プロジェクト活動

1.地方の行政能力強化

本プロジェクトでは、営農技術の向上、農家組織の強化、マーケティングの強化といった農家に対する能力強化を行う活動に加えて、地方行政の組織強化に取り組む必要があると考えています。
農業振興を行うためには、農業生産、流通、販売等の様々な活動があり、それを支える行政機関の人材・予算の確保が必要です。このため、プロジェクトではサバナケット県・郡の関係機関(農林局、計画投資局、商工局、財務局)が連携して効果的・効率的に取組んでいける仕組みづくりを目指しています。
「関係機関の連携(関係者が協力する体制)」と聞くと、関係機関で構成される組織を立ち上げるイメージを持たれる方も多いですが、こういった組織は、1)関係者が多数にわたるため情報の共有が難しい、2)関係機関の権限が相互に干渉するため意思決定に時間を要する場合が多い、といった問題が生じ、結果として、担当者や事務局が組織運営に疲れてしまい、形式的な会議を開催するだけに留まる可能性があります。
このような組織が、その機能を発揮し、効果的・効率的にプロジェクトの活動をサポートするためには、1)関係機関の担当者から幹部までの情報共有体制を確立し、2)組織では基本的な方針のみを決定し、詳細は下部組織(作業部会など)に権限を委譲する、3)プロジェクト地区の活動状況をモニタリングして各地区の活動完了を判断するといったことが必要です。
本プロジェクトでは、日本による協力期間の終了後も、地方行政機関が活動を持続していけるような組織作りを目指していきます。

2.水利用の効率化/水利組織能力強化

サバナケット県内の農地面積は約23万haあり、潅漑面積は約3.6万haにとどまっています。プロジェクトは、ポンシム地区を除き、河川水やダム(貯水池)を利用した潅漑施設が整備されていますが、その利用は一部にとどまっており計画面積に占める潅漑面積の割合は100%に至っていません。
これらの地区では、1)多くの地区が20~30年前に政府主導で潅漑施設が整備されたものである、2)潅漑施設整備以前は雨季作(天水)農業が主であり、組織的な潅漑施設管理や水管理が行われていない、3)圃場整備(区画整理)を行わず潅漑施設のみを整備しているため、ブロックローテーション(注1)潅漑が難しい、4)取水施設及び幹線水路の一部区間のみがコンクリート化されているが、それ以外は土水路であり送水効率が低い、5)適時適切に潅漑水の供給が行われない等により水利組織に対する組合員農家の信頼が低い、6)現状の潅漑実態が把握されていない、といったことが課題となっています。
こうしたことから、本プロジェクトでは、1)現状の潅漑実態の把握、2)潅漑面積の増大、3)潅漑施設の維持管理技術の向上、4)水利組織の会計の透明性確保(財政改善)、5)水利組織活動の定例会議開催・活動の透明化(組合員農家の信頼向上)、6)円滑な潅漑水供給(水管理)、7)円滑な水利費徴収、8)潅漑ポンプ使用に伴う電気代の円滑な支払、9)潅漑基金の増大、に焦点を当てて活動を行っています。

(注1)地区内を2次水路単位等により複数のエリアに分割し、順番に潅漑水を供給すること。

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各地区水利組織同士の活動に関する意見交換会

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ポンプ技術者によるCP、水利組織への技術研修

3.コメの生産技術向上

1)カウンターパートの能力向上

農業技術の向上面では、水稲の収量向上を目指し、優良種子の使用、適正な施肥、病害虫管理などの改善計画と地域別栽培暦の策定を主眼に据えています。
実際の活動を行うにあたっては、農家に直接対応する郡農林事務所の職員(普及員)との連携が重要であり、普及員とそれを指導する県職員双方の育成を図る必要があります。そのためプロジェクトでは、技術面の研修を実施するのはもちろんですが、それ以外にも対象農家が参加型農業振興への理解を深め、自分たちの抱える問題に対して主体的に考え、自らの意思決定していくようになるには、県・郡職員が適切に仲介することも重要であると考え、こうしたファシリテーターとしての能力向上も図っています。

2)農家の能力向上

農家に対しては、先進地への視察に引率したり、技術研修を実施するなどして、生産技術の向上を図っています。
この他、研修圃場の開設、種子生産技術の実地研修、各種実証試験などにより、県・郡職員が各地区の状況に合わせて農家に対する技術指導を行えるよう支援も行っています。
また、プロジェクトが力を注いでいる「種子・肥料貸付、栽培技術強化プログラム」については、以下に詳述します。

「種子・肥料貸付、栽培技術強化プログラム」

【プログラムの概要】

イネ種子と肥料を農家に貸し付けることと、栽培技術の研修を合わせて行うことにより、効果的に栽培技術が定着すると同時に収量の向上を図る取り組みです。
資金面でも、収穫後に農家が現金収入を得たところで貸与した種子と肥料の代金を回収するため資金回収率が高く、それらが次季作の基金となるために持続性の高い活動として注目されています。
なお、本プログラムは、2018年12月から開始。日本側とラオス側が双方で経費負担するコストシェアリングによって2020年4月までに3回実施されています。

【プログラムの実施内容】

農家への研修は、各地区でそれぞれ4回、(1)播種期、(2)第1回追肥時期、(3)第2回追肥時期、(4)収穫前 に実施します。
主な内容は、栽培暦の使い方、種子選別、苗代、移植、適正施肥、水管理、自然農薬を使った病害虫対策、収穫及び収穫後処理対策です。

第1回目の研修時に優良種子と基肥の配布、第2回目の研修時に第1回目の追肥の配布、第3回目の研修で第2回目の追肥の配布を行います。必要なものを必要な時期に研修を通じて配布することにより、農家が過剰な量の施肥をしたりせず、研修後すぐに適量の施肥を実践できるようにするのが狙いです。研修は、県・郡の農林局職員がプログラムに参加する農家に行いますが、参加しやすくするため、研修はできるだけ午前中に実施する、村ごとに開催するなどの対策を取っています。

プログラムの実施期間中は、参加農家を戸別訪問して聞き取り調査や圃場巡回指導を行います。研修で教えたことを実行できているかどうか、農家と一緒に圃場に行き、栽培状況の確認と現地指導を行います。収穫時は坪刈り調査(注2)を実施し、プログラムの実施前と実施後の収量を比較します。

収穫後、貸付金の回収を行います。村組織、水利組合を通じてプログラム参加農家から資金を回収し、県の口座にプールします。この資金は次季作の貸付事業に使われます。

(注2)同じ圃場内の数カ所を1メートル四方の枠を用いて刈り取り、そこで刈り取ったコメの重量を基に、圃場全体の収量を推測する方法。

※「種子・肥料貸付、栽培技術強化プログラム」に関するニューズレターのダウンロードはこちら

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種子・肥料貸付事業の説明会(パランサイ郡、2020年3月)

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研修で植物農薬の作り方を説明(チャンポン郡、2019年1月)

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圃場巡回で病害虫指導(パランサイ郡、2019年9月)

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収量調査(坪刈り)(チャンポン郡、2019年10月)

4.マーケティング能力強化/販売促進

本プロジェクトの対象農家の多くは、1年に2回、雨季と乾季に稲作をし、自家消費米を蓄え、更に精米業者などの中間業者に売ることで現金収入を得ています。ラオス国内向けや輸出向けのコメの需要は多く、現時点では、コメは作れば売れる状況です。そのため、コメの生産では、「収量を増やすことで収入を増やす」という点に焦点を当てています。

このように稲作を軸とした農家の中でも、さらに収入向上に興味を示す農家に対しては、コメ以外の作物の栽培や販売支援を展開しています。プロジェクトでは、以下の2つのマーケティング活動を実践しています。

1)マーケットニーズを意識した農家の営農技術向上

プロジェクトの対象地区では、前身の「PIADプロジェクト」の時代から、コメ以外の換金作物栽培に取り組んでいる農家が見られます。主な作物は、トウガラシ、トウモロコシ、きゅうり、落花生などです。では、彼らに一体なぜこれらの作物を栽培しているかと尋ねると、「毎年作っているから」とか「この土地で育てやすいから」といった回答が返ってきます。そして、その後に決まったように「マーケティング面の支援をしてください。」(=売り先を見つけてください)と言ってきます。農家の話を聞いていると、「トウガラシを仲買人に売ろうとしても、既にたくさんトウガラシはあるから要らない」と言われたとか、「トウガラシが大量に市場に溢れる時期は、値段が半減する」と言われるなど、市場の動きは知っているものの、なかなか栽培量の調整や他の品目を取り入れる対応が追い付いていないように見えます。
農家側では、様々なリスクや必要な労力の量を勘案した上で、何を栽培するかを決定しています。しかし、プロジェクトでは、次のステップとして市場ニーズや損益計算に基づいた作物の選定方法を農家に学んでもらうことで、さらなる営農実践力の向上が図られるような支援を目指しています。
実際、上記のトウガラシ農家と共に市場へ出かけ、どのトウガラシが売れているか、消費者や店主の声を直接聞く機会を設け、農家自身が他品種を試す動機付けを行いました。

また、プロジェクトでは農家の考えに基づき、野菜が供給不足となる雨季を狙い、屋根掛け栽培による収入向上にも取り組んでいます。初めての雨季作販売を経験した農家は、収穫しても売り方が分からず、最初は戸惑う姿も見られましたが、県や郡の職員のサポートにより顧客が付くようになり、注文に生産が追い付かない状況に。「雨季に本当に野菜が売れるってことが分かった」と満足した笑みを浮かべ手応えを感じていました。翌年は、更に屋根掛け希望者が増え、1年目である2019年は25棟、2年目の2020年には5月時点の予定で約50棟、合計で約70棟による雨季栽培が開始される見込みです。雨季作の需要に応えるべく、栽培面積と共に参加農家が徐々に増え始め、今後は安定供給を目指すべくグループ内での組織強化が重要となってきました。

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屋根掛け施設を使用して、雨季に初めてサラダを栽培し直売市に持ってきた農家。供給不足のサラダは、あっという間に完売しました。

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雨季の屋根掛け施設を使用した野菜栽培。毎週、数品目を供給できるよう、レーン毎に播種時期をずらして栽培。農家の工夫が見られます。

一方、農家に対する支援だけでは販路開拓などが効果的に行えないことから、もうひとつの活動(以下)として、市場開拓をする行政職員の能力強化や地域のネットワーク強化にも取組んでいます。

2)サバナケット県内の地産地消促進、農家間でのサプライネットワーク強化

サバナケット県商工局のカウンターパートと共に、サバナケット市内のホテルやレストラン、学校や工場の食堂の野菜の取扱い品目や量を聞取りしました。そうしたところ、地産の安全野菜に賛同する声が多く聞かれました。また、タイから野菜を調達しているケースも確認され、県内で多様な野菜が揃うのであれば助かるとのこと。県職員が収集したそれらの情報を踏まえて、大根、オクラ、ズッキーニ、はつか大根など、これまで県内では栽培していなかった新しい品種を農家に紹介し、試験栽培から販売支援をしています。
2018年からは有機栽培を専門とするポンシム有機農家グループが軸となり、サバナケット市内での安全野菜の販売網を拡大し、他地区の農家からも買い取れるよう、以下のような地域内のネットワーク構築にも励んでいます。

【画像】(イメージ)農家間のサプライネットワーク

その他、販売促進支援として、ターパントン郡での直売市開催やフェイスブックを使った安全野菜の需要喚起も行っています。稲作からの収入は年に2回、そして、その中から次期作の種子や肥料代を賄う必要があります。自家消費分も多いので、収入として自由に使えるお金は多いとはいえません。一方で、野菜栽培から得られる収入は、1回の売上げは少ないとしても継続的に入ってくるため、農家の日々の生活に直接役に立っているようで、「子どものお小遣いやちょっとした必要な物を買うのに、自分のお金があるからとっても便利」と笑顔で話してくれます。

時間はかかりますが、こういった小さな成功体験を着実に地域で積み重ねることで、少数の農家の活動が面として広がっていくよう、プロジェクトで支援を継続しています。

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Facebookでは現地の人々に安全な野菜をアピール(注3)

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町には農家による直売所で野菜販売(ターパントン郡中心部)

【画像】(図)これまでのマーケティング活動の大きな流れ

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