JICA若手職員のプロジェクトサイト訪問記

2022年10月17日

2022年9月15日から16日の二日間、JICAの若手職員、倉橋勇太朗さんが市場志向型稲作振興プロジェクト(MOReDeP)のプロジェクト対象地であるルアプラ州を訪問しました。そのなかで感じたことなどを訪問記として倉橋さんに纏めていただきました。

「ルアプラ州(ザンビア北部)のマンサ郡マブンバキャンプにあるチパンタ村やサンフィア郡にある市場を訪問しました。滞在中は農家へのインタビューや市場調査を行い、現場が抱える課題やザンビアの稲作ポテンシャルについて探ってきました。その中でも、主食としてのコメ、稲作農家のマーケティング、そしてMOReDePが農家の生活に与えた変化について焦点を当て、マンサの稲作事情を紹介したいと思います。

チパンタ村に到着後、稲作農家の方々に暖かく迎え入れていただき、昼食も共にしました。昼食には農家の方々が育てたコメが出てくるのかと思っていましたが、実際には見慣れたシマ(ザンビアの主食であり、メイズの粉をお湯で練って作るもの)が提供されました。そこでまず学んだことは、ザンビアの農家にとってはコメが食べる物というよりも、換金作物として位置づけられていることでした。コメを生産している農家に話を伺ったところ、自身で消費するよりも売った方が儲けになるため、クリスマスなどには食べることもあるものの、日頃はあまりコメを食べないとのことでした。市場を訪問した際には、メイズに対してコメがおよそ6倍の価格で売られており、現地におけるメイズの存在感の大きさとともに、農家にとってコメが高級品であることを実感させられました。チパンタ村で農業は家族代々の家業であるそうで、農業について語る姿からは農家であることに誇りを持っているように見えました。マンサには稲作するために重要である水資源が豊富にありますが、人口の7~8割である農家のうち、稲作農家はまだ限られているのが現状です。だからこそ、より農家同士の連携を強めて生産力を向上させることで、マンサがコメの産地にもなりうると考えられます。

その後、マンサ最大の「UBマーケット」、「シラウパ精米所」、ルアプラ州のリゾート地と言われるサンフィアのマーケットの3カ所を視察しました。調査を通して、稲作産業には消費者、市場、農家、精米所などのステークホルダーすべてが深く関係しており、コメの普及にはそれぞれの特性・嗜好を把握して適切な働きかけを行うことが重要であることが分かりました。中でも農家と市場の関係に焦点を当てると、ザンビアの稲作農家が抱える問題の一つとして、市場が求めるニーズの理解が不足しているため、コメを満足な値段で販売することができていない農家が多いという現状があります。MOReDePでは、市場がどのような質を求めているのか、どのような時期や量、条件でコメが必要なのかを農家自身が知ることで、コメ販売価格・機会を向上させ、彼らの生計向上を支援する取り組みを行っています。実際にサンフィアでは、「消費者は品質の高いコメを求めているものの、他に仕入れることのできるコメがないため、仕方ない」と話す市場関係者に出会い、このような市場のニーズを満たすようにコメを生産することで、農家にとっては新たなマーケットの開拓につながる可能性があると実感しました。

基礎的な稲作技術の改善や、市場調査などの結果を踏まえた販売面の見直しは短期間かつ低コストでできる一方で、その効果は非常に高いと言えます。チパンタ村で家の増築に着手している農家によると、MOReDePを通して農作業や販売方法を見直した結果、収入が増えて家の増築を始めることができたそうで、増築中の家は2倍ほどの大きさになるようでした。チパンタ村で出会った農家達は皆、今後、改善した稲作技術の更なる実践を通した生産拡大に早く取り組みたいと語っていましたが、市場志向型の発想でマーケットを広げるというコンセプトのもとで行われているプロジェクトの成果を一人一人が感じているからこそ、このように意欲が高まっているのだと考えられます。今後もより多くの農家がプロジェクトに参画することで、ザンビアの稲作振興がより活発化することが期待されます。

二日間の短い時間でしたが、ザンビアにおけるコメの実態、稲作農家の生活を学ばせていただきました。そして現場では課題も存在するものの、プロジェクトによる成果も着実に出ていることが分かりました。MOReDePの専門家及びチパンタ村の皆様に感謝の意を表すとともに、農家の方々へ応援のエールを送りたいと思います。

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農家の皆様とインタビュー

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農地

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市場

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増築中の自宅(左:現住宅、右:増築中の住宅)