母子保健栄養学会2018

2018年8月15日

2018年6月12、13、14日の3日間、ガーナの首都アクラで、保健省及びガーナヘルスサービス(Ghana Health Service、GHS)主催の母子保健栄養学会2018(National Maternal, Child Health and Nutrition Conference 2018)が開催されました。母子保健栄養分野におけるユニバーサルヘルスカバレッジ(注1)達成に向けたパートナー-協調強化(Strengthening Partnership for achieving Universal Health Coverage in Reproductive Maternal, Child, Adolescent Health and Nutrition)をテーマとした本学会には、保健大臣、GHS総裁、全国10州からの州保健局長、州保健師、州主任看護師、州栄養士、ヘルスプロモーション担当官等のガーナ母子保健栄養関係者と、国際機関、ドナー、NGO等から参加者300名以上が集まり、日々熱い議論が交わされました。

本学会は、母子保健栄養の概況、母性保健、栄養、継続ケア、小児・思春期保健を扱う5つの全体会合と、家族計画へのアクセス、栄養と小児保健、新生児ケアを議論する3つの分科会、各州保健局やパートナーがそれぞれの活動を発表するポスター発表から成り、サイドイベントとして「乳幼児の健やかな成長発達のためのケアの枠組み(Nurturing Care for Early Childhood Development)」の始動式も行われました。学会初日の開会式では、レベッカ・アクフォ・アド大統領夫人が、国家開発の優先課題として母子保健栄養改善が重要であることを述べ、学会の重要性をアピールしました。

(注1)ユニバーサルヘルスカバレッジ(Universal Health Coverage, UHC)の達成とは、「すべての人が、必要な保健医療サービスを支払い可能な費用で持続的に受けられる状態」になることです。

全体会合:母子継続ケア

3日目の全体会合のテーマの一つは、「母子継続ケア(Continuum of Care、CoC)(注2)」、萩原チーフアドバイザーがカウンターパートであるエシ・アモアフルGHS栄養課長と共に登壇し、新母子手帳を通じた母子継続ケアの促進について発表しました。

萩原チーフアドバイザーは、母親が、妊婦健診、分娩時ケア、産後健診、乳幼児健診、予防接種といった必要なサービスを一連の流れとして継続して受けられるよう、新母子手帳にCoCカード(注3)を導入したこと、また、母子手帳は、家族、コミュニティー、診療所、保健センター、病院を繋ぐ情報共有ツールとして、重要な役割を果たしうることを説明しました。さらに、母子手帳全国展開に先駆けて実施されたパイロットテストでは、新母子手帳を使うことでCoC完了率が上昇し、母子保健サービスへの満足度が向上したという結果を紹介しました。

エシ・アモアフルGHS栄養課長は、新母子手帳に栄養カウンセリングと乳幼児の身長計測を組み込むことで、母子継続ケアの流れの中で、母子保健と栄養サービスを包括的に提供できるようになることを紹介しました。ガーナでは、妊婦の貧血や乳幼児の低栄養等、未だ多くの栄養の課題を抱えています。妊婦健診と乳幼児健診に栄養カウンセリングを導入し、母親から栄養改善に必要な聞き取りを行った上で、日常生活で改善できそうなことを提案し栄養改善に向けた‘初めの一歩’を支援する取り組みも紹介されました。また、新たに小児身長計測を取り入れることで、低栄養の子どもを早期に発見し、栄養カウンセリングや処置を行うことも可能になりました。

このセッションの質疑応答の場面では、GHS総裁と家族保健局(Family Health Division)局長が、母子手帳国家プログラムの総括として質問に答え、各州、教育病院、関連病院等へ協力を呼びかける場面もあり、母子手帳全国展開に対するガーナ側の高い意欲と強い主体性が示されました。なお、質疑応答は、手帳の持続性やプライバシーの保護など多岐にわたりました。

(注2)母子継続ケア:妊娠前(思春期、家族計画を含む)・妊娠期・出産期・産褥期と新生児期・乳児期・幼児期といった時間的流れを一体としてとらえた継続的なケア、および、家族・コミュニティー・一次保健施設・二次/三次保健施設が連続性をもって補完しながらつながるケア。

(注3)CoCカード:2012年6月から2016年3月にかけて実施された「ガーナEMBRACE(Ensure Mothers and Babies’ Regular Access to Care)実施研究」において、母親に母子継続ケア(Continuum of Care, CoC)の重要性を伝え、受診を促すために開発されたカード。

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母子手帳を紹介する萩原チーフアドバイザー

Nurturing Care Framework始動式

サイドイベントでは、サミラ・バウミア副大統領夫人と、保健大臣、GHS総裁により、乳幼児の健やかな成長発達のためのケアの枠組み(Nurturing Care Framework for Early Childhood Developmentの始動が宣言されました。これは、1)健康、2)適切な栄養、3)保育、4)安全と保護、5)教育機会を確保することで、乳幼児の健やかな成長発達を目指す枠組みで、各種関連プログラムを統合し、子育てを包括的に支援することの重要性が提唱されています。この枠組みは、2018年5月のWHO総会の際にWHO, UNICEF、WB、PMNCHなどの働きかけで始動されたもので、各国レベルでは、ガーナが世界で初めて枠組みを始動しました。
本イベントでは、GHSとUNICEFにより、Nurturing Care推進の取組み事例として新母子手帳が紹介されました。パネルディスカッションには萩原チーフアドバイザーが登壇し、70年以上前から使われている母子手帳が、日本の母子保健改善や経済社会発展に大きく貢献したことを紹介し、ガーナでは保健省とGHSの強いリーダーシップの元、国家プログラムとして新母子手帳が全国展開されることを報告しました。そして、共にガーナ母子手帳を普及しNurturing Careを推進していきましょうと、パートナーの協調を呼びかけました。

現在普及を図っている新母子手帳には、子どもの年齢に応じた発達の目安と推奨されるコミュニケーションや遊びが示されたページがすでに含まれています。そして、今回の乳幼児の健やかな成長発達のためのケアの枠組みの始動を受け、新生児・乳児の時期から母と子に関わる保健医療従事者が、より保育、養育、教育の視点を持ったサービスを提供できるよう、現在プロジェクトで実施中の郡講師養成研修に、乳幼児の発達(Early Childhood Development、ECD)の講義を増やすことにしました。(参照:郡講師養成研修の実施記事)

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パネルディスカッション

ポスター発表

プロジェクトは、プロジェクト概要および2017年6月から2018年2月にかけて行われた母子手帳のパイロットテストの結果に関する2種類のポスターを作成し、ポスター発表を行いました。多くの参加者が興味関心を持ってポスターの前に立ち止まり、パイロットテストをどのように実施したのか、結果はどうだったのか、プロジェクトは何を実施するのかと、JICA専門家に質問を投げかけていました。

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母子手帳の説明をする萩原チーフアドバイザー

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母子手帳の説明をする櫻井栄養専門家

今回の母子保健栄養学会では、プロジェクト開始の絶好のタイミングで、母子手帳プロジェクトに関する口頭発表、ポスター発表を行うことができました。母子手帳の目的、意義、背景、ガーナでの全国展開計画の進捗やこれまでの好事例や課題につき、関係者と話し合うことができ、母子手帳や今後の活動を紹介し協力を求める、とても良い機会となりました。