紙幣印刷から見える日本の伝統技術と最先端技術:ベトナム「生産管理」研修

【画像】2013年12月9日から13日までの5日間実施した、ベトナム「生産管理」(紙幣印刷)研修は独立行政法人国立印刷局のご協力のもと、無事に終了しました。今回は、ベトナム国家銀行印刷所の幹部職員を対象とした紙幣印刷管理についての研修です。2008年から2011年まで行われた、ベトナム国家銀行の発券業務近代化を支援するための技術協力プロジェクトに続くもので、国家銀行副総裁を含む6名の研修員が参加しました。

ここでは、12月10日から12日までの独立行政法人国立印刷局の滝野川工場での研修風景を一部紹介します。滝野川工場は、昭和6年(1931年)銀行券及び諸証券を製造する印刷局の工場として創設されました。印刷局は、国の組織変更により平成15年(2003年)財務省印刷局から独立行政法人国立印刷局となりました。現在、滝野川工場では、日本銀行券(お札)や証券を印刷しており、デザイン、製版、印刷、検査までを一貫して行っています。

【画像】さて、ベトナムからの研修員は、滝野川工場到着後、構内の移動などに関しての注意事項説明を受け、挨拶を済ませたのち、早速工場内見学へ向かいました。
最初は原版製造工程です。ここには、一万円札の原版見本が展示されています。お札の原版は高度な技術と豊富な経験を持った工芸職員が作製しており、銅板に刻まれた細微な彫刻を見ていると、日本の職人魂を強く感じることができます。見学後の質疑応答でも、「最新の機械を使えば機械彫刻が可能なのに、なぜ伝統的な方法(手作業)で行っているのか」との質問が出ていました。それに対しては「彫刻機械もあり、他の印刷物では使用しているが、紙幣はまだ手作業の部分が多い。将来新しい紙幣が出る際にはどうなるか分からないが、手作業を大切にしたい」と回答されていたことが心に残りました。日本の伝統的な技術力や職人技は、ぜひ残して欲しいと感じた一瞬でした。

滝野川工場 座学

続いては印刷、ホログラム貼り付け、記番号印刷の工程見学です。使用されているインキは手で押してもへこまないほど、とても固いインキです。(滝野川工場ではインキも工場内で製造しています。)数種類の色のインキを使用し、国立印刷局が開発した専用の銀行券印刷機により凹版印刷とオフセット印刷を同時に行います。ホログラム貼り付けと記番号印刷の機械については特に興味を持ったようで、非常によく観察し、日本側技術者へ様々な質問をしていました。

次に向かった断裁、検査仕上、封包工程では、作業場がとてもきれいで整然とした印象を受けました。工場内のすべてにおいて、研修員も同じ印象を受けたようで「ベトナムの工場に比べ、日本の工場は機械が効率的に配置されており、かつ、整理整頓されている、素晴らしい」と感想を伝えていました。国立印刷局の担当者からは「それは自主保全活動を行っているからです。職場の整理整頓は安全確保にも繋がります。また、機械をきれいに保っておけば、異常があったときにすぐ分かるため、生産性の向上にも繋がっていきます。こういった保全活動はいっぺんに行うのではなく、作業者が自主的に目標を設定して計画的にステップアップを図るようにしています」との説明がありました。地道な取り組みの積み重ねが成果となって表れてくるそうです。

小田原工場 意見交換会

紙幣を印刷する工場であるという性格上、見学風景を写真でお伝えできないのが残念ですが、最先端の技術を前にして、実務経験のある研修員からは専門的で実務に即した質問がたくさん出ていました。
見学後は一時間半に渡り熱心な質疑応答が行われました。印刷環境や材料の取り扱い、排水処理についてなど技術的な質問もありましたが、幹部職員対象の研修ということもあり、「目標を達成させるための手法や組織作りの方法」、「求人の際に専門性を重視しているか」など、業務改善の実務への落とし込み方や管理運営についての質問が多く出ていました。

滝野川工場での3日間の総括の意見交換会では、研修員より「非常に参考になった。印刷所における生産管理体制の整備に際しての参考としたい」「幾つかの事項については、帰国後ただちに印刷所にて応用するべく検討したい」「今回、日本での研修を国家銀行総裁へ提案したことは正解だった」といった感想が出ていたそうです。
ベトナム国家銀行の印刷所をより良いものに作り上げていこうという気概、業務改善を確実に進めようとする向上心、熱い思いが伝わって来る研修でした。ベトナムの通貨ドン紙幣を目にする機会があったら、JICA研修で学んだ多くの技術者達や日本の技術者とのつながりに思いを馳せていただけると嬉しく思います。

【画像】国立印刷局のシンボルとなっている鳳凰像前での記念写真です。
                          
                         産業開発・財政課 内山 綾 (2013年12月)