命をつなぐ救助隊

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高層階からの救助

街でよく見かける赤い消防車。
消防車で救出に向かうメンバーの中には火を消す、けが人を救出する、などそれぞれ役割分担があります。けが人を救出する人たちは「救助隊」と呼ばれています。日本ではオレンジ色の救助服を着た救助隊員が、特別な救助器具を装備して、自動車や機械、エレベーターなどに閉じこめられた人や、火災で逃げ遅れた人を助ける人命救助のエキスパート集団です。

しかし、世界には日本の様な消防救助体制が構築されておらず、 消防救助技術が充分に普及していない国が多数あります。
インドシナ半島東岸に位置する南北に長い国、ベトナム。この国も例外ではありません。ベトナムでは、近年の著しい経済成長によって、急速な建物の大規模化・高層化が進み、加えて交通網が発達したため、これに伴い災害発生の危険性も上昇しています。他方で、消防救助活動技術については、参考となる過去の災害事例が少なく、ベトナムの消防機関では対応できない状況が出現し始めています。

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自動車事故救助(屋根をめくり上げ、救助)

このような背景から、JICA東京では、ベトナムの消防大学校の教官に対し、日本の消防救助活動技術を移転し、ベトナムの状況に適した消防救助技術が普及することを目指した研修「消防活動指揮技術」コースを今年度から開始しました。第一回目となる今年は、4月中旬から約一ヶ月間実施され、ベトナム消防大学校の教官6名が参加しました。
取材した日は、今回の研修の最終日。これまで訓練を重ねてきた成果を披露する「効果確認」が、JICA東京隣の東京消防庁第三消防方面訓練場で行われました。

まず初めは、高層階からの救助です。ビルで火災が発生し、上階で逃げ遅れ負傷した人がいるという想定のもと、逃げ遅れた人をバスケット担架にしっかり固定、安全かつ迅速に地上に救助するというものでした。研修員6名がひとつのチームになり、ロープを結束する、担架に負傷者を乗せる等、一つひとつの作業を行うたびにベトナム語で声を掛け合い、安全を確認しながら、迅速に救助活動が進められました。

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図解も入ったメモ

次に、行ったのは自動車事故救助です。ベトナムでは二輪車が主な交通手段で、自動車の普及率はまだ低水準ですが、自動車の販売台数が増加傾向にあり、それに伴って、救助隊の自動車交通事故への対応能力強化が重要となっています。交通事故の閉じ込めによる要救助者の救出に対して、安全・確実・迅速な活動を実施するため、様々な救助資機材の操作及び取扱技術の向上を図り、現場対応能力を高める目的で、廃車となった車両を使用した訓練が行われました。油圧スプレッダーと呼ばれる機材で運転手席のドアをこじ開け、油圧カッターで屋根部分などを切断、フロントガラスをガラスカッターで破壊、そして屋根をめくり上げ、中のけが人を救出するというものでした。この訓練でも、6名の研修員が連携して作業を進め、安全・確実・迅速に救助活動が行われました。

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指導官と一緒に

消防救助技術は、人命救助のための技術であることは勿論のこと、人命救助を実施する隊員自らの身を守るための技術であり、救助隊員は迅速、確実かつ高度な救助技術の習得が求められます。今回参加した研修員は、熱心に技術の習得や訓練に取り組み、ひとつでも多くのことを習得しようと、指導官の話に耳を傾け、多くの質問をし、懸命にメモをとっていました。研修員の一人、ズンさんは「日本で得た技術や知識をもとに、自国の実情に応じた訓練カリキュラムを作成し、自国の消防学校での教育に活かしたい」と決意を新たに帰国の途に着きました。

JICA東京 公共政策課 烏野敬蔵