第23回 スリランカから、ため息の便り

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JICA東京でアクション・プランを発表中のスリランカ研修員シャリカさん

「お元気ですか。スリランカからメールします。今日は残念なメールです。私のアクション・プランによるプロジェクトが、今、暗礁に乗り上げています。支援者や資金が調達できません。6月のJICAへの最終報告を前にどうしたらいいでしょう・・・」
先日、昨年の秋に研修を共にしたJICA東京集団コース「障害者のリーダー育成」の元研修員シャリカさんからこんな悲痛なメールが届きました。彼女は弱視の視覚障害当事者の女性で、スリランカでは私立高校のフランス語教師として働いています。大変優秀で、何事にも積極的、自国では視覚障害者の当事者団体で積極的に活動するまさにリーダー格の女性でした。いつも笑顔で元気な彼女、人一倍負けず嫌いの努力家の彼女が送ってきた一通のメールに、私もこれはただ事ではないことを察しました。
研修中に彼女がまとめたアクション・プランのタイトルは「視覚障害者の働く場の創出」。自国において仲間の視覚障害者が、職業訓練や職域等の制限から、就労・社会的自立に向けて大変な困難を抱えていることを鑑み、視覚障害者のために「授産施設」という就労の場を自ら作ろう!というものでした。早速帰国後、彼女は自分の所属するスリランカ盲人連合会に相談、働く場の設立のための場所の提供や資金支援を求めましたが、なかなか協力を得ることができないようでした。場所などの確保に資金が必要なだけでなく、彼女個人のプロポーザルによる視覚障害者の就労改善案は、団体として取り組む優先順位が高くないことなどが消極的姿勢の背景のようです。まだまだ障害者が就労を通して社会的自立を果たすまで、現実社会の認識の壁は高く、それよりも視覚障害者団体としては権利擁護や白杖作り、社会啓発のような事業が優先されるようでした。

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都内の駅で点字ブロックのバリアフリー視察中

「あなたのプロポーザルを仲間の視覚障害者はどう思っていますか?就労よりももっと別のところにスリランカの視覚障害者のニーズがあるのかもしれませんね・・・。」
そんなメッセージを送って、彼女を励ますことにしました。
「現実の壁」。多くの研修員が自国でアクション・プランを遂行しようとする時、彼らのアイデアを何人の仲間が受け入れ、協力してくれるか。また現状のニーズをどれだけ踏まえているか、自国の政府・団体がいかに積極的に支援してくれるか等に成功の鍵は隠されています。一人の力は小さく、弱く、その声はいとも簡単にかき消されてしまうケースがほとんどでしょう。どんなに優れたアクション・プランでも、周囲の理解を得なければ、ただの机上の空論となってしまいます。事実、元JICA研修員のアクション・プランの全てが、帰国後、確実に形となって実行されているというわけでは残念ながらありません。しかし、こんな朗報もあります。現在JICAはフォローアップ事業として、JICA元研修員個人によるアクション・プランであっても、それがベスト・プラクティスと位置づけられ、広く社会や組織に寄与すると判断できるものであれば、予算をつけ、支援していく例も徐々に増えてきています。諦めそうになりながら、それでもビジョンを持って、しっかりと先を見据えたアクション・プランの遂行を目指し、多くのJICA元研修員が、困難の中、日々奮闘しているのも事実です。


(財)日本国際協力センター(JICE)研修監理員 前島由希