日本・ベトナム中小企業の架け橋に:「ベトナム中小企業支援連携促進」コース

ベトナム中小企業の現状と課題

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中小企業を訪ね、会社についての説明に真剣に耳を傾けるベトナム研修員。

年率8パーセント台の高いGDP成長率が続き、近年経済成長著しいベトナム。この国の登録事業者数約25万のうち、97.9パーセントが中小企業です。国の社会経済開発政策で中小企業振興が最重要課題とされるベトナムには、「企業開発庁」を初めとして科学技術省、商工省など支援する官庁があり、関連省庁に中小企業支援部門がありますが、それらの連携がうまく取れておらず、中小企業をはじめとする民間の声が政策に十分反映されていないのが悩みの種です。

1999年からJICAでは、ベトナムに対して専門家派遣や「中小企業技術支援センター」プロジェクトなどの中小企業に関する技術支援を進めてきました。その一環として、このほどJICA東京では7名のベトナム政府の中小企業担当者を研修員として受け入れました。

ベトナム企業支援と日本経済との関係

ベトナムの中小企業政策を支援することは、グローバル化の波にさらされる日本の企業にとってもメリットがあります。というのも、成長を続けるアジア諸国への販売拠点あるいは生産拠点としてベトナムに進出を希望する企業は数多く、そういった企業が二の足を踏むことなく進出するには、事業環境が整っている必要があるからです。成長しつづける市場、商才豊かな企業家たち、高い教育程度を持ち、かつ安価な労働力といった、生産拠点としてはうってつけの条件を備えるこの国からの中小企業担当者を研修員として受け入れることは、企業環境整備に結びつき、日本の中小企業にとってもビジネスチャンスに直結しているのです。今回、研修員とともに訪れた工場でも、ベトナムへの進出には大いに関心を持っており、このたびの研修で築いた人脈を基に進出の足がかりが出来れば、大変嬉しい結果になります。

百聞は一見にしかず:日本の町工場を視察

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蒸気タービン製造会社にて、製品のできばえを見ながら工程の説明を受ける研修員。

日本で研修する最大の意義は、実際の知識が、現場で使われている現状を見て経験することで知識を自分のものとすることにあります。今回の研修では、日本の中小企業の生産現場を見て自分の経験に即した「気付き」を得るため、2日間にわたって工場見学の機会を設け、じっくりと現場視察できるよう十分な時間を取りました。訪れた企業は横浜の工業団地に入っている蒸気タービン製造会社とベアリング製造会社。それぞれ、CAD(コンピューター支援設計)やNC(数値制御)工作装置といった、日本の得意とする技術を用いて精度の高い製品を作っていて研修員たちの目を見はらせます。

また、驚いたことに、視察した2工場のうち一つには研修生ビザで受け入れられたベトナム人が数人働いていました。通訳を通じて日本人の説明を聞くより、これら同胞にベトナム人の目で見て、実際に働いてみた現場の話を聞くことができたのは、思ってもみなかった収穫でしょう。日本人と一緒に機械油に塗れて働いている研修生たちは、職場における生産技術と効率の高さ、安全基準、福利厚生とどれをとってもベトナムの先を行っている日本の現状についての高い評価を語っていました。一方、経営者の側から語られた背景には、常に人材難にさらされていて、どんなに待遇を良くしても一定の数の研修生を入れて働かせざるを得ないような現状があります。

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企業の生産現場で研修生として働くベトナム人に待遇などを尋ねる研修員。

視察を終えて、研修員たちからはベトナムと比較して日本では中小企業でも技術レベルが高いこと、そろいのヘルメットや作業着の着用で一体感を作り出していること、一般社員も技術改善の提案を積極的に行い、経営に対しても発言権があることなどがまず目に付くところとして驚きの声があがりました。それとともに、工業団地のように、中小企業が安定した操業をできる環境を整えている中小企業庁をはじめとする日本政府の取り組みに感心する姿がみられました。景気の悪化に伴い、今回訪れた工業団地でも倒産や廃業した企業は少なからずありましたが、その中でも踏みとどまってきた企業から生き残りの秘訣を聞き出そうと、研修員たちは熱心に経営者への質問を重ねていました。

この研修の後には、中小企業支援政策の新たな技術協力の準備も行われており、日本とベトナムの中小企業同士が共に利益を受け、さらに発展してゆく環境づくりが進められます。


JICA東京  井上 達昭