第24回 〜ケンポンさんの奮闘〜もうひとりのJICAラオス研修員

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ケンポンさんと子供たち

ケンポン・センゴンダラさんはラオス出身の研修員で、彼女は前回ご紹介したスリランカのシャリカさん同様、2006年の「障害者リーダー育成」コースに参加したポリオ障害(下肢障害)の研修員でした。生まれたばかりの赤ちゃんと6歳の女の子のお母さんでもあるケンポンさん、当初JICA東京での2ヶ月という長期に亘る研修に対し、彼女のご家族はケンポンさんのJICA研修参加に反対であったと聞きました。でもケンポンさん、決してあきらめませんでした。
「ラオスで私はクエスト・カレッジという学校のクラフト工房で若い障害者の手工芸品製作の指導をしています。若い障害のある生徒は私を姉のように慕ってくれています。」
クエスト・カレッジとは、ラオスの首都ビエンチャンにある私立のコンピューター専門学校で、英語教育にも力を入れている新しい学校です。特徴として、全生徒の5%にあたる生徒数を「障害生徒枠」として保障し、障害のある生徒にもコンピューターの専門知識習得と学業のチャンスを提供していることがあげられます。フィンランドのNGOが5年間の草の根資金援助を条件に創設した画期的な統合専門学校です。障害のある生徒に奨学金を提供し、授業料や寮費は無料というサービスを行っていて、生徒たちはその奨学金を得るために、学校に併設されているクラフトショップの工芸品を無給で製作するという簡易労働を学業の合間に課せられます。

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ケンポンさんと障害者仲間が作る工芸品

クエスト・カレッジはいわゆる欧米型の優遇措置制度を適用している大変特徴のある学校であり、現在200名の生徒が学び、10名の障害のある生徒がコンピューターと英語を学んでいるそうです。ケンポンさんはこの学校のクラフト部門のアシスタント・マネージャーとして勤務し、障害のある生徒のいわば責任者でもあり、彼らにクラフト(ろうそくや写真立て、グリーティング・カード、ラオスの織物を使ったクッション・ぬいぐるみなどの工芸品)を教える指導員でした。しかしこのクエスト・カレッジもフィンランドNGOとの約束の資金援助期限の5年目を今年迎え、今後は自己資金で学校経営を独立採算で運営していかなくてはならないという厳しい岐路に立っています。そして、私立専門学校の競争が激化しているビエンチャンで生き残りのためにも、残念ながらこの障害生徒奨学金制度の見直しを迫られている現状もあります。
「私はクラフト製作に自信があります。フィンランドのNGOワーカーから5年間訓練を受けました。私を慕ってくれる多くの若い障害のある仲間のためにも、仮に彼らが今後この工房を離れることになっても、私は彼らを引っ張っていきたい。今後クエストを卒業すると、彼らは本当の意味での就労の壁にぶつかるのです。まだまだ就労のチャンスに恵まれないラオスの多くの仲間のためにも、私はさらなる道を切り開きたいのです。」
彼女の研修志望動機のレポートにはそんな強い心情が記されていました。
松葉杖を使いながら、汗を拭き拭き、動き回るケンポンさん。JICA東京の研修現場にいつも積極的に目を輝かせながら、講師の話に耳を傾けていた彼女の姿がとても印象的でした。ケンポンさんは帰国後、試行錯誤しながらも「障害者の就労」に向けたアクション・プランを模索しています。働くことは生きること、自立することでもあります。また、ケンポンさんはラオスにおいて女子車椅子バスケットボールの創生期を支えるプレーヤーでもあります。スポーツも障害のある若者にとっては生きる活力に繋がります。前向きでひたむきな努力家のケンポンさんのラオスでの奮闘はまだまだ始まったばかりです。(続く)


(財)日本国際協力センター(JICE)研修監理員 前島由希