31回ASEANサミット(2017年11月)において、ASEAN諸国があらゆる災害に一丸となって対応することを目指す”One ASEAN, One Response”の理念の下、「災害医療に関するASEAN首脳宣言(ASEAN Leaders’Declaration on Disaster Health Management)」が、採択されました。この宣言には、これまでにARCHプロジェクトが推進してきた、ASEAN各国の災害時の連携を促進するために必要な手続きをまとめた標準手順書の開発、災害医療における学術的ネットワークの強化、災害医療人材の育成などが盛り込まれています。

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自然災害多発国である我が国は、災害医療分野の経験や知見を多く有しています。ARCHプロジェクトでは、本邦の災害医療をリードする医師や看護師らからなる専門家を国内支援委員として招聘し、また国際緊急援助隊関係者らとも連携しながら活動を進めてきました。これによりASEAN各国の災害医療関係者との連携が強化され、さらには、日本の災害時医療情報収集システムJ-SPEEDをもとにして開発されたiSPEEDのASEAN域内での普及も期待されており、当初のプロジェクトの枠組みをこえた大きな波及効果がもたらされています。

ARCHプロジェクトでは、2021年3月までの延長期間中、以下の8分野での活動を予定しており、タイ国保健省および国家救急医療機関(NIEM)、ASEAN事務局、ASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)、そしてASEAN各国代表者らとともに、ASEAN地域における災害医療の連携体制の一層の強化を目指します。

1. 「災害医療に関するASEAN首脳宣言」行動計画を推進する活動計画案の作成
2. 実災害医療における教訓の蓄積と共有メカニズムの構築
3. ASEAN各国の国際災害医療チームの域内迅速展開のための地域取り組み
4. ARCHプロジェクト(第1フェーズ)成果物の「ASEAN災害対応標準手順書」への統合
5. ASEAN地域連携合同演習の実施
6. ASEAN各国の災害医療における能力開発に関する調査
7. 災害医療に関する地域研修センターの設置と標準研修カリキュラムの開発
8. ASEAN災害医療学術ネットワークの構築とセミナーの開催

プロジェクト・ワーキング・グループ会議の開催

2019年7月9~11日、タイのバンコクにおいてASEAN加盟各国政府の災害医療関係者、ASEAN事務局、タイ政府関係機関、JICA、国内支援員会、ARCHプロジェクトチームの参加により、プロジェクト・ワーキング・グループ(PWG)会議が開催されました。

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災害医療に関する学術ネットワークと研修メカニズムの構築、標準カリキュラムの策定、実災害対応での教訓を蓄積するためのメカニズムの構築、国際災害医療チームの迅速展開のための地域取り組みなど、ARCHプロジェクトが延長期間中に実施する活動の概要、実施スケジュールが共有され、活発な意見交換が行われました。

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JICA国際緊急援助隊の活動報告

2019年3月にモザンビーク共和国で発生した、サイクロン災害対応に派遣された、日本の国際緊急援助隊医療チーム、緊急医療チーム調整所(EMTCC)での支援活動について、日本の国内支援委員より報告が行われました。WHOのEMTタイプ2に認証されている国際緊急援助隊は、ARCHプロジェクトを通じてASEAN各国が目指すひとつの目標であり、医療活動のみならず、アクセスの悪い首都から遠く離れた遠隔地での医療活動を支援するためのロジスティクス面の重要性などについて、活発な質疑応答が行われました。

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Comprehensive Team Information

ARCHプロジェクトが、世界保健機関(WHO)のツールをもとにして、ASEAN加盟国のために開発したComprehensive Team Informationと呼ばれる様式は、緊急医療チームの組織構成、医療施設展開図、医薬品を含む資機材リストなどで構成されており、緊急医療チーム設置の意思を有する国々にとっては、今後取り組まなければいけない事項が具体的に示された道標となります。本PWG会議では、グループワーク形式で、各国代表者による模擬入力、検証が行われ、この様式案への改善点などが協議されました。

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地域連携演習

2019年11月には、インドネシアのバリ島で、火山噴火災害を想定した地域連携演習が予定されています。インドネシア保健省担当者より、演習の準備状況や課題などが報告され、日本の国内支援委員、タイの専門家チーム、そして前回の演習主催国であるフィリピン担当者らから、様々なアドバイスが行われました。

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今後、プロジェクト第1フェーズで開発された災害医療チーム域内派遣の標準手順書などのASEAN災害対応標準手順書への統合、プロジェクトの提唱により設置された地域調整委員会のASEAN公式会議への転換などにより、さらなるプロジェクト成果の持続性が図られる予定になっています。

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