ネパール水力発電事業の実施監理・運営維持管理能力の向上をめざして:「水力発電計画にかかる設計、建設、運営管理」コース

2013年11月25日から12月13日までエネルギー省とネパール電力公社から研修員16名が来日し、日本の水力発電技術を学んだ研修をご紹介します。

ネパールの慢性的な電力不足への長期的なJICAの貢献

IHIインフラシステム堺工場を見学

JICAはネパールのエネルギー分野の基本計画(マスタープラン)や水力発電所建設等の支援を通じてこの分野を支援しています。同国は、ヒマラヤから流れ出る河川の流量と標高差による豊富な包蔵水力(83,000MW)を有していますが、そのうち開発されているのは約711MWとごくわずかかで、近年は慢性的な電力不足が続いており、乾季には、1日16時間程度の計画停電を起こしています。このような電力不足を解消するための水力開発が急がれており、同国の電源開発を担うネパール電力公社(NEA)のプロジェクト管理能力の向上が必要なことから、プロジェクト管理能力の向上を目的としてJICAが今後3ヶ年にわたって実施能力の促進を支援する研修を行っています。

プロジェクト管理能力強化研修を実施

京都大学防災研究所にて講義を受講

この研修では、参加者を経営層と技術者に分けて、経営層にはプロジェクト管理の基礎から応用、技術者には年度毎に設計、施工監理、維持管理と対象を定め、講義や視察を通じ、プロジェクト管理に関する知見を習得してもらうことを目的としました。今年は、エネルギー省とNEAから経営層6名、技術者10名(設計部門)の研修員が選定され、経営層は11月25日から12月3日、技術者は11月25日から12月13日の日程で研修を行いました。

関西電力(株)の黒部ダム(提高は日本一)

プログラム初日は、研修施設や研修日程の説明の後、研修員がネパールにおける水力開発における課題について発表した後、講義に移るなど、研修員の積極的が参加する形で開始されました。1週目は、水門鉄管工場や水力発電設備を見学すると共に、研究機関にて貯水池堆砂や氷河湖決壊洪水にかかる講義を受ける等、ネパールにおける水力開発に特有の課題についての知見を深めました。

2週目は、経営層と技術者に分かれ、経営層は、契約条件、入札評価、プロジェクト管理、ODAやIPP(独立発電事業者)による水力開発に関する講義を受講し、技術者は、土木設備、機械設備、電気設備の設計、地質調査、環境評価、経済評価等に関する講義を受講した後、ダム再開発現場、高速道路トンネル建設現場、火力発電所、リサイクル、太陽光、風力の再生可能エネルギー発電所、電気機器工場を見学し、プロジェクト管理や設計全般について学びました。

研修中の活発な質疑応答や意見交換により形成された電力セクターの横のつながり

関西電力(株)黒部ダム視察

本研修参加者は、16名という大所帯でしたが監督官庁であるエネルギー省と事業実施機関のNEA、更にはNEAの中でも、経営層と技術部門といった実務者層が、同じ研修を受講したことで電力セクター内の横のつながり、同じ知見・認識の共有ができました。講義や視察中に、連日活発な質疑応答や意見交換が研修員の中で、行われたことは特筆すべき点かと思います。研修後、ネパール事務所において研修員が研修の印象や今後のアクションプランについて発表し、プロジェクト管理能力強化について自己研鑽を続けることの重要性が認識されていました。

日本の技術をネパールへ

関西電力(株)出し平ダムの排砂設備を視察する研修員たち

研修を通して、日本の電力会社の発電設備、電気機器や水門鉄管の製造工場、建設会社の工事現場を見学すると共に、研究機関の成果を発表したことにより、日本の技術をネパール側に広報することもできました。現在、日本企業にとって、ネパールは市場として重要視されておりませんが、今後の発送電設備の新設や既存設備の更新において、日本企業が果たす役割は大きく、本研修では、その進出を促進する機会を提供することができました。

本研修では、水力発電事業の実施監理、運営・維持管理能力の向上のみならず、ネパールの電力セクター間の横のつながり、日本の技術の進出を促進する機会も提供できたことから、本研修は大変成果の高いものでした。

研修成果・アクションプランの発表

JICA本部報告会後の集合写真

研修最終日(経営層)の研修成果の報告会では、JICA側から、エネルギーセクターにおける日本の援助に対して、ネパール側で責任を持って案件実施に努められたいと言葉をかけ、今後のより一層の努力を促しました。また帰国報告会を現地事務所で開催し、研修での学び、アクションプランについて発表してもらい、多くの研修員が、プロジェクトを期日通り完成させることに向けて、関係者間での情報共有や協調することの重要性を認識し、今後の業務に活かすことを努力目標とすると述べました。

研修の持続的効果の発現に向けて

現在、研修員は日常の業務に戻っています、帰国後の研修員は、本研修で得られた「気づき」を所属している部署において水平展開させると共に、各自でアクションプランを設定し、実践しています。今後は、これらの水平展開とアクションプランを、実施機関と現地事務所が協働でフォローアップし、研修で習得した技術の定着とプロジェクト管理能力強化を図っていくこととしています。また本研修を通し、エネルギーセクターの関係者間で横のつながりが醸成され、意思の疎通が円滑に進み、その繋がりが良い効果をもたらしていることも特筆すべき成果です。 

JICA南アジア部南アジア第四課
高橋 克彰 (2013年12月)