優良種子の普及を目指して(2)

2022年5月10日

前回の記事では、ザンビアの一般農家では優良種子の利用は進んでいないこと、そして、その背景には多面的な課題があることをお話ししました。今回の記事では、それらの課題に対する当プロジェクトの活動を紹介します。

当プロジェクトが優良種子を一般農家に配布した結果、収量が18%向上したことからも(注1)、優良種子の利用は一般農家のコメ生産性向上に有効であり、優良種子を一般農家が市場で毎年購入して利用することは望ましいと考えられます。一方、仮に一般農家が優良種子を毎年購入したいと考えても、市場では認証された優良なコメ種子が十分には供給されていませんので、現実的にはそのようにすることはできません。ザンビアでは、コメの種子市場、それどころかコメ自体の市場が成熟していませんので、民間種子会社はコメ種子にあまり力をいれていないのが現状ですし、ザンビア全体の優良種子生産・供給の仕組みがしっかりと機能するようになるには、非常に長い時間を必要とします。

そこで、当プロジェクトでは、大半の一般農家が行っている自家採種のやり方、つまり自分で生産したコメの一部を翌年のコメ生産の種子として利用する方法を改善することに注目しています。一般的には、コメも含め、農産物の種子の自家採種はあまり奨励されていません。というのも、質の高い種子の増殖/生産や利用ということを考えずに、生産したコメを翌年の種子としてコメを生産し、さらにそのコメを翌々年の種子にするというように、単純にひとつの種子から増殖/生産を何度も繰り返していると、その品種本来の特性は少しずつ失われ、年々、収量や品質が落ちてしまうからです。しかし、コメは通常は自殖するため、自家採種した種子を使っても、遺伝的な特性は保たれやすい性質があります。一般農家であっても、品種の純度を保ち、質の高い種子を生産/増殖するための技術を実践することで、特性の退化をある程度、防ぐことが可能です。優良な種子をもとに、通常のコメの生産とは別に翌年用の種子を生産/増殖することで、質の良い種子を一定期間は使い続けることができます。このような考えのもと、当プロジェクトでは、農業省による農家配布用の優良種子の生産を支援し、稲作研修に参加する農家に対して少量の優良種子を配布しています。そして、稲作研修においては、一般農家が実施することが可能な種子生産技術について学んでもらい、配布された優良種子をもとに翌年用の種子を各農家が生産/増殖することを支援しています。これによって、優良種子生産・供給の仕組みが機能するようになることを待たずに、農家の生産するコメの収量が向上すること、また、優良種子に対する認識を深め、将来的に優良種子を使用する農家の割合が増加することを目指しています。

20年後、30年後といった長期的な視点から考えた場合、優良種子生産・供給の仕組みがしっかりと機能し、さらに民間種子会社や種子農家によってビジネスとして十分な量の農家販売用の認証優良種子が生産・供給されるようになることは、やはり重要です。そのため、上述の活動を実施すると同時に、仕組み自体を改善するための取り組みも進めています。例えば、上流の種子の遺伝的純度を高めるために、上流の種子の維持管理を行っている農業省傘下のザンビア農業研究所(ZARI)と連携し、種子の純化・増殖(注2)を進めています。また、種子の品質維持や種子増殖/生産を行うためのマニュアルを作成したり、この作業に関わる人材の能力強化、種子増殖/生産するための圃場や設備の整備なども行っています。これらの活動の結果、十分の量の質の高い上流の種子が作られるようになれば、それらの種子を民間種子会社などにも定期的に配布または販売されることが可能になり、最終的には、民間種子会社などが生産する農家販売用の種子の質が向上することが期待できます。先月には、農業省傘下の種子管理検定機関(Seed Control and Certification Institute(SCCI))と連携し、コメに特化した種子検査官育成研修を実施しました。

上述のプロジェクトの活動を通して、近い将来、一般農家が利用する種子の質を向上させること、同時に、優良種子生産・供給・利用に関する課題の根本的に解決することに取り組んでいます。一方で、この他にも、民間種子会社などにより十分な量の農家販売用の認証優良種子が生産されるようになるまでには、官民連携の強化なども含め、様々な改善も必要ですし、まだまだ時間を要します。質の高い米の生産、収量の向上には、持続的な優良種子の利用とその安定供給が重要です。今後も、ザンビアのコメ農家全体への優良種子普及を目指して支援を進めていきます。

(注1)優良種子を利用した年度の収量を前年度(自家採種した種子を利用した年度)と比較したデータ。異なる年度の比較であるため、収量増は種子の違いのみによるとは言えないものの、一定の収量増は期待できると考えられる。
(注2)登録されている品種であれば、遺伝子の純度が高く、めしべとおしべに由来する遺伝子構成はほぼ等しくなっているため、種子増殖の上流工程に使われる種子、少なくとも育種家種子であれば、種子とそれから生産されたコメ(親と子)の特性はほぼ変わらない。しかし、ザンビアにおいては、原原種や原種といった種子であっても、混じりがある遺伝子的純度が高くないものがある。育種家種子から増殖を行い、また、種子の増殖の過程で品種本来の特性どおりの種子のみを選ぶことを繰り返し、種子全てを均質な純度の高いものにする。

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優良種子の配布

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一般農家への稲作研修

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農家配布用種子生産の支援

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種子検査官育成研修