空の安全への誓い

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巨大な格納庫で飛行機と対面

飛行機事故を絶対に起こしてはならない。

どの国のどの航空会社もそう考えて日々の業務を行いながらも、起こってしまう事故。その数は世界中を飛び回る航空機の数に比べてごくごくわずかですが、一度起きてしまうと多数の人命が失われます。その数をゼロにしようと、インドネシアから政府の航空安全をつかさどる監督官たちが来日しました。研修に参加したのは、運行管理と整備管理の専門の政府職員がそれぞれ2名ずつの計4名。4週間かけて東京を中心に講義・実習を受け、飛行機に搭乗して立ち入り監査を実体験し、シミュレーションも体験しました。

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目に付いたことにはすぐ質問

インドネシアではアジア経済危機からの回復が始まった2000年以降、政府は新しい航空会社の参入と新しい航空路を積極的に認める政策を進めた結果、多くの会社が市場に参加して競合路線が増えました。このため航空運賃が劇的に下がり旅客数が急激に増加した半面、安全面での十分な配慮がされておらず重大な航空事故が何度か繰り返されました。フライト数の急増に対して航空会社や関連部門の政府職員の人材供給や教育訓練が追いていないところに原因がありました。こうした中、インドネシア政府の要請を受けて空の安全確保のための技術移転を行うことになったものです。

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交換部品の管理システムを見学する研修員たち

見学先の整備工場では巨大な格納庫の中で飛行機と対面。機体整備工場、エンジン整備工場を訪ねては、飛行機の整備手順、飛行機の心臓ともいうべきエンジンのメンテナンスとその補修部品の管理システムを学びます。研修員たちはこれらの現場でのマニュアル化された管理の精密さ、正確さには舌を巻いていました。

そして航空会社の安全教育センターでは過去に起こってしまった航空事故機の破片を見て、事故当時の新聞記事や記録ビデオなどを目にしました。「乗っていたのは新婚さんばかりですよ。流行のつばの広い帽子をかぶって、幸せそうに手をつないで...」と事故当時の関係者のビデオ証言を聞いて思わず眼がしらを熱くしていると、隣の研修員も目をぬぐっていました。

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飛行機からおろされ分解されたエンジンの整備現場を見学

航空事故についてビデオを見た後は人為ミスがどのように生じるかを体感する実習を行って、どうやってミスをなくすかを考えるようになります。この見学で、事故を絶対に繰り返さないため、過去の事故の詳細な記録をあえて関係者に見せるという、航空会社の安全への思いが通じたと確かに感じられました。

すべては安全のため。日本とは制度が違いすぎてただちに適応することは難しいけれど、帰国してから航空安全の制度改革に取り組みたいと研修員たちは述べ、その固い決意を語っていました。国土が広く、また離島や山岳地帯への移動には航空機の利用が欠かせないインドネシアでの航空機の安全向上にはとても期待が大きく、この研修の意義がかかっています。

JICA東京 井上達昭