大エジプト博物館オープンへ向けて:「染織品III研修」コース

「エジプト」という国名から皆さんは何を思い浮かべますか?きっと大半の方はピラミッドやツタンカーメン王に代表される古代文明を想像されるでしょう。そしてその答えは大正解です!そこで今回は、まさにそのエジプト考古遺物の代表的な展示・収蔵場所となる大エジプト博物館の保存修復センターを技術的にサポートするための研修をご紹介します。

展示品のマウント(台座)の作成も保存修復センタースタッフが自ら習得

大エジプト博物館は、エジプトの顔であり観光のかなめのひとつでもあった、カイロのエジプト考古学博物館(1902年開館)が老朽化し手狭になったことから、日本政府の円借款により348億円、建設費のおよそ55パーセントをまかなって建設するものです。ツタンカーメン王の黄金のマスクをはじめエジプトの、いえ人類全体の至宝とも言うべき10万点にもおよぶ貴重な文化財を収納することになるこの博物館は、三大ピラミッドを望むギザの地に2015年の開館を目指して建設が進められています。

東京文化財研究所での染色の実習

日本の支援はもちろん建設費だけでなく、大エジプト博物館に併設する保存修復センターへの技術協力も忘れてはいません。JICAは「大エジプト博物館保存修復センタープロジェクト」を行って文化遺産の保存と修復のための人材育成を行っています。このため、今年は9月1日から14日の日程で保存修復センターの保存修復士などスタッフ8名をJICA東京の「染織品III研修」コースで受け入れ、上野の東京文化財研究所で染織品の保存と修復、分析などに関する技術を実習していただきました。

セクメト女神像の説明に熱心に耳を傾ける

2週間の研修終了を前に、研修員たちは東京国立博物館を訪れて、収蔵する古代エジプト考古遺物の展示状況を視察の後、めったに見ることができない博物館の「バックヤード」と呼ばれる収蔵庫や修復室などを見学しました。免震工事などの大改装を終えて今年の1月にリニューアルオープンしたばかりの東京国立博物館の東洋館では、美術品の保存や展示方法の説明に真剣に耳を傾け、その手法についてだけでなく、どんな来歴でエジプトの考古遺物が日本に来たのかについても熱心に尋ねていました。

修復室にて、古代エジプトの織物の新しい展示方法を聞く

そして収蔵庫の温度・湿度が厳密に管理され、地震が起きても収蔵品の安全を確保するような細心の管理システムに感心し、簡易な修復を行う修復室で大正初年の古新聞の修復などを見た後は、本格的修復の実例として、著名な絵師の貴重な屏風絵の修復を目の前にして感慨深げでした。大エジプト博物館の開館を二年後にひかえ、実習に力が入る研修員たち。オープンしたらぜひ彼らの活動の成果をこの目で見に行きたいものです。

JICA東京 経済基盤開発・環境課 井上 達昭 (2013年9月)