フィリピン保護司制度の活性化に向けて

 皆さんは‘保護司’という言葉を聞いたことがありますか?保護司とは、犯罪や非行に陥った人が保護観察を受けることになると、その期間中、随時面接を行って彼らの生活状況を調査し、保護観察中に決められた約束事(遵守事項)を守るように指導をし、生活相談など社会復帰への手助けをする人のことです。また、刑務所や少年院などの矯正施設に入っている人について、釈放後の帰住先が更生のために適当かどうかを調査し、その環境を調整する仕事も保護司が行っています。

 このような保護観察業務は保護観察官も行いますが、保護観察官の人数が不足していることに加え、犯罪者の更生には地域社会からのサポートが不可欠という認識から、地域社会で信望の厚い人物が保護観察所から保護司として選出され、保護観察官と共に犯罪や非行に陥った人の更生に当たっています。保護司は国家公務員であり、日本では約5万人もの保護司が活躍していますが、俸給は支払われず、実質的にはボランティアとして活動しています。

世界でも余り例を見ないこの保護司という制度ですが、フィリピンでは1978年に日本をモデルとしてボランティア保護司制度を発足させました。その後、フィリピンにおける保護司の数は順調に増加し、1985年にはフィリピン全土で2,123名の保護司が活動していました。しかし、当時の保護司制度は地域社会に根ざしたものではなかったことから、1990年代以降、次第に保護司の数が減り始め、2002年には167名まで減少してしまいました。

 このような状況を踏まえ、フィリピン司法省保護観察局(PPA)はボランティア保護司制度を再度活性化させるため、日本政府に対し支援を要請しました。これを受け、2003年からJICAは当該分野の知見を有する国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)の協力を得て、遠隔教育システムを利用した保護観察セミナーの開催、現地及び日本での研修実施等の方法で、PPAを継続的に支援してきました。PPAはこれらの支援を踏まえ、中央と各地方の保護観察所及びボランティア保護司を繋ぐとともに、地域毎の特殊性を反映するため、研修機関「フィールド研修ラボラトリー」を創設するなど、保護司制度を活性化させるための活動を全国的に展開しています。

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保護監察官への研修を見学

2009年度もPPAに対する支援の一環として、6月29日から7月9日まで日本での研修を実施しました。局長を含めた保護観察局上層部のメンバーを中心に14名の研修員が来日し、保護観察所・更生保護施設・法務総合研究所等の視察、及び保護観察官・保護司との意見交換を行いました。

本研修に参加した司法省保護観察局長のイスマエル・フアンガ・エラデューラさんは、「今回の研修では、保護司への研修の方法を理解でき、より効果的な保護司制度をつくる為の具体的なイメージを持つことが出来た。研修で得た知識と経験を生かして、より良いフィリピン保護司制度の確立に向けて努力したい」、と述べています。

2003年から行われている日本での研修への参加者は70名以上となり、これらのJICA及びUNAFEIによる支援は徐々に実を結びつつあります。その具体的な例として、2007年1月には,正式に全国レベルの保護司組織が発足し,フィリピンにおける保護司数は2009年3月時点で7,000名を超え,保護司組織数も138保護司会を数える程になっています。加えて,基礎研修や特別研修など,現地研修機関による保護司研修の充実化も推進されています。

 JICAは今後ともUNAFEIの協力を仰ぎつつ、フィリピンにおける効果的な保護司制度の確立を目指すPPAの取り組みを支援していきます。



JICA東京 公共政策課 千葉 周