日本製ベトナム仕様を目指して:ベトナム「消防活動指揮技術」研修

「帰国した研修員は、教わった技術を自国でどこまで活用しているだろうか?」研修に携わったことがあれば、一度はこのような疑問を抱いたことがあるかと思います。特に消防分野では、「消防はその国の気象・経済状況及び社会情勢に大きく影響を受ける」と言われるため、「移転した技術をどう現地に馴染みやすくするか」という課題が常にあります。

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日本で研修を受けるベトナム人消防士たち

そこで、そのような課題解決のヒントとして、2009年からの3年間、主に日本での研修を通じて移転技術の現地化を目指した「消防活動指揮技術研修」を紹介しましょう。この研修は、2005年12月から2008年3月までベトナム公安省消防大学(以下「消防大学」) の教育カリキュラム改善のため、東京消防庁からJICA長期専門家を派遣した際の評価が発端に始まりました。専門家による「ベトナムと日本の消防士は、ホディサイズ、身体能力と気質が似ているため、日本の消防活動技術がベトナムには馴染みやすい」との最終評価が、ベトナムへの更なる消防技術移転が同国の安全保障につながるとの判断につながり、2009年から2011年まで消防大学教官を対象に研修が行われることになったのです。

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研修でのレスキュー技術実演

研修にあたっては、「受益国には専門家を派遣しない」、「主たる技術移転は本邦研修を通じて行う」という条件で行ったため、先に述べたように「研修員は、本当に本邦研修のみで移転技術を自国で普及できるのか」という課題に研修企画当初から直面し、その解決策として以下の方法をとりいれました。

第1は、同じ研修員を3年にわたって継続的に教育したことです。これは、本邦研修のみで研修員の習熟度を高めるためには、3か年を通じて平易なものから高度なものへと段階的に移転させる必要があったため、同じ人間を招くこととしました。

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専門家によるベトナムでのフォローアップ講義

第2は、ベトナムの消防事情に詳しいスタッフをアドバイザーとして迎えたことです。これは、移転技術を確実に普及させるには、技術の現地化が必須であることから、消防大学に派遣されていた専門家を研修期間中研修アドバイザーとして迎え、研修企画からフォローアップまで助言をもらうことで、現地化を着実に行うこととしました。

研修最終年度の2011年11月下旬、これまでの技術移転の評価とフォローアップのためベトナムに赴いたところ、「現在の消防大学は、日本の消防活動技術を自国の消防事情に適した内容に修正したうえで、現場の消防士に実技を用いて教えることができるレベルまでに達している」という状況が確認できました。

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ベトナム消防大学での訓練

本研修の実施を通じて、1)日本からの移転技術を受益国に確実に根付かせるには、「いかに現地化するか」、すなわち本研修であれば「いかに日本製ベトナム仕様を作り上げるか」が重要であること、2)研修員は、ときには自国の実情を忘れて「目新しいもの、流行のもの」を求め、教える側もその流れに乗ってしまうこともありますが、受益国の事情に合った支援が重要であることを改めて実感することとなりました。

この場をお借りして、研修実施に際してご支援・ご協力いただいた関係各位に改めて御礼申し上げます。


東京消防庁/元長期専門家(消防教育)
高崎 剛彦