優良種子の普及を目指して(1)

2022年4月25日

稲作において種子の質(注1)はとても重要であり、生産されるコメの収量や品質の良否に直結します。いかに高収量、高品質なコメの品種であっても、質の低い種子を使用していては品種本来の特性どおりの収量、品質のコメをつくることはできません。一方、ザンビアにおいては優良種子を利用する一般農家の割合は非常に低い状態に留まっています。例えば、当プロジェクトの対象地の一つであるルアプラ州では市場に優良種子はほぼ流通しておらず、少なくとも当プロジェクトの研修に参加した農家には購入した優良種子を利用している方はほとんどいません。大半の一般農家は、自家採種、つまり自分で生産したコメ(籾米)の一部を翌年のコメ生産の種子として使っていたり、近隣の農家から種子をもらってきたりしていますが、それらの種子を当プロジェクトが調査したところ、他品種の種子などが46%も混じっていました。ザンビアにおいては、認定を受ける優良種子であれば最低でも97%の純度が必要とされていますので、多品種等の混じり具合だけを見ても、種子の質が低いことが分かります。

ザンビアの一般の農家による優良種子の利用が進んでいないのには様々な理由が考えられますが、優良種子に対する認識が低いということは理由の一つです。通常は自殖(注2)するコメは異なる個体の遺伝子が混じりにくいため、自家採種した種子を使っても、他殖(注2)の作物と比較して遺伝的な特性は保たれやすく、優良種子を毎年購入する意義は理解されにくいと言えます。しかし、そうであっても、単純に生産したコメを翌年の種子としてコメを生産し、さらにそのコメを翌々年の種子にするというように、質の高い種子の増殖/生産や利用ということを考えずに、ひとつの種子から増殖/生産を何度も繰り返していると、実際にはその品種本来の特性は少しずつ失われます。最初に優良な種子を使ったとしても、年々、収量や品質が落ちていきます。当プロジェクトで純度の高い優良種子を一般農家に配布した結果、収量が大幅に向上したことからも、(特に質の低い種子が現在利用されていることもあって)一般農家が優良種子の利用する意義は大きいと考えられますが、このような事柄はザンビアの一般農家に十分には認識されておらず、少なくとも優良種子を市場で購入しようとするほどまでには意義が理解されていません。

また、コメの優良種子は市場では手に入りにくく、また、流通している種子の質が高くないことも要因となっていると考えられます。流通しているコメの種子は他の作物と比べて、量、種類ともに少なく、また、質も低いというのが現状です。需要が小さいから生産・供給されていないということは間違いありませんが、コメ種子どころかコメ自体の市場が未成熟であるため、市場では認証された優良なコメ種子が十分には供給されてはおらず、農家が購入できる種子の質が高くないことが購入意欲の喚起を妨げているとも考えられます。

流通しているコメ種子の質が高くないことは、ザンビア全体の優良種子生産・供給の仕組みがしっかりと機能していないことも関係しています。優良種子は、一般的には、全ての元種となる育種家種子から、遺伝的な品種特性を維持させつつ、原原種種子、原種種子というように段階的に増殖され、さらに、それを元に民間種子会社や種子農家が需要に合わせて農家に販売するための種子を生産します。そして、定められた品質基準を満たしていると認定された種子が、認証種子として市場で販売されます。このような仕組みはザンビアでも基本的にはほぼ同じですが、ザンビアでは実際には様々な課題があります。増殖の上流の工程にある育種家種子や原原種といった種子の品質はその下流にある種子の増殖/生産や延いてはその品質に強く影響するため極めて重要ですが、ザンビアではこれらの上流の種子でも遺伝的純度に問題があるような状況です。また、これらの種子の品質維持や種子増殖/生産は政府機関によって行われていますが、その技術が未熟であったり、増殖/生産するための圃場や設備も十分ではありません。また、他の穀物に比べてコメ生産が盛んでいないということもあり、生産されたコメ種子を認証する種子検査官も限られています。

このように多面的な課題があって、ザンビアにおいては一般農家による優良種子の利用が進まず、結果として、質の低い種子が使われています。このような現状に対して、当プロジェクトは様々な活動を行っています。次回の記事では、それらの活動を紹介します。

(注1)優良な種子とは、品種の特性をそのまま備えている、多品種や異物などの混じりがない、発芽率が高い、病害虫に侵されていない、粒が充実している種子を指す。ザンビアでは、ライセンスを持った種子検査官によって、種子の純度や発芽率、水分量なども含め、様々な検査が行われ、定められた品質基準を満たしているもののみが認証された優良種子となる。なお、種子の認証には、生産された種子の検査だけではなく、種子の栽培過程において圃場審査も行われる。
(注2)同じ個体のおしべの花粉がめしべに受粉・受精して種子をつくることを自殖、別の個体で受粉・受精をすることを他殖と言う。通常であればコメは自殖するが、100%自殖するとは限らない。

【画像】一般農家の利用している種子を栽培品種の種子と混入物等に分類した様子(栽培品種の種子は全体の半分程度。残りの半分近くは混入物である。)